隣の幼馴地味子
雪ノ山 噛仁
俺と地味子
「ごめん、俺、好きな人がいるんだ」
俺はそう言って頭を下げる。
相手の女子生徒は少し俯いて、少ししてから背を向け走り去っていった。
昼休み。
俺は先程の女子生徒に屋上へ呼び出されていた。
理由は、まあ告白だ。
だがご覧の通り断った。
ふぅ、と溜息を吐いてから近くにあるベンチに腰掛ける。
そこには購買部で買った昼飯が置いてあった。
校内の喧騒をBGMに一人もしゃもしゃとコロッケパンを頬張る。
「まーた女の子を泣かしてるよこの人は」
友人が呆れながら近づいてくる。
「これで何人目だよ、全く……」
「6人目、かな?」
「はいはい羨ましい限りで」
舌打ちしながら俺の隣に座り、同じくパンを頬張る友人。
6人目。
俺に告白してきた女子生徒の人数だ。
何故か最近モテ期が来ているようで、学年が上がって一か月の間で6人の女子生徒に告白されている。
ちなみにその女子生徒たちとは面識は無い。
遊んだ事も無ければ話した事も無い。
ちょっと廊下ですれ違ったぐらいはあったかもしれないけど、惚れられる要素は思い浮かばない。
俺は只いつも通り平々凡々過ごしていているだけなんだけど。
「俺の何処に惚れる要素があるんだ?」
「いや自覚ないのかよ。
ここ最近のお前、急にイケメン度が上がってるのに」
「そうなのか?」
そう言って自分の身体を見やる。
「……いや、流石に顔は見えねぇだろ。天然か」
そう言って折り畳みの手鏡を渡される。
「――ほう、この鏡に映ってるのがイケメン君ですか」
「はい、悔しいですがそこに映っているのがイケメン君です」
正直よく分からない。
「まーったく、どうやったらそんなのになれるのかねぇ」
「いやホント、何も――」
言いかけてはた、と思い当たる節が浮かぶ。
「……地味子」
「地味子?ああお前の幼馴染の。
アイツがどうしたん?」
「――多分アイツが原因だ」
幼馴染の地味子。
同級生。
あだ名で地味子と呼ばれている俺ん家のお隣さんの娘。
小さい頃からの付き合いで、よく一緒に遊んで……は無かった。
よく一緒に居た、と言う方が正しい。
アイツの親が共働きでよくウチで預かっては面倒を見ていた。
地味子は本当に無口で大人しくて、なんていうか地味だ。すごく。
服装も地味、髪型も地味、趣味も地味、兎に角すべてが地味だ。
ウチに預けられている間もずっと本を読んでいて、あんまり会話も無かった気がする。
時々会話しても淡々と話すだけで面白みも無かった。
ただ俺が外に遊びに行くと決まって後を付いてきていた。
まあそれでもいつも手には本があったけど。
俺が友人と遊んでいる間、後ろで地味子は本を読む。
いつもそんな感じだった。
なんとなく地味子に、『一緒に遊ぶか?』って聞いた事があったっけ。
地味子は……なんて言ったか覚えてないや。
中学生になってからはウチに預けられることも無くなり、すっかり疎遠――にはならなかった。
週に数回はウチに来ては一緒に食卓を囲んでいたり、勉強を見たり見てやったりとしている。
まあ話を戻して、なんで俺のイケメン度上昇の原因が地味子なのかと言うと。
アイツ、俺の身だしなみやらなんやらに
いや煩くは言っていないな。
ただ登校中に俺を追い抜き様にぽつり、
『――身だしなみ、今日は10点』
と俺の身だしなみとか諸々に点数をつけやがる。
地味子なんかに低い点数を付けられるのが腹が立つし、地味子に高い点数言わせたいがために身だしなみ諸々を改善していった――そんなところだ。
「それってさー地味子、お前のこと好きなんじゃね?
地味子好みにしたいとか。
ああ、つかお前の好きな子って――」
「いやそれは無いわー。マジ無いわー。
アイツの好み――は知らんけど、俺の事は眼中に無ぇだろ。
まあ俺もだけど。
それに知ってるだろ俺の好み」
俺はジェスチャーで胸を強調する。
それを見て友人も『ああ』と納得していた。
「お前、巨乳グラドルがタイプだもんな」
巨乳グラドルは地味子とはどう見ても正反対。
ちなみに地味子は胸も――止めておこう。
放課後。
俺は地味子が居るであろう場所へ向かっていた。
さっきウチの母親から連絡がきて、地味子を夕食に招待したいそうだ。
――いや、自分で連絡しろよ。
そう思いながら俺は歩く。
まあ地味子の居場所は多分あそこだろう。
着いたのは学校近くの図書館。
アイツは大体ここで本を読んでいる事が多い。
昔も今も変わらないな。
俺は図書館に入り、奥へ歩みを進める。
地味子は――やっぱりここに居た。
いつもの人の目が届かないような所にいる。
本人曰く『落ち着く』との事だ。
「よっ」
あまり大声にならない程度で地味子に声を掛ける。
地味子はその声に一度は俺を見やるも、すぐに読んでいた本に目を落とす。
本当、変わらないなコイツ。
俺は地味子の対面の席に座る。
その事に地味子は特に気にする素振りも無い。
こちらも気にせず用件を伝える。
「母さんが今日の晩飯にお前を呼んでるんだけど、どうする?」
「うん、分かった。着替えてからいく」
それだけでもう会話が無くなる。
静まり返る館内。
今の時間、ほとんど人もいない。
あまりの静かさに、俺は居心地が悪くなる。
ましてや目の前には言葉を発しない地味な幼馴染。
まあ――用は済んだし、帰ってもいいか。
そう思い席を立つ――
「また、女の子振ったんだって?」
まさかの地味子から話を振られる。
しかも今日の話題だ。
俺は座り直し、
「あ、ああ、うん、そうだけど」
と答える。
すると地味子は本を閉じ、俺に視線を向けてきた。
「――もったいない。
今の内だよ?バラ色の学生生活できるのは」
なんか説教してくるし。
「いや別にいいし。
それに俺が好きなのは――」
「巨乳グラドル、でしょ」
鼻で笑いながら俺の好みを言いやがる。
つかコイツにも知られてるのか、俺の好みを……いやまあ知ってるか、幼馴染だし。
「さっさと誰かとくっ付きなさいよ。
結構
――キミに彼女いるかどうかって」
「……それでなんて答えてるんだ?」
「『いないからいけるかもよ?』って言ってる、事実でしょ?」
まあうん、誰とも付き合ってないからそうなんだけども。
「つか本当に一連の原因、全部オマエのせいかよ。
……オマエは俺をどうしたいんだ」
はぁ、と溜息を吐き、机に頬杖をつく。
マジでコイツの考えが分からん。
「別に。どうにもしないよ。
前にキミが『ちょっと変わった日常にならないかなぁ』とか言ってたし、私がちょっと変えてあげようと思って」
「それがあの追い抜き様の点数かよ。
直接あーしたらいい、こーしたらいいって言えばいいじゃん。
まどろっこしいなぁ」
「言っても素直に聞かないから、キミは。
それに私が前に出てきたら他の女子が告白してこないでしょ。
私と、キミが付き合ってるって話が流れるかもしれないし」
そう言って地味子は本を開き、読書を再開した。
「俺とオマエが?無いわー」
「当人はそう言ってても、周りはそう思ってくれるとは限らない。
まあ精々頑張って頂戴。
――そうそう、あと10人ぐらいは告白予定みたいよ?」
「まーじかー。
つかオマエは告白とかしてこないのか?」
「……私に告白されて嬉しい?」
首を横に振る。
地味子はそれを一瞥し、本に視線を戻す。
「私もキミに告白なんて御免よ。
それに今のキミの慌てふためいている姿が結構愉快だし、その様を――ただ後ろから見ているだけで十分」
本から視線を離さず、淡々と語る地味子。
ただ俺は地味子の言葉である事が思い出された。
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