第31話 瀬戸美月と健司 おせち料理を作る

美月と健司は、仕事納めの後に旅行に行ってきた。

それぞれの実家にもお土産を持っていかねばなるまい。


そこで、美月は実家に電話した。

「もしもし、お母さん?旅行に行ってきたのでお土産を健司さんと一緒に持っていこうと思うんだけど。

 お正月の挨拶といっしょに元旦でどうかしら?」

すると、残念ながら母親のさくらはこう言った。

「何言ってるの、これからおせち料理を作るんだからすぐに手伝いに帰ってきて頂戴」

抵抗する美月。

「え~?私、お節料理なんか作れないわよ」

「そんなことわかってるわよ」

それはそれで傷つく。

「健司さんに来てもらいたいのよ」


仕方なく、暮れも押し迫った時に美月と健司は瀬戸家を訪れていた。

旅行のお土産を渡すのも早々に、台所に呼ばれる。


健司は、さくらに言う。

「すみません、私もお節料理は作ったことが無いのでお手伝いできるかどうか・・」

さくらは、そんな健司の言葉を聞いても意に返さずに言う。

「大丈夫、大丈夫。健司さんならきっと作れるわよ」

「はぁ・・」

「ちなみに煮物って作ったことある?」

「えぇ・・・普通の煮物はたまに作りますが」

「じゃあ、ぶりの照り焼きは作ったことは?」

「はい、何度かありますね」

「じゃあ、里芋の煮っころがしは?」

「はい、あります」

「まさか、なますを作ったことはないわよね」

「あ。一度あります」

「栗きんとんは?」

「それはないですね」


さくらはジト目で健司を見る。

「それって、作ったことがあるも同然っていうのよ?」


それからは、戦場さながらであった。

なます、お煮しめ、田作り、栗きんとん、ぶりの照り焼きなどを作っていく。

それぞれ、大変なのは下ごしらえ。

野菜を切る。

野菜を飾り切りする。

下茹でする。

裏ごしする。

塩を振っておく。

などなど。

美月も、野菜を切る手伝いをする。


ちなみに、父親の菊夫はゴルフに、妹のひなたはスキーに行っていて不在であった。

もちろん、事前に察知して予定を入れていたのであった。


お節料理が出来上がったのは夜遅くになってから。

一つ一つはそれほどではなくても、お節料理は品数が多くなるので大変な作業になったのだ。


「健司さん、美月。お疲れ様でした~」

終わった時には美月も健司も、くたくたになっていた。

「今年は、手伝ってもらったからかなり楽できたわ」

さくらは、にこにこして言った。

健司は言った。

「黒豆は買ってきたんですね。あれは時間がかかるので助かりました」


さくらの目が、キラッと光った。


「あら、時間がかかるって知ってるってことは、作り方を知ってるのよね?

 来年は黒豆も作ってもらおうかしら」


美月と健司は思った。

来年は、大みそかまで旅行の予定を入れておこう・・・

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