第4話 瀬戸美月 彼氏を両親に紹介する ①

そして、日曜日。

瀬戸家に、長女の美月が彼氏を連れてくる。

朝から、父親の瀬戸菊夫は落ち着きなくソワソワしている。

母親のさくらは、落ち着いてお茶菓子の準備をしたりしている。

次女のひなたも、姉の彼氏に興味があるのか、家にいる。

その、長女の美月は駅まで彼氏を迎えに行っている。

「そろそろ来る頃か・・」

ソファに座っていながらも、明らかに落ち着きのない菊夫。

「落ち着きなさいよ、今日はただの紹介だって話よ。」

「でも、もしだよ・・もし結婚させてくださいなんて・・」

「まだないわよ。」

「ううん・・」

もし・・そう言われたら・・どう答えるか・・悩む菊夫。


そんな時、玄関が開く音。

「ただいま〜。お父さん、お母さん連れてきたわよ〜」

明るく・・(能天気に)声をかける長女。

玄関に向かう。次女もその後ろから様子をうかがう。

玄関には、娘とスーツを着た男性。

「本日はお招きいただきありがとうございます。早乙女健司と申します。」


頭を下げて挨拶する男性。

”あら、やっぱり礼儀正しいわね”

「いらっしゃい、お待ちしてましたわよ」

と母親が声をかける。


その男性が顔を上げる。

両親ともに、想定外の事態に思考が停止した。




思っていたより、年齢が上だったのだ。




早乙女健司は、年齢よりは若く見られる方である。とはいえ、美月と同年代にはとても見えない。


”まじかよ姉ちゃん。”

次女のひなたは思った。以前ちらっと見かけはしたが、ここまで年上とは思っていなかった。


母親のほうが先に、思考が働き出す。

「あ・・・げ 玄関ではなんですからお上がりください。」

「では、お邪魔いたします。これ、近所で人気のお店のお菓子なので、お口に合えばいいのですが。」

手土産を渡す健司。


リビングに通された健司は、ソファに座った。隣にはニコニコと笑う美月。

その向かいには菊夫が座る。


「そ・・それで、健司さん。美月と交際しているそうだが・・」

「はい、美月さんと交際させていただいております。」

「ええと・・・失礼だが、健司さんは年齢はいくつですか?」

「39歳です、年齢が離れていて申し訳ないのですが・・」


15歳も上か・・・一回り以上じゃないか。


すると、美月が嬉しそうに言ってくる。

「まだ、30代よ。それほど離れてないじゃない。」

ニコニコと笑顔である。

しかしながら、菊夫には長女の表情からなぜかプレッシャーが感じられる。

その時、妻のさくらがお茶を持ってきた。

それぞれの前に置き、菊夫の隣に座る。

「それで、美月とはどのように知り合ったのですか?」

「はい。私がよく行くイタリアンレストランに、美月さんも良くいらっしゃっており、顔を拝見しておりました。

やがて、会話をするようになり段々と親しくさせていただくようになりました。」

「そうなんですか、素敵な話ですね。」



嘘である。

この話は、事前に美月と健司ですり合わせた話ではあるが、多分に虚飾が加えられている。

まずは、イタリアンレストランではなくイタリアンの居酒屋の常連である。

段々と親しく・・・でもなかった。


さくらはさらに突っ込んで聞いてみた。

「最初のデートはどういうところに行ったんですか?」

「最初は、ドライブに一緒に行きました。信州のほうに行きました。」

「へえ、健司さんからドライブに誘ったんですか?」

それまで奥手だった長女をどう誘ったのだろうと思いながら、さくらは聞いた。

「まぁ、そうですね。ドライブに行くと言ったら快諾していただきまして・・」


これも、嘘である。

店員と健司が雑談でドライブに行くと話しているのを聞いた美月が、無理やりついていったのである。


そう。

実は美月と健司の交際は、美月が健司に対して猛アタックをした結果なのである。


そうとは知らない、美月の両親。

奥手な長女を、健司がどう誘ったのか不思議に思っているのであった。


すると、そこまで無言だった菊夫が健司に聞いた。



「健司くんは美月とドライブに行ったのかね?」

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