眠りエクスプレス
晴れ時々雨
🚃🚋💭
空中に浮かぶ鉄橋に差し掛かる頃、月が顔を出した。雲に支えられた月の放つ光は夜じゅうを照らすが鉄橋の根元は霧が厚く、その下に広がる、デイダラの鏡と呼ばれる湖に映る列車の様子は本当に浮かんでいるようにみえた。こんな名所なのに殆どの乗客は眠りこけている。車掌がまだ起きている客に何かを配りながらやって来て、僕にも同じものを手渡した。
『眠り券』
この切符を切るとよぉく眠れますよ、と見上げた僕に車掌が説明してくれた。
この先も、月に掛かる虹の森とかさざなみ色の星の砂浜とか、見たい名所が幾つかあったが、よぉく眠れるという言葉にとても惹かれて受け取った切符を切って貰うかどうか迷った。
「あなたはどうやってこの列車のチケットをお取りに?」
僕は夢でお兄さんからチケットを譲って貰ったと話した。
眠らずにいたらどうなってしまうのか尋ねたかったが、あれからお兄さんに会ってないことに思い当たり怖くてきけなかった。
「ここは、夢ですか?」
「だとしたらどうでしょう」
僕は、お兄さんに会いたかった。急に淋しくなって車掌を質問責めにしたくなったけれど、彼の柔和な微笑みはどこか寒々しく、それに何となく、もう誰にも会えないような気がして何も言えなくなった。
「切りますか?」
僕は首を振って、もう少し、と窓の外に顔を向けた。
月は森の上で雲を脱ぎ、きーんと輝いている。
眠りエクスプレス 晴れ時々雨 @rio11ruiagent
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