第3話 放浪のカウボーイがやってきた

 マリーシャ・リップルは、大きな瞳で、窓の外に沈む夕日を見ながら考えた。

 あの地の果てまで行って、世界の端の、海水が落ちる滝口にいるという、海っぷちドラゴンに会って、ガチにお願いをしたい。

 だけど、知恵と勇気を称えられし者ってとこが、課題のように思う。

 何か資格のようなものが必要なんだ。認められないとダメなんだ。世の中そう甘くない!

 ――まあ、旅をしながら見聞して、ああしてこうして、なんとかなるでしょう。


 舞台は森深い小さな宿「リップル」。

 マリーシャと、お母さん、おばあさんで切り盛りしていて、父親は風船を付けた籠に乗って帰ってこない。

 でもひょっこり戻ってきては、お土産を沢山持ち帰ってくるので、家庭は何とか円満だ。

 お土産は、山海の幸、石油採掘権、オーパーツ、何でもありだ。

 そんな自由人な父でもマリーシャは大好きだった。

 半年くらい見ない。


「よっ!」

 マリーシャは薪を割ろうと外に出ると、何やらお調子者のカウボーイが声をかけてきた。


「おじょうーさん、手伝おっか、俺、そーいうの得意だぜ」


 腰に銃身の長いリボルバーを下げた、一見すると旅人風の男。

 チャラチャラ飄々ひょうひょうして浅黒い。なかなか端正なルックスで、楽しそうな男だ。

 マリーシャは微笑みながら言った。


「まあ、ご親切にありがとう。でも手は間に合ってるわ」


「ままま、アンタ、宿ここの娘さんだろ? どれ、手斧貸してみな。慣れたもんだぜ、ちゃちゃっと片付けてやらーな」


 男には何か意図があるのだろう。

 たまーに、こういうのがいるのだ、手伝うからタダで泊めてくれという旅人が。

 でも、ご心配無用。


「今日は薪割り、誰が手伝ってくれるのかしらー!」


 マリーシャが大声でぴっと右手を挙げ、宿を囲む森をぐるっと見回す。

 直ちに森のお友達、マンドリルツキノワグマ、続いてドッシドシと親子のアフリカゾウC Dがやってきた。さらに、小さなお友達のシマリスも。


「あなたは……でも、ありがとう」

 マリーシャは手から肩へ、そして首を一周し、チョロチョロと走るシマリスのしっぽに頬を撫でられながら、感謝の気持ちを伝えた。


「――な……?」


 男は動物たちがせっせと薪割りを始めたのを見て、唖然とする。

 マンドリルが、薪割り台にさっと乗せると、ツキノワグマが瓦割りよろしく鋭い爪を振り下ろす。薪が真っ二つ。

 ゾウの親子は、息の合ったテンポで、子ゾウが薪台に乗せりゃ、母ゾウが鼻に巻き付けた斧を打ち下ろす。パッカパッカといい音がする。


「いいこと、薪の大きさは、焚きつけ用と火力用で分けてね」


 おかしら、マリーシャの仰せにどんどん積みあがる薪。


「旅人さん、お食事? それともお泊りになさいますか?」

 マリーシャは彼に直り腕を広げて言った。


「そ、そうだ、ウサギかシカを狩ってきてやる。それでどうだ、今夜、泊まらしちゃくれねえかな」


 この森の代表、マリーシャにとんでもないことを言う、彼の名はワイアット。


 ……どうなっても知ーらない。

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