だから自分語りはやめられない

あんび

安心・安全・快適な職場です

 ここに来てから長い事になるがまあ、ここ数年は特に人目を惹くことが増えたように思う。


 元々は貴い御方の御傍にひっそりと控えるのが我が使命だったのだが、今ではより多くの人に私の見てくれや来歴をきっかけにこの地域の過去の出来事を教授するのが仕事だ。私以外にも沢山の同胞たちが同じ任を貰いここに勤めている。

 そのような事に需要があるのか初めは疑わしかったがこれがなかなか侮れない。以前の職も誇らしかったが、現在のこの職もまあ悪くはないと今では思う。専門の者によって場の管理は行き届いているしな。昔を思い出す、それは即ち己が通って来た道を思い振り返ると言う事。良き事もそうでない事もあったが、それも全て私の物語だ。そう思えばこの先を過ごす活力も生まれるというものではないか。


 さて今日来たのは幼子達とその引率者か。沈黙は金とてまあ語ってやろう、私の昔話を。まず、生まれは――


「カッケー!」

「きれいだね」

「さあみんな静かに。今日はこの民俗博物館で昔の道具と歴史のお勉強をしましょう」

「はーい」

「まずはこの短い刀。これは昔の偉い貴族さんの持ち物で……」

「刀鍛冶さんがその貴族さんに頼まれて特別に作ったんだって!お姫様のおまもりやってたんだってさ!」

「ええ、そうよ。勉強してきたのね、偉いわ!」

「違うよー、そいつがそう言ってるんだ」

「え?」


 覚えておくことだ諸君。

 君達が展示品われわれを眺める時、展示品われわれもまた君達を眺め観察しているのだと。

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