第9話 牛頭の巨漢

 炎のミノタウロスのキャンペーン会場ははじまりの街と次の町との中間地点から脇道にそれた所にあり、行く途中はモンスターの巣窟になっている場所もあるため、原則、単独ではたどり着けないような場所だった。ただ二人以上のパーティを組めば踏破可能なレベルなので、二~三人で挑む者も結構多い。しかし実際に炎のミノタウロスを倒すという成果をあげているのは五~六人以上のパーティが多いようだ。雪と葉月の番になってボス戦が開始されると外野から二人じゃ無理だろう、と言われながらの戦闘となった。全身のあちこちから炎を発する牛頭の巨漢の圧迫感は圧倒的だ。他のペアは数撃のミノタウロスの攻撃で前衛が倒れ、なすすべもなく敗退していくパターンが多かったが、葉月はその攻撃に耐え続けた。巨大な斧から繰り出される重い攻撃の隙間をねらって連続攻撃を叩き込み、HPを削っていく。本来なら支援魔法と回復魔法を立て続けにかけ続ける役割の雪だが、支援、回復は行わずひたすら氷の矢を打ち込んでいった。炎のミノタウロスは大量のHPを削られた後、咆哮をあげて自身のHPを大回復させる。何度かこのパターンを繰り返した後、葉月が諦めたようだ。

 「ダメ。HP削りきれない。二人でも無理みたいだね。」


 ボス戦のエリアから二人とも撤退し、次の人に順番を譲ろうとしたとき、後ろに並んでいたパーティから共闘を申し出る旨を伝えられた。外見がそっくりな双子とすらりとした長身のローブをまとった人物の計三人で皆、女性だ。双子は茉凛、香凛と、長身の人物は杏樹と名乗った。


 「私たちも三人じゃ苦しいから、一緒に組まない?五人なら倒せるかもしれないよ。」


 奥では炎のミノタウロスが咆哮をあげ、HPを最大値近くまで回復させているところだった。最初からやり直しになったが、次は五人がかりである。先ほどよりは勝算は高いはずだ。


 二回戦目でも攻撃の主軸は葉月である。正面から突っ込んでいきボスの攻撃を一手に引き受け、隙を見て連続攻撃を叩き込んでいく。さらに両脇から双子の戦士が剣を振りかざして連携攻撃を仕掛けていく。双子は共に双剣の使い手で舞を舞っているかのような見事な剣さばきだ。炎のミノタウロスが茉凛めがけて攻撃を繰り出すと茉凛はひらりと攻撃をかわし、その隙に香凛がミノタウロスの急所を突いていく。ミノタウロスが香凛へと攻撃対象を変えると、今度は茉凛が攻撃を開始する。効果的な連携でミノタウロスのHPを削っていった。杏樹は双子の回避能力と急所への攻撃確率を高める魔法を断続的に掛けている。咆哮をあげての大回復後も順調にHPを削って行き、炎のミノタウロスは苦悶の雄叫びをあげて、次は子ミノタウロスを大量に召喚した。子ミノタウロスは、サイズは小さいが数を頼みに押し寄せてきた。


「私たち、前回はここでやられたの。数が多すぎる。」


「任せて。雪も何とかするの、手伝って」


 言うが早いか、葉月は子ミノタウロスの集団に飛び込んでいって、目にも止まらない攻撃で数を減らしていく。雪も最大量の氷の矢を子ミノタウロス達に連発でお見舞いし続けたところ、数瞬後には子ミノタウロスの数は激減、しかし炎のミノタウロスが再び雄叫びをあげて召喚した子ミノタウロスが迫ってくる、ということが数度繰り返された。


 葉月と雪が子ミノタウロスの相手をしている間、双子は本体である炎のミノタウロスへの攻撃を続け、確実にHPを減らしていった。大回復の咆哮をあげる兆候を見せたところで葉月が攻撃対象を変えて本体へ集中攻撃を加えたところ、様子が変わった。大回復の咆哮をあげず、狂ったように攻撃を仕掛けてきて、こちらからの攻撃する隙が無くなってしまった。正面、左右からの攻撃は難しくなったため双子は後ろに回り込み攻撃を仕掛けていった。炎のミノタウロスは攻撃を受けた方向へ向き直るので、双子の方向を向けば葉月が、葉月の方向を向けば双子が攻撃して残りのHPを削っていった。するとついに炎のミノタウロスは力尽き、倒れながら輪郭がぼやけていった。同時に子ミノタウロスも姿を消し、後には大きな肉塊5個を含む戦利品が残されることになった。


 おお、という観客の歓声とともに、葉月の弾けるような喜びの声が聞こえてきた。


 「やったー。ついに、ついに倒したよ。」


 「おめでとうございます。あなたたちもボス攻略者になれましたね。」


 杏樹から祝福の言葉を掛けられ、ほかの四人は疲労を吹き飛ばすような笑顔を弾けさせた。五人は順番待ちの後続にせかされて戦利品を拾い次の番へ場を譲ったあと、脇に居る観客に混じってしばらく談笑することになった。杏樹はとあるギルドに所属しており、既に炎のミノタウロスを倒した経験があるそうだ。ギルドとは、ゲーム内で行動を共にし、協力し合うメンバーの集まりのことだ。他のギルドのメンバーは皆社会人で、リアルの時間での夕方以降に行動を共にしているとのこと。自身も仕事をしているが夜勤もあるシフト制なので平日の昼間、手が空いていてたまたま茉凛、香凛と出会って臨時パーティを組んでいたそうだ。茉凛、香凛はリアルでも本当の双子の姉妹とのことで、息のあった連携もうなずけることだった。三人で二回、炎のミノタウロスに挑んで破れ、三度目の正直ともう一度挑む所だったそうだ。また機会があったらパーティを組みましょう、とその場でお互いに友達登録をして、AO内で連絡が取れるようにしたあと、三人は制限時間が来たからとログアウトしていった。

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