第7話

「──嘘ですよ」








 彼女は突然俺にそう告げる。




「嘘ですよ。全部嘘なんです。私はただ……祐太くん、あなたと一緒にいたかった。ただ、それだけの理由でここにやって来たんです」






 先ほど、ボソッと呟いた俺の名前。寝言だったのか、何なのかは分からない。


 しかし、"祐太さん"ではなく、"祐太くん"と、彼女が何故そのように俺のことを呼んだのか。






 それは、彼女が昔の俺のことを知っているからだ。




「タイムリミットが2週間なんてこと……嘘です。2週間で、私の正体が分からなくたって……祐太くんは死んだりなんかしません」




「……どういうこと?」




 彼女の声が震えているので、なるべく優しくそう尋ねた。彼女は、俺の目を見ようとはしない。近づこうと、足を一歩踏み出した瞬間、彼女は焦って話を始めた。




「たっ、ただっ……消え去る前に、もう一度だけ祐太くんに会いたかったんですっ……!最後に一目でいいから、あなたの姿が見たかった。それだけで満足する筈だったんだけど」




「俺がミユの姿が見えてしまったから、それだけで終われなくなった」




「……そう」




 ミユは更に俯いてしまう。




「祐太くんの記憶に少しでも私が残るように、少しでも長く一緒にいられるように……あんな嘘をついてしまったの……。ごめんなさい」






「別に謝って欲しいと思っていないよ。




 ……でも、今までの話を聞いて分かった。"ミユ"っていう名前にも、ずっと引っ掛かってたんだよ。あと、祐太くんって呼ぶのにも何か理由があると思ってた。ミユ、お前は……














──人形なんだよな?」








 俺のその言葉に、ミユはようやく顔を上げた。驚いているような、でもそう言われることを分かっていたような、何とも言えない表情。




「……そうだよ。私は人形。祐太くんの部屋で、ずっと大切にされ続けてきた……ううん。あなたがおばあちゃんの形見として、どうしても手放せなかった人形なの」






 先ほどまで見ていた夢を思い出す。


 俺は誰もいない部屋で誰かに話しかけていた。でも、俺の目の前には存在していた。ミユという名前の可愛らしい女の子の人形が。




 ボロボロになったランドセルも、机の上に積み上げられた教科書も、俺がいじめにあっていた証拠だ。


 小学校高学年になってまで、そんな可愛らしい女の子の人形を大切にしていたから、馬鹿にされ、気持ち悪がられた。




 祖母の形見なのに。


 大切な物なのに……。








「祐太くんは、いつも私に対して色んな相談をしてくれた。そして、話が終わると『ミユは僕のお話を聞く名人だね』って言って毎回笑ってた」




 そういえば、ミユが前に言ってた。


 私は、人の話を聞くのが上手だって。それを、俺に認められているって。そういうことだったのか。


















「そして、中学生になった時……私は祐太くんの部屋からいなくなった──」






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