第5話

ブーッ……ブーッ……。




 鞄の中から聞こえるバイブ音。その音に、まわりの学生何人かが、俺に視線を向けた。


 マナーモードにするの忘れてた……。


 こっそり鞄からスマホを取り出すと、画面をつける。設定を弄ろうとしたその時、画面に表示されている文字を見て俺は驚いた。




 母親からメールが届いている。




 滅多なことがないと連絡してこない性格なので、何かあったのかと心配になる。恐る恐るメールボックスを開くと、メールを確認した。






『元気ですか?


そろそろおばあちゃんの命日ですが、帰ってきませんか?』






 それだけを読むと、マナーモードに設定したスマホを鞄にしまった。


 教授の声をボーッと聞きながら、俺はあることを考えていた。




 ミユのことだ。




 正確に言えば、ミユが『大好きな歌なんです。』と言った鼻歌のことだ。


 その鼻歌について俺は思い出していた。あの鼻歌は、俺が小さい頃よく口ずさんでいた歌だったのだ。それをミユが知っていて、大好きな歌だと言う。好みが被っていただけと言えば、それで解決出来てしまう話だが、彼女はそのことについて深く語ろうとはしなかった。




 昨晩、鼻歌のことについて彼女に尋ねた。
















『ミユ。その鼻歌って……俺が昔よく歌ってた歌だよな……?』








『……さあ?何のことでしょうか?』








『しかもミユ、お前は俺に会ったことがあるって言ったな?そして、俺に聞き上手だと認められているとも言った』








『……そんなこと言いましたっけ?』








『……お前は、俺の過去のことをよく知っている……。つまりお前は──』








『──祐太さん。もう良いじゃないですか。あと、3日もすれば2週間経つんですから。……あと3日くらい……側にいさせてくれても……良いじゃないですか』


















 彼女は、真実を語らせたくないようだった。その表情があまりにも悲しげで、それ以上何も言うことが出来なかったのだ。




 あと3日。その言葉が、俺の胸を締め付けた。もう、いっそのこと正体なんて暴かなくてもいいじゃないか。最終的にどうなってしまうのかなんて分からないけど、今は余計なことなんて考えずに、彼女と過ごす日々を楽しもう。




 その方が彼女のためにも、俺のためにもなる筈だ。




 そう考えると、少し気分が軽くなっていた。




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