第3話
『……それは……第一のヒントですよ。祐太さん』
『…………え?』
「──ありがとうございましたー」
店員の感情のこもっていない挨拶を聞きながら、コンビニを出る。
昨日のことを思い出すと食事も喉を通らず……なんてことは全くなく、いつものようにコンビニで買い物を済ませて家へと向かう。
大学生活を始めて、いつから自炊をすることを諦めただろうか。やる気があるのは最初だけで、コンビニ弁当に頼るばかり。自分でもだらしない生活を送っていると思う。
そんな俺の平凡な生活は終わりを告げてしまった。
そう昨日の夜から俺の家に住み着いている、"ミユ"という幽霊によってだ。
自分の身に起きていることを信じたくはなかったが、今朝もヤツは存在していた。爽やかな笑顔で「おはようございます。」と挨拶をしてきたのだ。
そんなことを考えながら、アパートの階段を上がる。上がりきってすぐのところが俺の部屋だ。
鍵を差し込んで回す。カチャリと音がしたのを確認して、ドアを開けると部屋の電気がついていることに気がつく。
……おい。電気代ちゃんと払えよ。アイツ。
狭い廊下を通り、静かに扉を開けると部屋の隅に座っている彼女を見つけた。
「……あ、おかえりなさい!祐太さん!」
俺に気づくとパッと表情が明るくなる彼女……ミユ。その純粋な姿に少しドキッとしている自分がいた。
「……ただいま」
机の上に、弁当が入った袋を乱暴に置き、背負っていたリュックサックも床に投げる。
「……機嫌悪いですね?」
「どうしてだろうねー」
「……大学で何かありましたか?」
「別に」
俺があからさまに不機嫌な態度を取るので、彼女はムッとして頬を膨らませた。
「何かあったら言葉にするのが1番ですよっ!!私、人の悩み聞くの上手ですし!」
「そういうのはね、自分で言ったら嘘っぽくなるんだよ?」
「自分で言ってる訳じゃないです!私、ちゃんと認めてもらってるんですから!」
「へー、誰に?」
「祐太さんに」
「…………は?」
真剣な表情で俺にそう告げる彼女。
おいおい、コイツ本当に大丈夫かよ……。
「……何言ってんの?俺がいつお前のことを認めたんだよ?会ったこともないのに?」
「昔の話です。あと、私はお前じゃなくてミユです。それに会ったことはあります」
早口で俺の問いに答える彼女、ミユ。彼女は、俺をしっかりと見つめ、目をそらそうとはしない。
「……はぁ、飯食うわ」
「どうぞ、ご自由に」
考えるのも面倒くさくなって、俺は立ち上がる。袋からお弁当を取り出すと、電子レンジへと向かった。
俺、やっぱり疲れてるんだわ。会ったこともない女……というか未知の物体を褒めたことがあるわ、本当は会ったことがあるって言われるわ……。
もう、何がなんだか分かんねぇわ。
とりあえず、さっさと飯食って風呂入って寝よう。アイツの相手をしてたらキリがないわ……。
そう考えながら、弁当が温まるのを待った。
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