未姫(ひつじひめ)の困惑 第1部

布留 洋一朗

第1話 えっ、父上と兄上のお命が?

「え、ええっ、う、うっそー」 

 藤の国を治める海燕公・朽木エドワン光義の第三王女、未(ひつじ)姫ことメグは、絹より帆布の裂けるのを連想させる声を上げた。

 はしたないのはわかっているが、悲鳴でも上げないと気が変になる。


「ち、ちちうえとあにうえが行方知れず?おまけにそれは、家老の内藤洞山のしわざですってえ。裏切り、いわゆる謀反ってやつ?」と、いいながらメグはのけぞっていた姿勢を元に戻した。運動は苦手でも、腹筋はわりに得意だ。

「しっ、しっ、メグさま」姫の忠実な老女、イライザお福は懸命に音量を抑えるよう頼んだ。「大声などつつしまれるよう、最初に念を押しましたでしょう。たとえこの部屋でも、誰が聞いているかはわかりませぬ」

 ちなみに未姫というのは彼女の称号である。公式には未姫アルオーラという。

 メグというのは彼女の少女時代からの通り名であり、近しい人はこう呼ぶし、姫本人も周囲にそう呼んでくれるよう頼んでいる。

「心の輝き」を意味する古語にちなむ名をつけてくれた祖父には悪いと思いつつ、正式な名は座りが悪く感じてならないためだ。

 

「でも、これほどの大事を黙って聞くのは、無理です。しかも洞山がこの館を狙っているかもってところで知らせが終わってるなんて、続きものの講談みたい。いったい、どうしろというのかしら。皆が身を隠せる地下の洞窟なんて、ここにはないわよね」

「落ち着きなさい」お福は自分も動揺の気配を見せつつ繰り返し首を横に振った。「そして自ら判断なされませ。覚えておいでか。今は亡きお爺さま、鳳鳴公はわずか十五歳のみぎり、故国の城が焼け落ちた報を聞いても少しも慌てず……」

「あの話には裏があると、おじいさまに直接うかがいました。まあ、いいけど」

 

 生前から伝説級の武将だった祖父は、末の孫であるメグをことのほか可愛がり、兄や姉、父にも教えなかった経験や裏話を彼女だけに聞かせてくれていた。

 今日のような異変に際しても、祖父ならメグの安全をあらゆることに優先したに違いないし、存命であれば不安は激減しただろうが、どうしようもない。

 

「謀反人は洞山かあ。なにが狙いなのかな……」

 裏切ったとされる家老の内藤洞山という人物は、もちろんメグだって知っている。父の親族、ということはメグにとっても親族にあたり、親子二代にわたって父の治世を支えてきた。

 風采のいい五十男で、物腰は柔らかく仕事ぶりは綿密だった。誰もが認める英雄的人物ではあっても、時に細かい取りこぼしのあった父を、巧みに補佐する実直かつ有能な人物というのが世評だったし、メグもそれを信じていた。また、広大な領地を有し、収入面での不満などないと思われていた。ただし、たしかに反乱兵を組織できるぐらいの余裕ならある。

 彼はいったい、周到な用意の上に謀反を起こしたのか、目の前に現れたチャンスに飛びついたのか。

 

 うーん。考えながら爪を噛み始めた彼女に、お福は渋い顔を向けた。

「メグさま」

「だって」

 そう言いつつ、渡された書状をあらためてじっくりと読む。

 差出人は、父の秘書官グループを束ねる用人頭の寿言。文字は乱れに乱れ、慌てて書かれたのはわかる。

 そこには、祖先の霊廟を目指して移動中、にわかに起こった川の氾濫に巻き込まれ、父と後継予定者の兄がそろって消息不明になったと伝えている。そして、突然の氾濫は自然現象ではなく、仕組んだのは洞山だとはっきりと記されている。このあたり、にわかに信じがたい。そんなにうまくいくものかな?

 さらに文末には、洞山は黒鷺館の襲撃をも目論んでいるとしるされてあるが、兵の規模や指揮官名などはなく、メグになにをどうしろとも一切書いていない。

 なんとなくだが、ここまで書いたところで、別に気をとられる出来事があって端折られたように感じる。たぶん気のせいだろうけど。


 急ぎ書きの手紙に、囚われすぎるのもよくない。そう考えたメグは冷静になろうと、手に持ってひらひらさせた。

「これじゃまるで脅迫状だよ。さて、これからどうすべえ」

 だが、しわぶきに続き、「ものには限度があります」とまた、お福の指導が入ってしまった。「狼狽なさるのも程々に」

「だってお福、こんな手紙をもらうのは、生まれて初めてだもの。ここで驚かずにどこで驚くのです」

「それはそうですが、身分ある方が軽々しく悲鳴やら唸り声をあげるものではありませぬ。ひらひらも良くない」と、彼女は説いた。「悲しみは内に秘め、雄々しく変事にたちむかうのです」

 高名な水軍指揮官を父に持ち、幼いうちから操船と自制を叩き込まれたお福によると、メグのような立場の人間は、どんなに心が騒いでも山のように平然としているのが正しい態度なのだそうだ。これもまた理想論に過ぎる気がした。お福の亡父だって、娘の説教にレギュラー出演する自分の姿を知れば、「おい、それは一体、誰のことじゃ?」って言いそうだ。


「困るぐらい、いいじゃない」咎めるようなお福の視線を跳ね返しながら、メグはふたたび腕を組んで考えた。

「しかしよりによって、この館に襲撃を受けるなんて。場所が悪すぎる。焼き討ちにはうってつけだもの」

 メグの遠慮ない言葉に、お福はなんともいえない顔になったあと、おもむろに重たげな腰をあげ、「とにかく、身の回りの品をまとめます」と、荷造りをはじめた。彼女の判断も「脱出準備」を選んだようだ。


 二人がいる黒鷺館は、二百年以上前に建てられた祭祀兼天候観測用の施設である。形としては断崖に設けられた山砦であり、そこに至るまでの坂道にもところどころ神域があって、古くからこの地で祭儀が営まれてきたことをうかがわせる。崖と、その下を流れる比較的流れの早い川に守られてはいるが、逆に言えば他の防御施設は無いに等しい。

 建屋は今回の儀式に合わせて改修したが、基本は以前の木と石でできた素朴な建物のままだ。父・海燕公が入館後に使う予定の祈祷室や広間に関しては、やり過ぎぐらいのしっかりした構造となっているが、他の居住区についてはいたって簡素なつくりをしている。

 メグの寝所、すなわち今いる部屋など、昔の天候観測時の待機スポットだったそうで、姫様の居室にしては冗談のように狭く、彼女は自ら「狸の寝床」と呼んでいた。火をかけられたら、燻り出されるより前に丸焼きとなるに違いない。


 戦に向かないのは館だけではない。

 黒鷺館のあるあたりは、祭祀に適した気候・方角だというので古くから神域として準中立地帯扱いされ、入域のしばりも緩かった。そのため、自然発生的に市が立ち、次第に参道沿いの商店街が形成された。崖を下ってぐるりと回り込んだ先に広がる「鷺の巣」と呼ばれる一帯だ。

 陸路は複数あるし、水路だって長年の間に急流を緩和する中洲や堤が整備され、乗船も荷物の積み下ろしも容易だ。気候の穏やかな季節ともなれば、「黒鷺巡礼団」とのぼりを掲げた高齢者団体だってやってくる。ときどき公開される黒鷺館に参って手を合わせ、神々しい風景に打たれたあとは、鷺の巣で休んだりご飯やお酒を楽しんで機嫌よく帰途につくわけである。館にきてからのメグは、団体客にこっそりと近づき、語らいを見物したこともあった。

 

 その一方、国境に近いにもかかわらず、隣の港にあたる矢後まで行かないと砦も軍隊もない。ここを抑えても政治的・軍事的にメリットがないためだが、まさか自国内から攻められるとは思いもしなかった。

 これが、仙人に例えられる霊力の持ち主だった母方の祖母なら、たとえ大軍が攻めてこようが、押し寄せる軍勢を見当違いの岸に上陸させ、そのままなんとなく達成感を与えて帰還させるぐらいやってのけたろう。だが、孫にそんな技はない。メグの得意とするのは、ちょっとした占いとひたすら真面目に祈ること。あとはどこでもよく眠れてしまうことだ。

 ダメダメ、今回はそれじゃダメ。彼女は心の中でブルブルと首を振った。

 今後の成り行きを占おうとの考えがよぎったが、ここまで心が乱れては難しい。とにかく冷静になるようつとめ、次の展開を考えてみた。


 –––– もし、わたくしたちがここに籠城したら。

 上策とは思えなかった。へたに立て籠ったら、敵は館とその周辺に火を放つ恐れがある。そうなれば、鷺の巣に暮らす人々が命の危機に晒される。しかし、あっさり降参しても、こちらの言い分を聞いてくれるかは、わからない。むしろ、謀反という後ろめたさのために証拠隠滅を図るのが自然だ。

 脱出するなら陸路か水路か。船による脱出ならお福が頼りだ。彼女の操船の腕前はメグがよく知っている。ただ、この地にきてから気候が合わないのか、腰痛と神経痛を繰り返しているのが気がかりだ。陸路はもっと無理だろうが。

 

 メグの思考は行ったり来たりしていても、館の戦力を期待する気持ちだけは皆無だった。いちおう館には、曙川という警備責任者がいる。だが、相談する気はぜんぜんない。兵力はごくわずかだし、曙川は箸にも棒にもかからない人物だった。よりによって、これほど無能な守将を配置したのは、もしかしたら家老の陰謀かもしれないとさえ思う。いや、きっとそうに違いない。

 彼らは別棟にいて、まだこちらから状況は伝えていないそうだが、まあいいやと思う。あちらの棟には二人の青年武将、というかメグの将来の夫候補者とその家臣らがいて、どうせ身内からの密使によって情報は伝わっている。

 いずれ劣らぬ名家の出身、見た目的にも松クラスな夫候補らに対し、自分でも不思議なぐらい気持ちが向かなかった。まず、さっぱり関心が湧かない。


 「遅くなりました。メグ様、お着替えを」お福がふかふかに乾いた衣類を持ってきてくれた。

 さっきまでのメグは、早朝から日の暮れるまで崖の中腹に設けた神域に詰め、ひとり神事に取り組んでいた。それも風の吹く絶壁に少し身を乗り出して行うワイルドな祈りであり、白無地に腰や袖を荒縄で縛ったすごい衣装のままだ。泥や草の汁もまだついたままだし、顔も湧水を使って軽く濯いだだけである。とても人前には出られない。

「ま、今度の儀式だって中止よね」と、どこかせいせいしてメグが言うと、

「……おそらくそうなりますね」お福はさっきまでと一転して、ものすごく申し訳なさそうな顔をした。

「あなたのせいではないですよ」

「いえ、ここに私がおりながら」お福はごしごしと顔をこすった。「残念でなりませぬ。灘の方様にどう顔向けをすればよいか。亡き鳳鳴公さまも、メグ様の晴れ姿を楽しみにしておられたのですよ」

「とりあえず、二人そろって各方面には知らん顔をしていましょう」


 彼女らが藤の国の首都にある城からこの地にきたのは三月ばかり前のこと。

 目的はシンプルに、黒鷺館にある複数の神域を使って「雲の儀式」とも「風読みの日」とも呼ばれる祭祀を執り行うためである。

 これは、およそ百二十年ぶりに復活される儀式であり、かつての主祭人がそうだったと伝わる十七歳にメグがなるのを待って一連のスケジュールが開始した。

 かいつまんで言えば穏やかな天候が続くのを祈願する儀式であり、潔斎と細かな神事を重ねる期間まで入れると、前後五十日程度を要する。そして計画通りなら、あとひと月たらずのうちに国主たる海燕公自らが館まで出張ってきて、総仕上げを行うはずだった。ついでにその際、人も大勢連れてきて館の人手不足を解消する予定だったが、これはもはや、なくなった。

 というより祭祀は中止だし、なにより黒鷺館自体がこの世から消え失せる可能性もある。いや、もうほとんどそうなっている。

  

(そういえば、お腹空いたな……)

 朝から白湯しか口に入れておらず、とても空腹だったのだが、しょんぼりしたお福の姿を見ると言い出しかねた。様子を見て隠してある干し果実でも食べよう。鷺の巣の市は珍しい果物が揃い、食通にも知られているのだ。

 ふとメグは、用人は同じ手紙を、国の外にいる母と姉にも送ったのだろうかと考えた。わからない。ただ、ふたりの姉はどちらも藤からさほど遠くない国の領主に嫁いでいる。母の住む国は遠く、とっさに頼れるのは二人の姉の元だろうが、これだって全く信じられるかはわからないし、待ち伏せだってあり得る。


「あっ、そうだ」メグはまた思いつきを口にした。「これが本物の手紙と決まったわけではないわよね。もしかしたら、わたくしたちを誘き出す罠かも」

 そう言ったとたん、「姫様、ただいまこれが」と、お福の助手にあたるイオノ・お蘭が小さく畳んだ紙を持って駆けてきた。城に隣接する飛燕文庫という施設の長からの手紙だった。鳥を使って送ってきたようだ。


「やだわ。やっぱり事実みたい」新着の手紙を読むと、用人のそれを裏書きする内容だった。こちらには一応、「館に危険が迫っている様子、急ぎ御身を隠されよ」と助言があった。施設長とは交流があり、筆跡にも間違いはなさそうだ。

「一寸先は闇って、ほんとうね」急にさまざまな感情が湧いてきて、足が震えるのをごまかすのに苦労した。


 メグの生国であり父が治め、そして彼女たちがいまいる藤の国は、参州と呼ばれる一帯に属していた。

 ここには大小十三ばかりの国があり、長年にわたって二つないし三つの勢力に分かれ大小の競り合いを繰り返してきた。その中にあって藤の国は、メグの祖父である鳳鳴公、そして父の海燕公と傑出した指導者が二代続いたことで勢力を飛躍的に増やし、ここ四十年ほどのうちに参州随一の国へとのし上がった。

 特に鳳鳴公は、軍事・経済に比べ見劣りのした藤の国の霊的な充実を、伝説の国、双樹との同盟によって一挙に果たした。双樹が参州の国と友好国以上の関係を結ぶのはこれがはじめてであり、さらに妻を亡くした息子の後添えに、双樹の国の王女の一人を迎えたのは、天下を驚倒させるのに十分だった。

 その王女こそメグの母親である。


 双樹は国土も人口も決して多くはない。ただ、独特の自然と文化を有するこの国は、優れた通力を持つ者を多数輩出してきた「天に近い地」であり、都をはじめ全国の宗教的リーダーたちも、この国にルーツのある人間ばかりだった。

 とりわけ、「仙女王」と畏れ敬われた祖母に認められ、その霊的な力を最も受け継いだとされる母を跡取りの正室へ迎え入れたことは、いつまでも軍事・経済だけの蛮国扱いを受けていた藤の国の面目を一新した。

 それから二十年。

 メグの母である「灘の方」は、一年半ほど前に藤の国の筆頭祭祀としての地位を娘に譲り、祖母もいた双樹の国のさらに端にある文書院の長として、すごい量の荷と一緒に引っ越して行った。メグも目の前の祭事が終われば、ゆっくり訪問するつもりでいた。


 ところが、つい先日、「嫌な夢を見たので身辺に気をつけるよう。それとお守りを大切に。どこかに置き忘れたりしてはいけませんよ」との内容の手紙を娘あてに送ってきた。母はかなりの筆まめだが、ふだん書き送ってくるのは面白い見聞や書物の紹介、あるいはあの土地の食べ物が美味しいと聞くが貴方は知っていますか、といった軽い内容ばかりのため、その日の手紙は印象に残った。

 –––– つまり母上の予知夢は、見事に的中してしまったってことね。さすが筋金入りの巫女さま。私はなんにも感じず、毎日ぐうぐう寝てたわ。

 はあ、とメグは首を後ろにのけぞらせた。

 忠実なるお福とお蘭は、見ないような顔をして、あるじの内心が気になってならないようだ。彼女ら前であまりな姿は見せられないが、許されるなら、

(うわーん、どーしよー。ほんとにどーしよー)と泣き叫びたかった。

 今日はじまったばかりの彼女の困惑は、すぐには終わりそうになかった。


「えいほう」

「えいほう」

「ほほほほ」

「やっほう」

 地響きのような掛け声に合わせて、豪奢な輿を囲んだ集団が山道を進んでいく。暗い道に湯気が上がっていのは、彼らの放つ汗が蒸散しているのだ。

 輿に取り付いた担ぎ手は、計十二。分厚く毛むくじゃらな体のうえに、鉄と馬革を組み合わせた鎧をつけ遠目には人に見えるが人と言い難い。

「えいほう」「ほほほ」だが、低く放つ掛け声は人と変わらない。この連中は、妖術を使って獣に人の要素をあたえた存在で、連中の主人は妖魔獣と呼んでいる。よく見ると牛、馬、熊と顔の種類はちがうが、どれも同じような鎖帷子を着込んでいる。そして体の大きさはだいたい同じぐらいだ。

 その前後には、担いでいるのよりやや小柄な、二足歩行の妖魔獣が長槍を持って付き従っている。こっちは犬っぽく、前後五十ずつはいる。さらにその後ろには妙に人間臭い巨大な猪が四肢でもって付き従っている。これも五十はいそうだ。その他正体不明のが二、三十体はいて、ようやくそのうしろに装備を身につけた人間の男たちが行列となってくっついている。妖獣と人、すべて合わせると、兵の数はおよそ千に達する。


「なにをいまごろ、いうとるのだ。もう国境を越えるところじゃあ」

 暗闇に人間の声が響いた。輿の真ん中にふんぞり返っていた年配の男が、馬を並走させながら懸命に話しかけている兵を罵った。

「どこの馬鹿だ、それは。まさか若ではあるまい」

 言われた相手は困り切った顔をしているが、きらびやかな軍装に身を包み、高級将校なのがわかる。

「は、御用取り次ぎのサハシ様です」

「サハシい」輿の上の男、堀内豪胆斎は首を何度も横に振った。「あの馬鹿か。伝書鳩にもならん。お前、さっさとサハシに、余計な解釈を加えず、事情を若に正しくお伝えせよと言え。それに、迷ってる時間はないともな」

「は、それはわかっておりますが」

「なんなら、お前が直接若に上奏せよ。わしは間も無く、あの方のためにひと働きせねばならん」そして豪胆斎は片手を横に振った。行け、ということだ。

 しかし、それでもまだ困り顔で並走する将校に豪胆斎は優しい口調になった。

「あのな。わしはな、田舎町に小娘を拐かしに行くのではない。相手は鳳鳴公と仙女王の孫。おまけに、とんでもない逸品付きよ。これを知って止めたり余人には任せよというのは、自ら阿呆と認めるようなものだ」

「はあ」「それともなにか。お前たちに、どんな力を隠し持つかわからん最強の魔女の裔を、きっちり捕らえる自信はあるか?下手すれば、一族郎等永遠に呪われる恐れもあるぞ」

「はあ」情けない声のあと、騎馬の将校は徐々に後ろに下がり、ついには反転してどこかへ駆けて行った。


 すると、猿か人か見分けのつかない小柄な影が輿に飛び乗り、豪胆斎の耳元になにごとか語りかけた。ちゃんと鎧を着込み、肩に小さな鳥をとまらせている。

「ほほう。きな臭い影か。よし、すまんがもう一度、今度はミゲルに指示をもらって調べに行ってくれ」と豪胆斎は、後方の妖魔獣たちに騎馬で付き従う笠をかぶった人物に指で合図した。笠がうなずいた。

「それ、おもしろくなってきた」豪胆斎は両手をすり合わせた。「もしかしたら一石二鳥かもな。おまえたち、今宵こそしっかり気合をいれてくれよ」

 うなるような返事が担ぎ手やその周囲の妖魔兵たちから届き、豪胆斎は満足したように輿の上でうなずいた。

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