VOL.7

『我々は時空の歪みを調整し、過去を変えることを阻止するのが任務なのだ』

 腕が落ちた男の肩からは、青白い火花が飛んでいる。

『あの男が時空の歪みに生じた穴からこの時代に落ち、その上彼が自分の過去を記した書状を携えていたことが判明した。』

『要するにあんたら時空警察、いや、時空調整官・・・・どっちでもいいが・・・・は、吉良上野介義央は永遠に悪役でいて貰いたい。もし彼の手によって真実が明らかになってしまったら、歴史も変わってしまう恐れがある。それでその書状を取り上げて、という事なんだな』

 だが、二人は俺の言葉には、イエスともノーとも答えなかった。

 アンドロイドだからな。おそらくプログラムされた言葉しか喋られないんだろう。

『しかしお前たちはそれに失敗したって訳だ』

『ナ・・・何をバカなコトを・・・・ワレワレが失敗シテモ、次ニ又新タナ・・・・』

 次第に奴の言葉がおかしくなってくる。

『そうしたらまた俺達がやっつけてやるよ。何しろこっちは人間だ。機械なんぞに負けるほど落ちぶれちゃいない』

「・・・・』

 火花が散るような音がして、二人とも(いや、奴らはアンドロイドだ。”二体”と呼ぶのが正確だろう)、機能を停止し、最初の一台と共に倒れ、そして青白い光に包まれて消滅した。

『さあ、こんなことをしてられん。早く寺の中に入ろう』

 俺達は急いで山門を潜り、本堂のすぐ近くにある受付に走った。

 

 受付で案内を乞うと、作務衣姿の副住職が出てきた。

(何でも住職は今所要で外出しているという)

 俺は認可証ライセンスとバッジを示し、あらかたの事情を説明したが、当然向こうは信じてくれない。

 まあ、当然と言えば当然の反応だろう。

 しかし、左近殿がニット帽を脱ぎ、額の傷を示し、俺なんかより詳しく話をしてみせると、半ば疑いながらも座敷に上げてくれた。


 座敷(というより応接間だが)で、左近氏が差し出した書状を広げ、それをつぶさに確認した副住職氏は、

『・・・・この寺にも、勿論吉良公の書状は幾つも所蔵されています。細かく調べてみないと分かりませんが、この書状は吉良公のものに似ていますな・・・・』

 それでもまだ腕を組み、疑い深そうな顔で左近氏の顔を眺めている。

『そこもとに信じて頂けないのも無理からぬところじゃ。しかし拙者は断じて狂人などではない。』

 彼は強い調子で身を乗り出し、副住職氏に詰め寄る。

『副住職さん、私はこの人が間違いなく、吉良上野介義央公だと確信しています。信じようと、信じまいと、これは事実です。』

 後を引き取って俺は言った。

『分かりました・・・・ではこの書状は預からせて下さい。お返事は後程差し上げます・・・・』

 やはりまだ完全には信じていないようだ。

 これ以上話しても無駄だな。

 俺と左近氏は顔を見合わせる。

『どうしますか』

『己の家の菩提寺まで来て信じて貰えぬのは口惜しい話ではあるが・・・・それもやむをえまい』

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