山ん婆の昔話/霧に濡れてる野辺の花

やまの かなた

第1話

  今日もお山のてっぺんで

  一人ぽっちの山ん婆が

  お迎え来るのを待ちながら

 ピューピュー冷たい山背の風に

  ざんばら髪をなぶられて

  かぼそい声で歌います

  この世の最後の慰めに

  誰にともなく語ります



-霧に濡れてる野辺の花-


 夢見るお夢

 阿呆お夢

 どこかの若様待っている

 それでとうとう嫁にも行かず

 寂しい婆様になったとサ


 夢見るお夢

 阿呆お夢

 夢見てばかりで婆様になって

 それでもまだまだ

 夢見てる


どこかで子供達が唄っている

私の事を笑っているのだろうか?

お夢はうとうとしながら

フッと苦笑して聞いている。

そのとおりサ

あれは私の事を唄っているんだヨ。

だけどよく考えるとあの自分を笑うような唄は実際のものではなくて自分の頭の中から聞こえてくるもののような気もする。

近頃、ボケが始まったのか時々ボヤッとして本当の事か、嘘の事か解らなくなる事がたまにあるからだ。

夢見るお夢か。まさしくそれは私の事だ。

おもえばこの年になるまでずっとずっと夢のような事ばかり考えて来たものネ。

私と同い年の人達はもうとうに孫やひ孫に囲まれて安穏に暮らしているだろう。

それなのにこの私ときたらこの年になってもまだ一人ぽっちでこうして気ままに暮らしているのが何よりの証拠だ。

とうとうこの年になってしまった。

とうとう一人ぽっちで死んでいく事になってしまった。

今までいくらでも機会はあったのに私は本当に阿呆かもしれないネ。今更後の祭だネと自分を笑ってみる。

そんな仕様もないことを考えているよりさあ今日も店を開けよう。


お夢はいつものように起き上がろうとしたが今朝はどうにも体に力が出ない。

おやっ?変だヨ。こんな筈ははい。

そう思って寝返りをしようとするのだがそれもままならない。

自分の体が少しも思うように動かない。

私の体はいったいどうしちまったんだろう。

二度、三度、四度、五度をと必死で努力してみたがどうにもならない。冗談じゃないヨ。

いよいよ、この体も長年使いすぎた石うすのようにヒビが入って割れちまったのかネ。

情けないネー。まあ、いいさ。どうにでもなれ!ってんだ。後は誰かがどうにかしてくれるだろうサ。


そうだ!

もう暫くしたら、おたいが顔を出して私を発見してくれるだろう。

おたいというのは、お夢の遠い親戚の娘でお夢の店を手伝ってくれている気立ての良い娘だ。

お夢は一人娘だったからほかに兄弟がいないし本当の姪っ子ではないけれどずっと手伝って貰っていると気心が知れて今では可愛くなって姪っ子のようなときには自分の娘のような気になる事がある。


そのおたいがこんな無様な私の姿を見たら驚くだろうがどうにかしてくれるだろう。

人にこんな姿を見られるのは情けないが仕方がない。

たとえこのまんま誰にも看取られずに死んだとしても困る者なんていないだろうし。

いや、おたいが困るのか?

一人で死んでしまったわたしの亡骸のあったこの店をこれから切り盛りするのはさすがに嫌だろう。


やっぱり、おたいの為にもこのまんま死ぬのは嫌だナとお夢は思った。

昨日迄はいつものように足腰の弱った所をかばいながら気力でどうにか店に立って働いていたのに。

今朝は突然、どうしたものかピクリとも動かなくなってしまった。

年を取るってこういうものなのかネー。

そりゃそうだヨネ。

私も若作りはしているがもうすぐ七十だ。立派なお婆さんだもの。

幸い、髪の毛がうすくならないのと白髪が年の割にそう目立たない事をいい事にずいぶんこの年迄若い気分で過ごして来た

もんだが。さすがに年には勝てないって事なのかネー。

まあ、なるようになるサ。さっき随分ジタバタしたせいで全部力を使い切ってしまった。

そのせいか、また急に眠気がさして来たヨ。

朝の二度寝なんてここ何十年した事はないが体が動かないんじゃ仕様がない。

そう思っているうちに瞼が重くなって来た。


このまんま死ぬのも悪くはないネ。

眠るように死ねるなら本望だヨ。

ハハン、お夢さんらしいヨ。


お夢はそのまま深い淵のような眠りの中に ひきずられるように落ちて行った。

気が付くとお夢は十人程人が乗った小舟の中にいた。

いつの間にか白い着物に白い袖無しを着て杖を持って編み笠を被っている。

足元を見ると脚半にワラジばきで手も手っ甲をしてすっかり旅支度の成りをしている。

周りの人達も皆同じような成りをしている。

まるで揃ってどこか八十八か所巡りかお遍路さんにでも出かける途中のようだ。

だが不思議な事には

同じ船の人達は誰もが静かに下を向いてうなだれている。

顔を上げて隣同士挨拶したり、おしゃべりに花を咲かせる風でもない。

舟はうすボンヤリした明るい靄の中を揺れもしないで静かに進んで行った。

やがて向こう岸に着いたらしい。

そして舟から降りると皆が黙々と先に伸びている一本道を歩き始めた。

お夢も訳も解らぬままに同じように舟から降りその道を歩き始めた。

だが、その辺りの景色のなんというきれいな事か。

いつの間にか靄も晴れて道の両側には色とりどりの花が咲き乱れている。

それは何とも言えない良い所だった。

ここはどこだろう。

周りを見渡し、上を見上げると空も晴れ渡っているがいつもの空とどこかが違う。

うまく説明は出来ないが何かが違うと感じる。

何と言ったら良いのか。

このまんま進んで歩いていいのだろうかとチラリと考えた。少しだが迷いの気持ちがある。

遠くに目をやると高い所に霞がかかって光輝いて見える場所がある。

前を行く人達はそこを目指しているのだろうか。

それなら自分もそこへ行こう。

お夢は気を取り直して先を行く人達にはぐれないように歩き始めた。

だがそれにしてもこんなきれいな花畑をゆっくり眺めもしないで何でそんなに先を急ぐのだろう。

実に勿体無い話じゃないか。

それに見た限りどこまでも続く一本道のようだし、道に迷う事はないだろう。

辺りは奥床しい何とも言えない優しい花の香りがする。

あれ?この香りには覚えのある懐かしい香りだ。

ああ、そうだ。

これはなでしこの花の香りだ。

私が一番好きなあのなでしこの花の香りだ。

そう思ってよく見ると赤や黄、白や水色の花に混じってその中に薄桃色ののかわらなでしこが

咲いている。

ああ、お前だヨ。お夢はその花に近づいて行った。

この花はいつ見ても初めて見たあの時の、あの胸いっぱいの思いが蘇ってくる。

お夢は思い出していた。

そうだ、あの時、私はまだまだ若かったっけ。

あの頃は自分じゃその若さのありがたみが少しも解っちゃいなかったけれど。

このなでしこの花のように、まだまだ瑞々しくて可愛い頃の私だった。

何と言ったってまだ十六だったからネ。


この花を初めて間近に見たあの日の事は今もはっきり覚えている。

細かい霧雨の降る日だった。

どこかに行くか帰る途中だったと思う。

野道のその道端で緑ばかりの草の中に一輪だけ咲いているこの花が目に飛び込んで来たんだった。

辺りは濃い霧の中、まるでそこに咲いて私が通るのを待っているように見えたっけ。

急いでいたけれど、どうしても立ち止まってその花を間近に見ないではいられなかった。

お夢は体を霧雨が濡らすのもかまわずになでしこの花の前に立ち止まった。

周りはどこもかしこも深い霧でその中になでしこの花が一輪だけ薄桃色に咲いていた。

精一杯の可愛さで緑の草の中に立っていた。

まるでお夢が通りかかるのを待ってでもいたかのように思えた。

それはあの時の深い霧のせいかも知れない。お夢は引き寄せられるようになでしこに近づいて行って

間近にその花を見、香りをかいだ。

細かい霧の粒に濡れて、今、まさに咲いたばかりのなでしこはとってもいい匂いがした。

お夢が気がついて自分を見つけてくれた事を本当に喜んでいるようだった。

いい香りがお夢の心に語りかけて来た。

(お夢も)お前はとってもきれいだヨ。

お前はなんて美しい花なんだろう。

他にいろんな花があるけれど、ボタンやしゃくやくや、白ゆりや、あの満開に咲く桜や、梅や、桃の花

だってお前のそのひっそりと咲く、この美しさにかなわないだろう。

私はお前が一番好きだヨ。

一輪だけ咲くその気高さが好きだヨ。

他の人はどうだか知れないがお前の事はこの私が一番良く解るような気がするんだヨ。

私は花々の中でお前が一番好きだヨ。

この事は誓っていい。

私はお前の事は一生忘れない。

どんな事があったって。

一生、今日、この霧雨の中で会ったお前の事は忘れないだろう。

お前は私にとって特別な花だ。

これからも何度か目にするだろうなでしこの花の中でも今のこのお前の事は一生忘れずに覚えておくからネ。

お夢はその花を手折らなかった。

もう一度その香りを胸の底まで吸うようにかぐと、そっと花に触れて別れを告げた。

花も泣いているように露をためていた。

お夢の頬も霧雨なのか涙なのか濡れていた。

ただの花なのにその時の別れは何故か切なくて悲しかった。

何故だろうか。

泣けて仕方なかった。

いつかまたこの道を通っても、もう二度とあの花には巡り逢えないだろうと思った。

あの花はやがて枯れてしまうだろう。

でも、私は忘れない。

あの花があの草の中で一輪だけひっそりと霧雨の中で咲いていたのを忘れはしない。

あの花はどこか自分の心持ちに似ているような気がした。

お夢はこの事は一生忘れる事はないだろうと思った。

その花と別れてまた急ぎ足で行こうとすると、前方の霧の中から走って来る影があった。

その影も急ぎ足で走って来たようだった。

お夢の顔も体もいつか霧雨ですっかり濡れそぼっていたが相手もすれ違ったとき、

したたかに濡れているのが解った。

背の高い若い男だった。

濡れたその若い男はすれ違いざま

雨粒のしたたるその顔で驚いたように一瞬お夢を見た。

お夢も一瞬その男の目を見た。

お互い立ち止まりはしなかった。

ほんの刹那の出来事だった。が、

お夢はそれから後、一生その目を忘れる事はなかった。

男はそのまま振り返りもしないで走って行ってしまった。

そしてまた、白い霧の中に消えて行ってしまった。

お夢もまた歩き続けた。

歩き続けながら胸の中がドキドキしていつまでもあの目を思い出していた。

いつまでも忘れられない目だった。

今まで見た事もない目だった。

どうとも説明の出来ないが心に残る目だった。

お夢はあれ以来、なでしこの花を思い出すとその目を思い出した。

霧が立ち込める日も、なでしこの花と共にあの目を思い出した。

あの若い男がどういう素性の者なのか、どこに住んでいる者なのかまるで解らなかったが

お夢の心の中にいつの間にか、なでしこの花と共に住みついてしまった。

お夢が十六歳の年だった。



お夢は何代か続く高級なろうそくと上等なお香を扱う問屋の一人娘として生まれ育った。

店構えはそんなに大きくはないが上質で確かな品質の物を扱うと評判の信用のある名の知れた店だった。

使用人は大番頭と手代と小僧、それに手伝い女が二人だけだったが、

お夢の両親が二人共、働き者で才覚があり、如才のない商いをしていたので暮らしは結構なものだった。

お夢はそこの一人娘として生まれ、小さい頃からいろんな習い事を数々し、そのどれ一つとして人から劣らぬ

賢い子だった。

見た目も愛らしく皆から可愛がられて、何不自由なく育って行った。

両親はこの一人娘にやがて誰か良い婿を迎えてこの店を継がそうと考えていた。

だが十六を過ぎ十七になり十八歳になってもお夢は親が持って来る話の婿をとろうとはしなかった。

両親はもちろん方々に声をかけていて、これぞと思う人物を次から次とお夢に持って来た。

お夢は持ち込まれた縁談の相手を一度は影から見る事をしたがその後、正式に会う事なしに話を断った。

この人ではない。

あの人でもない。

この人は違う。あの人も違う。

これぞと思う勿体ないような若者をも断った。

父親が何故だ!と聞くと一生添わなければならないのだからいい加減な気持では一緒になれません。

両親にはそう言った。

お湯梅のその時の目は決然として迷いがなくいかにも真剣でただのわがままにも見えなかった。

両親はホトホト困った。

このままでは年を逃がしてしまう。

たいていの娘達が喜んで迎えそうな見込みのある相手でも

お夢は遠くからその人物を見て確認すると決まって断ってしまうのだから。

父親は終いには怒ってしまった。

お前は本当に婿を迎える気持ちがあるのか!

その調子では一生独り身を通す事になるぞ!

あの温厚な父親が苦々しい顔で言った。

母親はお夢に、もしや好きな人がいるんじゃないのかい?と聞いた。

そう聞かれても「います」とは言えない。

あの霧雨の中で一瞬目が合っただけのどこの誰とも解らない背の高い若い男。

その若者がどういう人物なのか解る訳もなくただ、お夢の胸の奥底に霧雨に濡れて咲いていたなでしこの花と

共に雨に濡れたある顔が、あの目が心に残っている。

驚いたように自分を見たあの目がいつまでも心に残っている。

驚いたように自分を見たあの目がいつまでも心に鮮やかに残っている等とそんな事は言えない。

でもその人は確かに今もどこかで生きている。

この同じ空の下でその人は確かに生きているんだ。

お夢はそう思ってしまった。

その馬鹿馬鹿しいようなおとぎ話の夢を打ち破る程の相手はそれからも現れなかった。

そして、お夢はいつの間にか十九になってしまった。

どんなに説得してもその気にならない一人娘を持て余して両親は途方にくれた。

このままではこの身代も終わってしまう。

散々あれこれ話し合って悩んだ末、それならいっそ、手代の峰吉を強引に婿に迎えさせようかと話し合ったりした。

そう口に出して言ってみると何だかそれも悪くないように思えておのずと手代の峰吉を見る主人夫婦の目は以前とは

違って来た。

峰吉はお夢より二つ年上で丁度年も釣り合う。

子供の頃からでっちでこの店に来て大番頭の茂吉に手とり足とり仕込まれて、今では立派な手代になっていた。

本人はまさかここの店の婿になる等という大それた気持ちは、はなから持っていなかった。

このままこの店で辛抱して働いていれば、いずれのれん分けをして貰い、小さなろうそくの店を持ちたいという漠然とした

夢を持っていたごく平凡な男だった。

だがこの頃、主人夫婦が自分を見る目がどこか違う。

はっきりどうのと言うのではないが、目の色やちょっとした気づかいに本人はもしやという気持ちになった。

特別気の利いた才覚のある若者ではなかったが、並の頭は持っていた。

店の一人娘のお夢は自分にとっては到底、手の届かない高嶺の花だと解りきっていただけに、

思わぬ風向きに叶わぬ夢を見始めた。

主人夫婦は言葉に出してははっきりと言わないが、ちょっとした自分を見る目や、物を言いつける

言葉の端々に何か匂わせるものがあった。

そういう思いはどうしても相手に伝わるものだ。

この頃何だかやけに自分に対して気を使う。

一人娘の習い事の送り迎えに、いつもは小僧の信吉をつけて行かせるのに、

ここ何日かは信吉に他の用事を言いつけて、

峰吉、悪いがお夢の送り迎えを頼めないかネと気を使いながら頼むようになった。

そうなっては眠っていた子が起こされたように、はなっから諦めていた高嶺の花への想いが目を覚ました。

改めてそういう目で見なくとも、お夢は光輝くようにまぶしく美しかった。

決しておしゃべりだったりおきゃんな性格ではない。

むやみに人にニコニコ笑いかける娘でもない。

いつも何を考えているのか、遠くを見ているような目をしている娘だった。

決してわがままだったり冷たい性格ではないが人に何かをしてもらうと、例えば出かける時に峰吉が日がさを差し出すと、

必ずありがとうという言葉があった。

それでいてその目はやはり峰吉を見ておらず

何か遠いどこかを見ているような所があった。

峰吉はその目がこっちを向いてニッコリ笑いかけ親し気な優しさをこめて”ありがとう”と言ってくれたらどんなにいいかと思った。

その想いは日毎に気持ちがあせるように、じれるように大きく育って行った。

その気持ちはふくれ上がって苦しい程だった。

だがお夢の気持ちはまるで峰吉に向いていないのは明らかだった。

十日経ち、二十日経ち、一ヶ月程過ぎても少しもお夢の気持ちは峰吉を見ようとはしなかった。

それが解ると主人夫婦はそれまでの特別な気づかいの態度をはっきりと元に戻してしまった。

娘にその気が全くないのは明らかだったからだ。

お稽古事への送り迎えも元のように小僧の信吉を付けるようになった。

その様子を大番頭の茂吉は峰吉の為にも主人夫婦の為にも溜息をついて見ていた。

この気持ちだけは周りがどんなに気をもんでも誰もどうする事もできないものなのだから…

茂吉は思い出していた。

大番頭の茂吉はお夢嬢さんが生まれる大分以前からこの店に奉公して、前の大旦那様、大女将にも仕えて来た。

それから今のおかみさんが嫁に来てお夢嬢ちゃんが生まれた。

だから嬢様の事は赤子の頃から見て来た。

生まれて間もなくからクリクリッとした黒い目は賢くて何でも吸収して覚えようとする意志を持ったお子だった。

亡くなった大旦那様も大女将も、それはそれは可愛がって夢はこんなろうそく屋の娘にしておくのは勿体無いと言い言いしていたっけ。

お二人はすっかり孫の賢いのに驚いてこの子は何か特別な心の器量を持っているヨ

顔の器量の事じゃないヨ。

この子が男の子ならどんなにか立派な人物にもなれたのに。

ところがお夢は女の子だ。

それが残念だヨと茂吉にも言い言いした。

本当にお夢嬢さんは小さい頃からきき分けが良くて人の話す事の真の意味や心の動きが解るような所があった。

特別不思議な力という訳ではないが親達の考えている事、その心の動きが解るように何もかも先々を見越したように文句のつけようの

ないお子だった。

だから駄々をこねて叱られるような事は今迄一度もなかった筈だ。

茂吉は思い出していた。

お夢嬢ちゃんがまだ三つ四つの頃だった。

茂吉が仕事の事で何か小さな失敗をして先の大旦那様に小言を言われて気を落としていた夕暮れの事だった。

幼いお夢が茂吉のそばに来て何も言わずにずっと茂吉のそばにいてくれた。

しかも、いつも大事にして手に持っている小さな人形を茂吉に渡して

まるでいたわるように何も言わずずっとそばにいてくれた。

最初は自分の悩みでいっぱで気がつかなかったが、やがて不思議に思って茂吉は思わずこの幼い子供を見た。

今迄、そんな事は一度としてなかった筈だ。

忙しく立ち働いているときは邪魔になるから決して近くに来なかったのに今、こんなに気落ちしている自分の心が解るようにこの幼子は

自分の大事にしている人形をまるで茂吉を励ますように与えて

しかも茂吉の悲しい気持ちが解るようにそばを離れずにずっと一緒にいてくれる。

それに気がつくと茂吉は改めてお夢を見た。

何て子供だ!

そう思ってお夢を見るとお夢は心配そうな目で茂吉を見上げた。

こんな幼い子に心配されるなんで形無しだ、そう思うと何だか笑えて来た。

茂吉がお夢の頭を撫でながら心配してくれたのかい?笑いながら言うと幼いお夢はじっと茂吉の目を見ている。

私はもう大丈夫だヨ。

お嬢さんのお蔭でホラこんなに元気が出て来たヨ、ありがとうヨ、もう大丈夫だからお帰り。

また元気がなくなった時は頼もうかナ。

そう言いながら人形を手渡すと安心したようにニッコリ笑って奥の方へ戻って行った。

お嬢さんは小さい時からそういう性格のお方だった。

あの利口なお嬢さんの心を本当に受け止めてくれる方となりゃこれはそこいらへんの並の男には無理だろうナ。

こればっかりは仕方がない。

旦那様もおかみさんもいっとき、もしやと本気で峰吉に期待をかけてみたのだろうが結果、峰吉には酷い事になってしまった。

茂吉はそう思ってまた、深い溜息をついた。

大番頭の茂吉はもう五十近かった。

一度嫁を貰ったが、その嫁が赤ん坊を産む時ひどい難産でようやく生まれて来た赤子は産声もあげずに死んでしまってその後、女房も間もなく

命を落としてからは二度と女房を貰う事もしないで只、黙々と真面目に今迄務め上げて来た。

お夢の父親の今の主人より二つ三つ年上だが誠実な性格が信用され今では何事につけ茂吉なしでは店が成り立たない程、頼りにされているが

それかといってのれん分けして自分の店を持とうという野心はなかった。

所帯を持っていた頃から店に近い所の長屋に住み、そこから通って来ていた。

峰吉はそういう茂吉が一生懸命、自分の息子のように目をかけて仕事を教え込みこれまでに仕込んできた若者だ。

可愛くない訳がない。

だが、お夢お嬢さんと一緒になろ

うという夢を見たのがとかく無理な事だったと思う。

お夢お嬢さんだって峰吉に対して余計な期待を持たせるような素振りはしなかっただろう。

あの方は賢い方だ。峰吉がどういう気持ちでいるかを知っている。知っているからこそ下手に情をかける事をしなかったのだ。

これからは時々、峰吉を飲みに連れだしてあいつの憂さを晴らしてやろう。

茂吉はそう考えたりしていた。

だが峰吉は近ごろ何か考え事をしているような所があった。仕事に支障はないが茂吉は少し心配していた。

やがて夏の藪入りの日が来た。

店はその日だけは休みで店を閉じて使用人にも休みを与える。

お夢は亡くなった祖父の兄に当る大叔父の隠居所に前の日から遊びに行っていた。

大叔父という人は自分の実家のろうそく問屋を継がずに弟にまかせて自分は好きな道をという事で書や画の道具や高名な書家の書いた作品を扱った

店をおこしその店をかなり大きくしていた。この頃はそれを全て息子に任せてのんびり隠居生活をしているのだった。

時には自分でも好きな書や絵を書いている。そんな大叔父がお夢は大好きだった。

亡くなった祖父も大好きだったが、顔がよく似ていても大叔父が持つ世界はとてつもなく広くてお夢が知りたい事、見たい物がそこには沢山あるような

気がした。

大叔父の所に行ってその屋敷の中に豊富にある書物や書画、掛け軸などを飽く事なく見て回りそれらについての大叔父の話を聞いて帰るのがお夢の何より

の楽しみだった。

それが息抜きにもなりお夢の心に大きな満足を与える大切な場所だった。

お夢は小さい時分

から子供らしくなくそういう物が好きだった。

大叔父の所に行くと時々は大層立派なお客の姿もあったが、そんな事を気にせず誰に気兼ねなくのんびり出来る書庫のような部屋があって、

そこではいくらでものんびり多くの物を自由に見る事が出来た。

大叔父の身の回りの世話をしているおかつも気のいい女でいつもお夢を喜んで迎えてくれた。

そして、いつも甘い物を作ってくれるのだった。

じつはお夢は家にいると息のつまるような気がする事があった。

口には出さずとも、父親も母親も、まだ嫁にも行かず婿をとる気持ちもないのかと暗に責められているような気がして何だか居心地が悪い。

だが、この大叔父の隠居所ではそういう目で見る者は一人もいなかった。

伸び伸びと心も体も伸ばし、思いっきりうまい空気を吸い、見たいものを心ゆくまで見る事が出来た。

だから藪入りの日には前の日から大叔父の所に行く事を両親に言って許しを得ていたのであった。

あの日もお夢は意気揚々と大叔父とおかつ婆の為に買ったお菓子を持って前の日から泊りがけで出かけて行っていた。


店と母屋にはお夢の両親だけがいた。

小僧も峰吉も茂吉も二人の手伝いの女達も皆、休みで里や実家、あるいは自宅に帰っていて休みを楽しんでいた。


だが藪入りのその日の夜中ろうそく屋から火が出た。

火はあっという間に店と母屋を焼く尽くしてしまった。

あっという間だっという。

幸い、その日は全く風がなく火は辺りに燃え移らずに、ろうそく屋だけで消し止められたが焼け跡からは二人の焼死体が見つかった。

主人夫婦だった。

あまりにも突然であまりにも呆気ない両親の死だった。

何が原因かはっきりとは解らずじまいだったが、きっと仏壇にあげたお灯明のろうそくの灯が燃え移ったとしか考えられなかった。

店は順調に行っており使用人と一人娘は外に出ていておらず、夫婦二人っきりだったし安心して夫婦二人でお酒でも飲んでお灯明を消さずに

寝込んでしまったのだろうという事になった。

お夢は茫然として泣く事も出来なかった。

両親の葬式を終えた後は大叔父の隠居所で魂の抜けたようにボーッとして過ごした。


その後、大叔父と茂吉の二人の働きで方々から売り掛け金を返して貰ったり、両替屋に預けてあった分の金や何やを全部集めて元の場所に小さい

ながらもお夢の為に家を建ててはどうかと、そうした方がよいと思うと二人にすすめられた。

お夢は全て二人に任せると言った。

「良いようにして下さい。今は何も考えられません。」

そう言ったきりだった。


大叔父と番頭の茂吉が二人で話し合って、峰吉と小僧の信吉と二人の手伝いの女達に何がしかのお金を持たせて里へ帰させた。

それからあの焼けた跡地にまたたく間に前よりもかなり小さめだったが新しい家が建てられた。

道に面した前の方は何か商いが出来るように作られており、奥と二階はお夢が住めるようによく考えられ工夫された家だった。

後ろのあいた敷地はちょっとした庭が出来ていて陽当たりも良い。

大叔父と茂吉が一生懸命考えて作ってくれた家だった。

出来上がった時、お夢は二人と一緒にその家を見て歩き、二人に深々と頭を下げてお礼を言った。

「何から何迄本当にありがとうございました。でも今はここに住むのはあまりにも辛すぎます。私は暫らくどこかここではない離れた土地に行って

来ようと思います。それまでこの家は、茂吉さんがここに住んで留守番をしていてくれませんか?」

そうお夢が言うと二人はひどく驚いた顔をしていたっけ。



お夢はなでしこの花を見つけて

それからそれへと若い頃の甘く悲しい思いから、ついには数ある縁談を断った頃の事

しまいには

藪入りの日に大事な両親を火事で呆気なく亡くした事まで思い出していた。

そして心の中の悔いがまた、頭をもたげていた。

あの頃のどこかにやり直しのきく所があったのではないかと考えたりした。

自分が折れて誰か婿を取っていれば両親も亡くなる事もなく今頃は大きく違った人生になっていたのではないか。

今頃は子供や孫に囲まれて、あのろうそく屋の店を続けていたのかも知れないと考えたりした。

だがあの頃の自分のこの心がどうしてもそれを許す事は出来なかった。

本当に心から好きになれる人でなければ一緒になれる筈もなかった。

やっぱり、結局、私はこう生きる他生きる道は無かったのかも知れない…。


お夢は暫らく色とりどりの花が咲き乱れるその中に、かわらなでしこを見つけたばっかりに

昔の事を思い出してしまった。

あれから五十年近く経った今でも思い出すと泣き出したくなる思い出だった。

だが七十になった今ではあれもこれもみんな過ぎてしまった事だと思えてくる。

若い時にはあんなに思い悩んだり

苦しく悲しく思った事も。時が経った今では遠い夢の中の出来事のように落ち着いて思い出される。

さっきはつい昔に戻って思わず泣きたくなってしまったけれど、あれから随分年をとってしまった今、

人生ってそういうものなんだと思いきると腰を上げて、また一本道に戻り歩き始めた。

思いがけず時間をとってしまったようだ。

新たに着いた舟の客達だろうか。後ろからお夢を追い越していく人々がある。

やはり誰もがうつむき加減で暗い顔をしている。

お夢もその後をついて歩いて行くと前方に赤い太鼓橋が見えて来た。

川があって、そこに架けられているようだ。

その橋を普通にスイスイ渡る者があるかと思えば、何故かためらって渡るに渡れないで橋の脇の川を思いきったように

ジャブジャブ漕いで渡ろうとする者がいる。

そういう者

は他にもいて、もうすでに川の真中程を胸まで水につかりながら溺れそうになって必死に進んでいる者もい

る。

その人達を見ながらお夢は何故、橋を渡らずにわざわざ川を漕いで行くのだろうと不思議に思った。

赤い太鼓橋はそんなに幅の狭い細い橋ではない。お夢が両手を広げる程の幅がたっぷりある。

変な人達だナーと見つめていると後から、「あの人達にとっちゃ、この橋は細くてとても渡れないんですヨ。例えばあの人達の

目にはあるいは五寸にも見えないのかも知れませんネ。だから、とても渡って向こうまで行けないと観念して、ああして川を漕いで

渡っているんでしょう。」

という声がした。

「それはどういう事ですか?」と言いながら声のする方に振り返った。

そこには若くもなくまた年寄りとも言えない男が小さな女の子を背中におぶって穏やかに笑っていた。

そしてお夢に、「貴女にはこの橋の幅はどれくらいに見えますかナ?」と、その男は逆に聞いた。

「たっぷりこの両腕の幅がありますもの渡れない訳はないでしょう?」

お夢が両腕をいっぱい広げてそう言うとハッハッハッと男は愉快そうに笑った。

「ところが了見の悪い人にはそればやたら細く見えるらしいんですヨ。どうにもこうにも渡れない程細く、もしかしたら箸や爪楊枝程に

見えるのかも知れませんヨ。」

そう言ってニヤリと笑ってから、

「まあ、そういう人は娑婆で余程悪い知恵を働かせて人を苦しめたのでしょうナ。」と言ってから、

「さあ、私達はこの橋を渡って行きましょう。」

男は小さい女の子を背中におぶったまま先に立ってスタスタとその橋を歩いて行った。

何だかその物言いや仕草や穏やかな顔付を見ているとどういう訳かお夢は見知らぬ土地で昔の知り合いにで出会ったようなホッとした気持ちを

持った。

最初は何も心配する事はないと腹をくくって一人一本道を来たが、この人の後ろをついて行くのがいかにも心強く安心のように思われた。

お夢は秘かに心の中で、この人を”先達”としてついて行こう

そう思った。

その男は背中の小さな女の子に時には大丈夫かい?とか、心配ないからネなどと声をかけながら悠々と前を歩いて行く。

やがて道は上り坂になって来た。

前には小高い山がそびえていてそこを通らねばならないようだ。

しかも、最初は普通の背の低い草地だったのが、その草がやがて棘のあるいばらの道になって来た。すると周りで四人、五人と難儀している人の姿が

ある。

そこにははっきりとした道がなくどこを探して歩こうとしても棘のある草ばかりその草もやがては更に堅い針のようになってきた。お夢の頭の隅に

”針地獄”という言葉がかすめた。

これがもしや針地獄というものだろうか?

やがて、あちらこちらに足から血を流して進む事も出来ず、さりとて引き返す事も出来ず泣きながら往生している人達がいる。

お夢も自身でも到底この坂道を登れないのではないかと思った。

だが、前を行く男は子供を背におぶいながらも、一歩一歩ゆっくりと前に足を踏み出し平気な様子で山を登って行くから不思議だ。

お夢がこれ以上足を踏み込めずにためらっていると

その男が振り返って「どうしたのです?大丈夫ですヨ。貴女ならきっと大丈夫ですヨ。」と言った。

自分を信じて歩いて来なさい。と更に励ましてくれた。

その男の足は少しも傷ついておらず、しかも痛そうでもない。

「貴方

は大丈夫なのですか?とお夢が聞くと、

「ええ、特別悪い事をしなければたいていは大丈夫なのだと思いますヨ。まず、一歩踏み出してごらんなさい。」

そう言われてお夢は自分の後ろに人がつかえているのも見ると、このまま立ち止まっている訳にもいかず勇気を出してその棘ばかりの上に足を踏み出して

みた。

すると何と不思議。その棘ばかりの草はたちまち柔らかい草のように簡単にお夢の足に踏まれて刺しもしないではないか。

あら?あら?

もう一足、もう一足と恐る恐る踏み出したが大丈夫。

やがて針ばかりの所に来たが、目をつむって思い切って足を針の上に置いてみても少しも痛くない。

その針もまた柔らかい草のようにお夢の足に素直に踏まれて、決してお夢のわらじを刺し貫いて足を傷付ける事はしなかった。

これはきっと毎朝毎朝、拝んでいた観音様が私を助けてくれたのだろうか。

途中難儀して苦しむ人達を気の毒に思いながら感謝の心とホッとする心で前の先達の後をついて登って行った。

やがて振り返って後方を見ると、すぐ後ろにいてお夢をせっついていた男が顔をゆがめて痛さに耐えられずれ以上進めないという様子だ。

他にもかなりの人が足から血を流してあえいでいる。

前方を見ると子供をおぶった”先達”が振り返ってほほえみながら頷いてお夢を見ている。

その目はホラネ、貴女はきっと大丈夫だと思いましたヨと言っているように見えた。

やがて、その針山は無事登りきった。

それでもお夢の足の裏は少しも傷ついてはいなかった。

ただの柔らかい草の上を歩くように少しも痛くなかった。

これが幼いころに聞いた”針の山の地獄”というものだろうか。

それならここは呑気な八十八か所巡りの旅などではないのだ。

ここは死後の世界なのかも知れない。

そう気がつくと、お夢はにわかに緊張して来た。

それでは私は死んだのだろうか?

人は死ぬと地獄か極楽に行くと言うあの世の入り口には閻魔様がおられて、その方が地獄への道へいく者と極楽へ行く者とに分けているというが

閻魔様のような方にはまだ出会っていない。所々に道しるべのように石のお地蔵様が立っていたと思う。

そんな事を考えながら歩いていると、やがて針山を登りきった先に池のようなものが見えて来た。

ここを渡ろうにも橋などどこにもない。

両脇に立ち並ぶお地蔵様に導かれるように誰もが仕方なしにその池に入って行く。

中央が、浅瀬らしく前を行く何人かは何事もなく腰のあたりまで浸かりながら進んで行く。

先頭の者は向こう岸について安心したように火にあたっているのが見える。

大して寒い訳ではないが、やはり池の水は冷たいのだろうか。

お夢も女の子を肩車した男の後について池の中に入って行った。

おや?

池は冷たくも何ともない。

むしろ心地よい風呂の湯加減のように温かく気持ちが良いくらいだ。

足元も深くはないが腰迄はある。

人目がなかったら肩まで浸かってのんびりしていたいくらいだ。

そう考えながら進んでいると”先達”の前を歩いていた男と女が急に誰かに池の底から足を引っ張られるようにズボッと頭まで入ったかと思うと頭の先だけ

見えて、それがやがて左の方にどんどん引っ張られていく。

その男と女はつれなのだろうか。

二人は必至にもがいて浮き上がろうとしてバシャバシャしているが体は大きな何ものかに引っ張られるように左の方に流されて行った。

その行く先を見ると他にも多勢の者達がもがいているのが見える。

しかもその辺りはここのようにきれいな湯ではなくて真っ赤な血のように見える。

その中で沈んだり浮き上がったりを繰り返す者達は顔も手も血みどろで見るも恐ろしい有様だ。

「あれが血の池地獄でしょうナ。人を殺めた者達でしょう。」お夢が勝手に先達にしている男がそう言った。

あれが”血の池地獄”か?何て恐ろしい所だろう。

あの人達はいつあの場所から出られるのだろう。

そう思いながらもお夢は無事池から上がる事が出来た。

池から上がると濡れた着物を乾かせとばかりにたき火が燃えている。

先に池から上がった人達が順繰りに体を乾かしてまた先の道を行くのだろう。

その中で一人の男が火に近づくなり、ギャーッと悲鳴をあげて逃げはじめた。

体に火がついたのだ。

まだ濡れて乾いていない筈の着物に火がついて、それが、みるみるうちに手や足や頭や髪にまでまるで油に火がうつるように燃え始めた。

みんなが驚いてその男を見ている。

男は「誰か助けてくれー」と叫んで周りの人たちに助けを求めているが、誰もその火を消してやる事も出来ずにただ驚いてみているだけだ。

男は今度は思いついたように今上がったばかりの池の方に戻って来た。

火を消すためもう一度池に入ろうとしているのだ。

その男がお夢の目の前を池の方へ走って行った。

火だるまになりその男は目玉が飛び出そうな程の形相をしていた。

その時お夢はその男の顔を間近に見た。

年こそとっているがあれは峰吉だ!

左あごの所に飯粒をつぶしたぐらいの形の黒いあざがある。

あれは間違いなく峰吉だ!

峰吉はお夢にも気付かない程、自分の体の火を消そうと必死の形相で池に入って行った。

そして池に頭まですっぽり入ってから出て来たら、その火は消える筈だった。

だが池に入った途端その火はまるで熱い油にでも入ったように逆に大きく強く燃え始めた。

峰吉は煮えかぎった油にうっかり入ったように慌てふためいて池から飛び上がって来た。

火は前にも増して更にゴーゴーと音をたてて峰吉の足や髪の毛や手指の先まで燃えさかっている。

なんて酷い姿だろう。

目をそむけたくなるがお夢は峰吉から目を離せずにいた。

峰吉は今度は池から走り出た後、転がりながら火を消そうとしている。

熱いのだろう。泣きわめきながら地面を火だるまになって転がり続けている。

「助けてくれーっ!誰か助けてくれー!」

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