第2章 船内散策
第2章 船内散策 その1
ルートボエニアは、航路を往復する二隻の旅客船を所持していた。船の名は一隻がシーサイド号、そしてもう一隻がランドサイド号。どちらもスケールは同じ船舶であり、全長約120メートル、総トン数4278トン、旅館定員490人と、当時のボエニアに停泊する旅客船の中では十分大型客船と呼べるほど立派な船だった。
船の航行は十九時出港、早朝六時着港の夜間航行を行なっており、航行の行われない昼間は港に停泊していた。
ちなみに本日、ペタロポリス東港に停泊している船舶はシーサイド号である。
昼休みの終わり際、船員に挨拶に行かねばならないとアルビナに勧められ、ノアとアルビナの二人は船員の挨拶と船の内部の見学も兼ねて、シーサイド号へ向かっていた。
サイドタラップから船内へ乗船すると、まず最初に目の前に飛び込んできたのは、広大な車両甲板だった。
「弊社の船の車両甲板は一階と二階があり、可動式スロープと船首船尾の両方向にある階段で上下階を移動することができる。ここには自動車や自動二輪や自転車なんかの一般車両の他に、トラックやセミトレーラーの大型車、セミトレーラーのコンテナ部分だけ……まあシャーシと呼ぶのだが、そのシャーシや海上コンテナなんかの貨物も格納し、輸送するんだ。トラックや貨物が75台、自動車が40台、計115台の車両を搭載することができるぞ」
「115台!? なかなかの数ですね!」
「ハッハッハッ! そうだろそうだろ!」
ノアが驚嘆してみせると、アルビナはまるで愛子が褒められたように、鼻高々と喜んでみせた。
「ここの醍醐味を見たいなら、出港前の荷役を見るといい」
「荷役……ですか?」
ノアは首を傾げる。船のことについてまったくの素人であるノアが、それに通ずる専門用語の知識などあるはずがなく、説明をするのに熱中していたアルビナは、彼女のその表情を見てはっとそのことに気がついた。
「ああそうか! 荷役と言っても分からんよな。荷役というのは、船に荷を積めていく一連の作業のことだ。ここでの荷役は、車両をこの車両甲板に積めることになるな。出港の一時間半前になったら、一斉に業者のセミトレーラーをランプウェイから入れて、シャーシや海上コンテナをヘッドから切り離して積み込み、それからトラックを積めて一般車両を入れていくんだ。数百台の積み込みを一時間半ちょっとで済ませてしまうのだから、そりゃあ怒涛の作業風景だよ。今度一度見ておいた方がいいよ」
「なるほど、荷役……分かりました!」
ノアは手に持っていたメモ帳に、ボールペンで荷役のことを記した。
「うむ、さてそれじゃあ……先に上の方から見ていくか」
「はい」
二人は甲板を歩き出し、船首側の金属製の螺旋階段を上っていくと、目の前に客室へと繋がる扉があったのだが、その扉の手前でアルビナの足は止まった。
「ノアちゃん、目の前にあるあれが可動式タラップ……まあ簡単に言えば、動く乗船口だよ。今は離れてるけど、乗船前になったらあれを動かして、ここに繋げてお客様を乗船させるんだ」
「へぇ……ここから。でも結構上ることになりそうですよね?」
ノアは感じた通りの正直な感想を言っただけだったが、しかしそれを聞いたアルビナの表情は僅かに曇った。
「うむ……しかもこのタラップもそうだし、これから行く案内所への道もそうなんだが……」
言ってアルビナは案内所への扉を開くと、何故アルビナが僅かに渋った表情をしてみせたのか、その理由がノアにもすぐに分かった。
「うわ!? ずっと階段になってるじゃないですか!」
そう、扉の先にあったのは狭く長く続く階段。しかもよりにもよって45度以上ある、ちょっと角度がきつめな階段だったのだ。
「この長くて急な階段がネックになっていてな。荷物が多いお客様や、お年を召したり、体が不自由なお客様から不評の声が上がっている。内装工事やタラップを交換してスロープを設けるという意見も上がっているが、予算の関係上今は厳しいんだ」
「そうなんですか……」
「ノアちゃんもこれから経営者側になるのだから、何かと問題に直面するだろう。もしそういうことがあった場合はしっかりメモに残しておいてくれ。どんな小さな傷口でも、見過ごすと大怪我になることもあるからね」
「分かりました、気をつけます」
「うむ……それじゃあ行こうか」
ノアとアルビナは扉を潜り、問題となっている船内案内所までの階段を上っていく。見るよりも実際歩いてみることで、その段の急さとそれを上るキツさをノアは実感した。
階段をなんとか上り終えた先には、大広間があり、そこには飲食ブース、売店、ちょっとしたゲームコーナーなどが設けられており、その中心に円形状になって船内案内所は存在していた。
案内所の前では、一人は白い真ん中にロゴの入った半袖のティーシャツを着ており、もう一人は黒いチェック柄の半袖のワイシャツを着た女性二人が、案内所のテーブルに腕を着いて楽しそうに会話をしていた。
「まこっちゃん、みこっちゃん、いやぁ良かった居てくれて」
「えっ!?」
アルビナが声を掛けると二人は一斉にこちらの方に振り返ったのだが、しかしノアはその顔を見て思わず声をあげてしまった。
髪型は異なるが、二人の顔は瓜二つだったのだ。
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