第19番 駅でピアノを弾いている少女【300字小説】

 仕事帰りに、少女が駅ピアノを弾いていたので立ち止まった。

 近くでは若い男女が会話をしている。

「帰り道に春ちゃんと会えてラッキーやったわ。そろそろ俺と付き合ってや、なぁなぁて」

 甘えたように嘆いているのが微笑ましい。

「春ちゃんも本当は俺のこと好きなんやろ? 素直になった方が楽やで」

 女の子はうーんと言いながらも楽しそうだ。

 そのうちふたりは去っていった。


 僕はピアノを弾き終わった少女に、いま弾いていた曲を尋ねた。

「全部ブルグミュラーの練習曲だよ。『帰り道』『あまいなげき』『すなおな心』」

 なんとさっきの男女の行動と一致している。

 まさか少女の特別な能力がふたりを導いたのか?

「それと最後に弾いたのが『別れ』」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る