第3話 現状把握をしましょう
結局、ジル様は私のことをアリーシャとは信じてくれなかった。
まぁ、声も姿もジル様のこの状況で『アリーシャです』と言われても信じられないのは仕方がないのかもしれないけれど。
埒が明かなかったので、その話はいったん置いておくことにして、現状を振り返ってみる。
とりあえず、なぜだか私がジル様の中にいることはわかった。
逆に言うと、それしかわかっていない。
まずは、ジル様が昨日会ったという
ジル様がまだ学園を卒業していないのであれば、
見通しが立って満足げにうんうんと頷いていると、ジル様が何かを言いたげに口を開いたり閉じたりしているのに気づいた。
「ジル様?」
「………………もう、限界です――――トイレに、行かせてください……」
呻くように言われて、私も急に湧き上がってきたその気配に内股に力をいれた。
おトイレ――――!!
唐突におトイレに駆け込みたい衝動に襲われる。
なんで!? さっきまで全然平気でしたのに。
おトイレの場所がわからなくてもたもたしている私に、ジル様が切羽詰まった様子で言い放った。
「もう、いい加減、僕に、体を返してください……! このままでは……!」
「私もそうして差し上げたいのですが……どうしたらいいのか……」
私だって、返せるものならお返ししたい。
そして、おトイレに行っていただきたい。
頭の中がどんどんおトイレに行きたい欲求で埋め尽くされていく。
私がおトイレのこと以外考えられなくなった時、唐突に足が動き出した。
どうやらジル様自身が体を動かせるようになったようだ。
飛び出すように廊下に出たジル様は、表面上は取り乱した様子もなく、おトイレに向かって猛進していく。人払いをしていたせいか、おトイレに着くまでに誰ともすれ違うことはなかった。
そうして、ジル様が寝衣のウエスト部分に手をかけたところで、私ははたっと気がついてしまった。
このままだとジル様のアレに触れてしまうのでは!?
「ちょ、待って! お願い待って! 私まだ婚前前なの!」
うら若き乙女なのに男性の下半身に触れるだなんてできないと訴えると、ジル様は声を荒げて反論してきた。
「ここで漏らしたら男の沽券に関わります! 嫌なら目をつむっていてください!!」
ド正論すぎた。
私は恥ずかしさと恥ずかしさと恥ずかしさに、ぎゅっと目をつむってやり過ごした。
殿方のアレに触れた感触だけはしっかり手に残っていたけれど。
お父様、お母様、私もうお嫁に行けません――――まぁ、どのみちお嫁には行けませんでしたが。
ふと今の自分の状況を思い出した。
どうせもうお嫁に行くこともできないんだったら、いっそしっかり見ておけばよかったですわ。
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