バベルの塔は天を目指す

キチガイ地獄外道祭文

わくわくモンキーパーク

うらさびれたプールバーの店内で、4人と2人が向き合っていた。

4人はみな同じ様に金髪を逆立て、思い思いに周囲を威圧する為の意匠を凝らした典型的な破落戸といった風体である。

しかし、それに対する2人組の男女は、異様な風采であった。

すらりとした肢体を、一目で上等とわかるシンプルな黒いスーツに包んだ長身の青年と、かなり大きめのジャージに、これまたダボダボのパーカー、それもウサギの耳がフード部分に付いている何とも言えないデザインのものを羽織っているセミロングの少女。

およそ接点のあるとは思えない奇妙な取り合わせの2人組は、その場にそぐわない、間の抜けた違和感を放っていた。

だが、その両人の瞳が、どこか狂気を思わせる酷薄な光をたたえていたことに、相対する4人は気付いていただろうか。



「あ?お前さ、俺ら舐めてんの?」

そう言って、ニホンザルの様な顔をしたチンピラAが胸ぐらを掴んできた。それをニヤニヤと眺めるチンピラBCD。

うんざりだ。何でこの手の連中は、判を押した様に全く同じ反応を返すのだろうか。猿の芸だってもう少しバリエーションがあるだろう。実物は見たことないが。

ちらりと、隣に立つ少女所長を見やる。

「記念すべき初仕事だな。お手並拝見だ」

と尻を叩いてきた。丸投げかよ。

仕方なく、チンピラAが訝しげに少女へ視線を移したのを合図に、胸を掴む右手の手首に指を絡ませる。

両手で絞る様に手首を固定し、ほんの少し腰を落とす重心移動の力を、固定された関節にかける。人体は、この角度で荷重に耐えられる構造になっていない。

細身の外見に似合わない剛力にて行われた流れる様な動作に、と乾いた音を立てて手首の靭帯が損傷し、事態を理解できていない呆けた顔のまま、関節を固められたチンピラは膝を突いた。

そのまま低い位置にきた顔面の下部を、革靴の先端で蹴り上げると、靴越しに歯が砕け割れる小気味のいい感触が伝わってきた。ナイスシュー。

どしゃりと頭から崩れ落ちたチンピラAが血溜まりを作り出した頃、ようやく事態を把握したBCDが、金切り声を上げながら殺到してきた。

声といい風貌といい、やはり猿なのではないだろうか。

だが、ただでさえ狭い店内に、更に障害物となる様に倒したAが邪魔となり、3人の内2人はもつれあう様にしてバランスを崩す。

残りの1人は、いつの間に抜いたのか、逆手に持ったバタフライナイフを振りかざし肉薄してきた。

そういうの、何処で買うんだろうなあと思いながら、右半身にスイッチし、ナイフを捌きつつ右手で相手の耳の後ろの急所、乳様突起を殴る。そのまま右手で耳を、左手でナイフを持つ手首を掴み、体を寄せながら軸足を刈り払った。

耳を掴まれているため受け身を取ることもできず、後頭部から床板にめり込み白目を剥くチンピラC。いや、Dだったか?

2人目を倒した瞬間、後ろから声がかかる。

「全部はだめだよ〜1人残しといて〜」

鉄火場に似合わぬ気の抜けた声の主は、がさごそとなんらかの作業をしている様子だが、部下に面倒ごとを任せておいて一体何を遊んでいるのだろうか?大体、"お手並拝見"なんぞと言っておいて目を離すとはどういう了見だ。

残りの2人は、すっかり怯えた様子で、既に戦意を喪失している。そんな顔で見ないでくれ。上司が言うには残すのは1そうなんだ。

ふと、小刻みに震える片方の顔が、以前事務所のテレビで見たダスキールトンという猿に似ていることに気が付いた。途端に愛らしく見えてきたチンピラBダスキールトン

彼らダスキールトンの健気に生きる生態とその希少性を知っている私は、最早Bを痛めつける気にはなれなかった。

消去法で最後の1人に近づくと、震える足で逃げ出そうと踵を返したが、足元が覚束ないのか、先ほど倒れ、いまだ痙攣するD(暫定)にまたも躓いた。何とも成長がない。だからお前はダスキールトンになれないのだ。ダスキールトンはもっと賢い!

滑る様に間合いを詰め、這いつくばった男の右手首を掴み、足をついた自分の左膝に肘を当て、テコと人体の反射を利用し、一瞬でうつ伏せに固める。なんとか脱出しようとはかない抵抗を続ける男の背に膝を乗せ、一息に肩を外し肘の靭帯を破壊した。

「ぶぁあああ!!!!」

痛みに泣き叫ぶ声が、なんとも哀愁を誘って聞いていられないので、無事な左肩越しに腕を通し、変形の片羽締めで意識を刈り取った。



残るはプルプルと震えるダスキールトンくんのみ。

一応4人から目を離さず

「終わりましたよ!」

と後ろに声をかけると

気を見計らった様に、ひやりと冷たい何かが首筋に触れた。

「ご苦労!」

そう労った所長は、嬉しそうにコロナビールのラベルが貼られた瓶を両手に抱えていた。





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