27 最下層
「とまあ、難度はこんな感じだ。正直
「ええ、まあ……そうですわね。……1対1であればなんとか、という程度ですが……」
ジンとアンドレの戦闘の様子を見ていたソルが、顔を引きつらせながら答える。
ハードリビングメイルの連戦を難なくこなし、そのままの勢いで攻略を進めたジンとアンドレ。目の前には次の階層、EWOの知識上は最下層への階段がある。
『お主は常識というものをだな……いや、なんでもない、の』
ジンに睨まれて、アンドレは
両方とも“リビングメイルの剣”だが、片手ずつで扱うためなのか本来のそれより一回り小さくなっていた。
この世界に住むアンドレやソルたち曰く、魔物のドロップ品などの魔法の武具は、持ち主の体格に合わせてサイズが調整される機能を持っているとのこと。無論、限界もあるらしいが。
「それよりアンドレ、双剣の扱いには慣れたか?」
ジンは一旦思考を切り、アンドレを労う。
仮面の剣士は表情が分からず呼吸もしていないため、どう考えているのかは結構わかりづらい。もしかしたら苦労をしているのかという懸念もあるのだが……
『うむ、問題ない。今まではジンとの練習のみの経験だったが、このダンジョンで一気に上達した。やはり命のやり取りを通して得られるモノは大きい、の』
満足げなアンドレの言葉に、取り越し苦労だったとジンもまた満足げに頷き返した。
双剣の使用を提案をしたのはもちろんジンだ。
しばらく2人旅の予定だったため、人数不足による低火力を補うのはもちろんのこと、最終的に取るべき
アンドレの成長過程を再び思い出していると、今度はテレンスから声をかけられた。
「それでジン、こいつらはどうするんだ?」
「別に放っておいていい。ドロップはもう取り尽くしたし、見ての通り買取素材は探すのが難しいからな」
ジンが指を差すこいつら、というのは階段を守るように群れていた“ゴーレム”の死体6体分。
ゴーレムは全身が土で作られた魔物であり、骨格は人型、体長は2メートル以上もある。
その名に恥じぬ防御力と攻撃力を持ち合わせているものの、共に規格外の素早さを持つジンとアンドレの前になす術もなく倒された。
EWOでは、ゴーレムはHPが0になるとただの土に戻るような演出で消えていったのだが、この世界では魔物の死体がその場に残り続ける。そのため、階段の周りは土砂の処分場のような状況になってしまった。
なお、買取素材は動力核。スライムのそれと比べると2回りくらい大きいが、死体である土の山からこれを探し出すのはシンプルに労力がかかる。
誰かが土魔法を覚えていれば話が変わるかもしれないが、あいにく
「それにしても、ここまで私とお嬢様の援護無しで辿り着けるとはな」
「まあ元からこのダンジョンは、アンドレと2人で踏破する予定だったしな」
「2人で踏破できる程度なら、と考えてしまう私がいるのだが、道中でこれだ。本当の最終層では一体どれくらいの強さの魔物が出るのか、見当もつかないな……」
悩む様子を見せたテレンスに、ジンは特段気にすることなく答える。
「まあハードリビングメイルの時みたいに、遠距離攻撃に気をつけながら階段の先で見るくらいなら大丈夫だろ。刺激くらいにはなるはずだ。それに、ここまで来て引き返す選択肢は俺にはないからな」
ジンは無意識にポーチの中の図鑑に手を触れていた。
というのも、ジンの計算があっているなら、ゴーレムのレアドロップを手にした今、図鑑の達成率がこうなっているはずだからだ。
達成率:4.9%
(確かあと2項目。レアドロップが取れなくても、ボスから“ものをぬすむ”ことができれば達成。晴れて“ポータブル女神像”が手に入る!)
ついに
例のポストイットの指示により、女神像を直接“しらべる”ことができない今、やっと、ようやく、という思いが強い。
(……とまあ、嬉しくはあるんだけどなあ)
ジンは冷静な自分がいることも忘れていない。
元々ポータブル女神像は消費アイテムだ。
気軽に使ってはいけない気がするとEWO廃人の血が騒ぐのだ。
(そこは、新しいポストイットが届くと信じるしかないかな。10%で女神像もう1個、とか……いや2個くらいくれないかなあ……)
「ジン様? ジン様? あの〜……」
『やめておくと良い。あれは自分の世界に入っておるから、の……』
色々展望を妄想しているのを生暖かい目で見守られていることに、ジンはついぞ気がつかなかった。
タルバンのダンジョン、最後の階段を降りた先は洞窟でありながら一際明るかった。壁に埋まった光る水晶の数が、ざっと見ただけでも倍はある。
更に、天井は今までの3倍は高いように感じた。
そしてその中央に鎮座する巨岩。一見すると無機物にしか見えないそれは、注意深く観察すると規則正しく上下しているのがわかる。
「なるほど……ボスはサンドワイバーン、お前か」
その言葉に反応したか、巨岩が動き出した。
体が起こされ、爬虫類のような細い瞳孔がジンたちに向けられた。
種族名はジンの言った通りサンドワイバーン、レベルは24。
「ギャオオオオオオオオオオ!!」
サンドワイバーンは眠りを邪魔されたことに怒りを覚えたか、ジンたちに向かって咆哮。同時に長い翼が真横に広がる。
他のモンスターと同じくジンの記憶どおりの姿形ではあったが、発せられるのは今までで最も強烈な音圧と迫力、そして敵意だ。
(……実物の恐さってやつを久しぶりに思い知ったな)
先程までの楽観的な妄想が戦闘前に流されていく。
元々EWOの知識に関しては世界一を自負しているジンにとって、最も恐れているのはゲームと現実との乖離。
特に現実になることで如実に現れる迫力や匂いなど、五感に訴えるものに関しては弱いと言わざるを得ない。
そのジンの様子を見て、アンドレが前に出てくる。
『ワイバーン……ドラゴンほどではないが間違いなく強敵だ、の。……ジン、特徴は?』
「あ、ああ。見た目通り、物理防御が強い。だが攻撃は見た目より多彩な方だ。噛みつきや突進はするし、ワイバーン種特有の風魔法“ゲイルブラスト”、土魔法の“ロックショット”も使う。あと、体力が半分を切ると使う“クエイク”は合図を出したらできる限り奴から離れてほしい」
脳内の知識を披露するうちに、ジンは足の震えが止まり、心に余裕ができていくのを感じた。
どれだけ大きくても、自分にとって見知った魔物。今までの強敵もそうだった。
データ上どれだけ攻撃すれば倒せるか、どこまで攻撃を受けられるか……分かっているが故に過度に恐れる相手ではない。
『あいわかった。……緊張は取れたか?』
「……ああ、ありがとう。よくわかったな」
『むしろここ以外が自然すぎた、の。我ひとりでは持て余す故、任せろとは言えぬが少しくらい頼ってくれて良いのだぞ?』
「最初から頼りっぱなしだよ」
そんな軽口を叩きあえるくらいには、緊張が取れていた。
「さて……やるぞ。隊列はゴーレム戦と一緒だが、躊躇はするなよ!」
『うむ、最初から全開だ。“魔力変換(力)”!』
ジンは短剣と投げナイフを持ち、アンドレは抜剣してサンドワイバーンに迫る。
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