24 片田舎の門出
ジンはモルモの町に1つしかない宿屋に戻り、新しく部屋を取り直した。
部屋に向かうときに目にしたが、前に泊まっていた部屋の扉は壊されたままになっており周辺は立入禁止になっているようだった。
「別にあそこまでしなくても良かったと思うのは、結果論だよな」
冒険者ギルドからの追求もなく、無事に解放してもらえたのは偶然だったかもしれないがジンはそんなことを思う。
部屋や扉はアンドレの手によってバラバラになってしまった。あの時はアンドレの腕に驚きっぱなしだったが、よくよく考えれば普通に器物損壊だよなとジンは思い直した。
「ジェフのことだ、扉の修繕費くらいはポンと出してそうだよな。さて新しい部屋は……まあ前回とほとんど変わらないよな」
ジンは質素な部屋を眺めつつ、荷物を降ろして図鑑と手帳を取り出して開いた。
(今の図鑑のコンプ率は1.4%。図鑑の内容から、実数は27/1902だろうな。まあ倉庫で過ごしていた頃は白うさぎとピーマン、それとビッグバードしか種類は狩れなかったから進捗は少なくて当然。まあ数は倒したから、レアドロップが集まったのは幸運だけどな)
そう考えてポーチの中から更に、レアドロップである“真っ白なもふもふ”1つと“中級回復薬”を2つ取り出した。
前者は装飾や道具作成の素材になる。またEWOではわからなかったことだが、名前の通り触り心地がもふもふで非常に気持ちいい。癒し用にこのまま使い続けるのもありだな、とジンは考える。
後者はジンの元々持っている下級回復薬よりも少し効果の高い薬だ。今のジンのステータスであれば、この1瓶でHPの4〜5割くらいは回復するだろう。十分な性能である。
(そういえば、アンドレはマールの腕を復活させるのに上級回復薬を使ってたよな? 中級回復薬ならどうなるんだろう……指くらいは復活するか?)
ジンには試してみたい気持ちこそあるが、都合よく怪我をしている人がいないと無理だろうと考える。自分の体で試すなどもっての外だ。検証のためとはいえそこまでマッドではない。
そこまで考えるとジンは図鑑たちをポーチに戻してベッドに寝転がる。安宿らしくギシギシと硬い感触が返ってくるが、今後の予定をフワッと考えているうちに夢の中へと旅立っていた。
ジンは部屋のノック音で目を覚ました。
空には夕日が浮かんでいて、部屋にはオレンジの光が差し込んでいる。
(いかん、寝すぎて頭が痛いなあ……昨日の襲撃は俺の予想以上に疲れたらしい)
少しずきずきする頭を抱えつつも伸びをして、気配探知に反応がないことを確認してから来客の確認をする。
「遅くなりました、どちら様ですか?」
『私だ、開けてはくれぬだろうか』
特徴的で忘れようとも忘れられない低音ボイスが聞こえ、ジンは扉を開いた。
「アンドレか。随分早かったな」
『ジンが出て行ってからすぐにジェフと話し合ったから、の』
そう言いながらも仮面の剣士は、部屋の中に入ってくる。昨日までと変わらず怪しい仮面と、肌……もとい骨が全く見えない服装である。
「ここに来たということは、結論が出たということでいいのか?」
『うむ。……ぜひ我を、ジンの旅に同行させて欲しい。この剣でお主の役に立ってみせよう』
そう言うと、アンドレは腰を大きく折って深く礼をした。
「倉庫でも話したが、アンドレのような強い人が仲間になってくれるならありがたい。これからよろしく頼む」
ジンが手を差し出す。それに気づいたアンドレも手を差し出してお互いに握った。
『ちなみに、これからどうするつもりなのだ? この町が最終目的地ではないよな?』
「もちろんだ。ひとまずルミオン伯爵の屋敷がある場所まで行きたい」
ほう、とアンドレが呟くがジンは続ける。
「そこで待っている人が居るはずなんだ。ただ、俺の
EWOにおけるダンジョンは、一般的なRPGのダンジョンと変わらない。洞窟、塔、遺跡……そんな人里離れた場所で大量の魔物が出現し時には宝もある、そんなハイリスクハイリターンの危険区域だ。
アンドレは仮面を指で叩こうとしていたが、すぐに結論は出たようで腕を組んだ。
『ならばタルバンを次の目的地とするのが良かろう。あそこにはルミオン伯爵の屋敷の1つがある。加えて近くのダンジョンから出る資源で栄えている都市でもある。魔物のレベルは少々高めの15程度ではあるが、の』
「平均15レベルか……確かに厳しいかもしれないが、レベル25まで届かせることも不可能ではないな」
ジンの頭の中には、15レベルの魔物たちが思い浮かんでいる。そしてダンジョンの性質やドロップ品、宝物の情報もだ。
『……提案した我がこう言うのも変な話だが、危険だぞ? 毎日何人もの冒険者がタルバンのダンジョンで命を落としていると思っておる』
アンドレの真剣な忠告が部屋に響く。
ところがジンは、失礼だと思いつつも笑っていた。
『何がおかしい?』
「危険はもちろんわかっている。だけどなアンドレ、
99という数字にはアンドレも驚きを隠せなかったようで、反射的にジンに詰め寄った。
『今の
「落ち着けよアンドレ。俺がどういう人間なのか、もう忘れたのか? 効率良く強くなる方法なんていくらでもある」
と、ジンは自らの頭を指さす。
ジンがEWOで得た知識は、今までの経験から9割方使うことができる。
(残りの1割に当たってしまった場合は、まあその時考えればいいか。命に関わる内容は確実に検証してから進めればいいしな)
時には楽観的な発想も必要だと半ば無理にジン自身を納得させつつも、頭を指していた手で今度は自身の胸を叩く。
「任せておけ。ダンジョンの場所さえ分かれば、25レベルなんぞあっという間だ。明日にはそのタルバンという都市に向かうぞ」
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