2 冒険者ギルド

 冒険者ギルドの扉を開けると、そこにはEWOでも見慣れた光景が広がっていた。


 いくつも並んだ丸テーブルには筋骨隆々の男たちが昼間から酒を飲んでいる。

 EWOでは、そんな奴らは予めプロブラムされたことしか話さないNPCだったのだが、今は違う。余計に絡まれないようにしないとな……酔っ払いは怖い。


 また、酒の匂いも感じられるため、見慣れた光景ではあるが確実に違うものだと思った。


 入って右手には掲示板がある。ここから依頼を選んで受付嬢のところまで持っていくと、依頼が受けられるはずだ。


 その受付嬢は入り口の扉から一直線上の先にあるカウンターに座っている。こんなガラの悪い所にもかかわらず微笑んでいるのはさすがプロといったところか。


 感心しながらカウンターに近づくと、受付嬢から声をかけられた。


「ようこそ、ハクタの街冒険者ギルドへ。ギルドにいらっしゃるのは初めてでよろしいですか?」


 受付嬢はにこにこと愛くるしい笑顔を向けてくる。胸のネームタグには「マゼンタ」と書いてある。


 なるほどその名前に似つかわしい綺麗な明るい赤紫色の髪だ。


「そうなのだが、どうして初めてだとわかったんだ?」


「あはは、簡単ですよ。冒険者の証であるネームタグを付けていないじゃないですか」


 そう言いながら、マゼンタは鎖骨の間あたりを指差す。


 見回してみるとなるほど、ギルドにいるほぼ全員の首にはドッグタグのようなプレートがぶさらがっていた。EWOではそんなものはなく、ただただ情報としてステータスに記載されていたのだが。


「と、いうわけで、何も知らない貴方に冒険者のなんたるかをこの私が教えてあげます! というわけでそちらにおかけください!」


 ふんすっ、とマゼンタが大きな胸を張りながら、カウンター横のテーブルを指してくれた。


 ありがとう、とお礼を言って座ってみると、マゼンタの代わりに椅子がぎぃ……と不満げな答えをしてくれた。


 マゼンタはカウンター後方に座っている別の職員に声をかけ、受付業務を代わってもらっていた。現実ではごくごく当たり前のことなのだが、仁はEWOとの細かな違いに感動しっぱなしだった。


「さて改めまして、ハクタの街冒険者ギルドにようこそ。受付のマゼンタです。お名前はなんとおっしゃいますか?」


「……仁だ」


 彼女が名字もないただのマゼンタ、という名前である可能性が高いため、仁もそれに合わせて名前だけ答えた。


「わかりました、ジン様。早速いろいろ説明させていただきますね」


 ——さて、彼女の話を要約するとこのようなことであった。


 ・冒険者ギルドは全世界にある組織で、人々の困りごとを解決し、より良い社会を目指すことを目的としている。


 ・ギルドが受け取った困りごとは依頼として張り出され、ギルドの構成員はそのランクに応じて依頼を受けられる。


 ・ランクはストーンブロンズアイアンシルバーゴールド魔銀ミスリル王金オリハルコン金剛鉱アダマンタイト、の順で高くなる。もちろん登録時はストーンから。


 ・ランクの昇格・降格はギルドへの貢献度=依頼の達成状況をもって判断する。なお、迷惑行為や犯罪行為を行った場合は資格剥奪もあり得る。


 ・依頼は成功すれば報酬がもらえ、失敗すれば違約金が発生する。違約金は依頼を受ける際に前金として支払う。成功した場合にはそれが返ってくる。


 ・冒険者であれば、ギルドの買取カウンターで魔物素材や鉱石を全国共通の価格で売ることができる。もちろん売るかどうかは各個人の自由。


 ・その他鍛治屋、宿屋、薬屋などの斡旋も行っている。


 聞いていてジンはEWOとほぼ同じ世界ならこれくらいかなあと思っていたのだが、ここからがEWOと異なるところだった。


「次に職業についてですが、ジン様の職業は自分でお分かりですか?」


無職ノービス……のはずだが」


「そうなんですか!? 失礼ですが、お年は……?」


 これは困った。


 佐藤仁としての年齢は29歳だが、今の肉体年齢は明らかにそうではない。自分で確認した範囲では高校生くらいだ。


「じゅ、18です」


 咄嗟のことでつい敬語が出てしまったが、許してほしい。流石に本当のことを言っても信じてもらえないだろうから。


「そう……ですか……これから聞くことはジン様にとってはショックかもしれませんが、心して聞いてください」


 神妙な面持ちで話し始めるマゼンタを見て、まさか無職ノービスでは登録できない、なんてことを言われるんじゃないか。だったらもう少し後でギルドに来るべきだったのでは……?


 そんなことをジンが考えていると、マゼンタはゆっくりと話し始める。

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