【5章開始】ジョブマスターの転生冒険記―ゲームの世界でジョブ・アイテム・図鑑をコンプした廃人ゲーマーは、転生先でも全てを集めるようです。

りゅーいち

プロローグ

1 ジョブマスター

 勇者が自身の剣に光を集め、それを流星のように叩きつける。

 標的となった巨竜の体力が0になる。

 そして、ボス討伐完了のイベントムービーが流れる。

 ゲームの一つの終着点ともいえる、“魔王”の討伐が成された。


 このゲームはエバーワールド・オンライン——通称EWO。

 ネット世界にその名を轟かすMMORPGの一つである。


 西洋ファンタジーの世界観を踏襲しつつ、ストーリーとしては魔王の討伐、犯罪者組織の壊滅など、いわゆる王道をいく物だ。


 更には釣りや農耕などのスローライフ要素、髪型や服装、顔の造形など細かなところにもこだわれるアバター要素など、自由度の高さをウリにしていた。


 ここまで聞くと正直どこにでもありそうなMMOであるが、この“自由度”が段違いに高い。


 プレイヤーが作成できるキャラクターは、種族だけで100種、職業は300種以上存在し、そのほとんどが組み合わせ可能であるため、パターンは単純計算で30万通りあることになる。


 ゲームバランスの都合上、全ての職業と種族を1つのキャラクターで網羅することは不可能だが、EWOでは1アカウントにつき500体までのキャラメイクが可能であるため、無数とも言える組み合わせを試しながら、自分だけの正解を探すことができる。


 更に作成可能アイテム、ドロップアイテムも相当な量存在し、攻略サイトにも全てが載っていないのではないか、と揶揄されることもあるくらいだ。



 さて現実に話を戻すと、ムービーが終わり、戦闘リザルト画面に移る。ラスボスを倒した経験値はもちろん莫大である。魔王を討伐したキャラクターはあっという間に最大レベルになった。


 魔王討伐後は自動的にプレイヤーが設定した拠点に移動されるのがEWOのシステムであるが、そこでゲーム運営からのチャットが届く。


 ——おめでとうございます! あなたのクラン「三千世界」は称号“ジョブマスターズ”を獲得しました!——


 称号。

 ある一定の実績を獲得した際に運営から届くものだ。


 個人用と、クランープレイヤーが任意で所属できる集団ー用の2種類があり、チュートリアルやクラン立ち上げをこなすだけでもらえるものから難しいものまで、いくつも種類がある。


 今回の“ジョブマスターズ”は難しい側の最たるものだ。


 その取得条件は、「クラン内に、全ての種族、全ての職業が最大レベルで在籍している」こと。


 つまりクラン「三千世界」には300を越えるレベルカンストキャラが在籍していることになる。


 MMOにありがちなことではあるが、レアアイテムの獲得やレイドボスの討伐、最難関と呼べる称号の獲得ともなると、運営が同じような内容をアクティブプレイヤー全てに発信する。すると全体チャットが動き出した。


「三千世界って、あの三千世界か!?」

「すげええええ!!!」

「ついにやりやがった!!!」

「amazing!!!!」

 ………………

 …………

 ……


 その勢いたるやチャットサーバーが落ちるのではないかと思うほどだ。


 この騒動は何も、「三千世界」がゲーム内初の“ジョブマスターズ”だからではない。


 ——ゲーム内で明言こそされていないが、


 「三千世界」のプレイヤーはなのだ。




(やった、ついにやったんだ……!!!!)


 佐藤仁、29歳。

 職業、工場作業員。

 彼の心は今、達成感であふれている。


 佐藤仁は生粋のコレクター気質であった。


 まだ幼稚園に通っていた頃、駄菓子屋の軒先にぶら下がっているスーパーボールの景品に心奪われたことが最初だっただろうか。


 親と店先のおばあちゃんに頼み込んで全てのクジを開け、手に抱え切れないほどのスーパーボールを持った時のえもいわれぬ達成感。あの感情を、未だに彼は忘れていない。


 そんな彼がEWOを知ったのは3年前。仕事の休み時間に別のゲームの攻略サイトを探っていたときだった。

 事前登録の広告が貼られており、なんとなしに登録したのである。


 そしてサービス開始時、ログインしてチュートリアルを終えたとき、EWOのあまりに広大な世界に触れて彼の情熱に火がついた。


 俺はこの世界で、すべてを集めてみせる。


 そう決意して、いくらやっても現れる未知のアイテム、職業。それらに触れるたび彼の情熱はさらに燃え上がった。


 次々に行われるアップデートにも負けず、時に初心者救済に涙し、時にネットで見知ったプレイヤーたちから無謀だと言われながらも、仁は毎日EWOの世界に入り込んだ。


 全種族、全職業のカンスト。コレクターの彼からしても遠い遠い、それこそ無限にも思えるほどの旅路だった。



 仁は喜びと疲れから思いっきり伸びをした。そこで初めて、夜が明けつつあることに気づく。


(ギリギリで三徹は免れた……でもやりきってやったぞ!!)


 立派なEWO廃人の彼には一徹二徹は当たり前なのだが、三徹ともなるとアラサーの身体には結構キツイ。大型連休でなければ会社は欠勤するところだった。


(腹は減ったけど、この達成感のまま寝たらさぞ気持ち良いだろう……)


 そう考え、彼は椅子に座ったまま仮眠を取ることにした。



 ……自分のゲーム画面が切り替わるのに気づかないまま。

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