早起きは人生のトク! ~爺さんを助けたら、資産4兆円の男の養子になって嫁候補まで出来ました~

猫又ノ猫助

第1話 始まりの朝

 朝早くに起きて、ランニングをする。


 両親が亡くなる前……物心ついた時から続けている、毎日の習慣だ。


 それは、雨の日だろうと、中学の卒業式の翌日だろうと変わらない。


 まぁ、大雪の日にやろうとしたら、幼馴染に泣きながら止められたけど……。


 冬の終わりという事も有って、少し肌寒い中いつも通りのルートを走っていると……道端で体を丸めている老人が居るのを発見した。


「大丈夫ですか!」


「うぅ……」


 突然の事態に頭が真っ白になりかけるが、はやる動悸を抑えて大きく深呼吸して落ち着くと、老人の様子を確認する。


――軽く肩を叩いてみても反応はないし、外傷は……ぱっと見無さそうだな


 素人なりに状況を確認すると、日ごろ持たされているガラケーを取り出し119番へ連絡した。


「はい、119番消防指令センターです。火事ですか?救急ですか?」


「救急です。桜咲市○○の公園近くの路上で老人が倒れてます! 呼吸はしていますが、意識がありません。」


「分かりました。すぐに其方へ向かいますので、お名前と電話番号をお願いします」


「名前は大空 海人おおぞら かいとです。電話番号は……」


 そう回答すると、電話が切れ5分と経たないうちに救急車のサイレンが聞こえて来る。


「爺さん、後ちょっとだ。頑張れ……」


 聞こえているか分からない爺さんへそう声をかけていると、救急隊員が車から担架を持って降りてきた。


「連絡いただいた、大空 海人さんですね?」


「はい、爺さんの容態は?」


「すみません、現状は何とも……これから病院へ向かうので、付いて来て貰っても良いですか?」


 そう問いかけられて、一瞬自分の暮らす施設へ連絡するか迷うが……頷いた。


 それからの流れは、とんでもなく長かったようにも、短かったようにも感じられる。


 救急車の中では心電図? やらなんやらで爺さんの容態を救急隊員の人達が確認しながら移動し、病院へ着いたと思ったら車輪のついた担架の様な物――ストレッチャーで即座に救急治療室へ運ばれていった。


「そろそろ施設に連絡入れないと……って凄い数着信来てんな」


 治療中の赤ランプが点いた部屋をボーっと眺めていたが、ランニングに出てからかなりの時間が過ぎている事を思い出し、ガラケーを確認してみたら着信が20件以上来ていた。


 急いで病院の外へ出て連絡を入れると、ワンコールでつながった。


「海人君!? 今どこに居るの!?」


 鬼気迫る勢いで幼馴染――南雲 由香里なぐも ゆかりの声が聞こえてきて、思わず頬を掻く。


「ごめん、今病院で――「海人君怪我をしたの!?」」


 そんな声が聞こえたかと思うと、ドサッと倒れる音と共に、妹や弟たちの「由香里お姉ちゃんしっかりして!」と言う声が聞こえて来る。


「いや違う違う、ランニングしてたら倒れている老人を見つけて、病院までつきそってたんだ」


 そう説明すると、あからさまにホッとため息が漏れたのが聞こえて来た。


「海人君今どこの病院に居るの?」


「えっと、四菱大学病院だな」


「私もすぐ行くから!」


 食い気味にそう言われると電話がぷつりと切れて……再度頬をかく。


――俺がケガした訳じゃないんだから、由香里が焦る必要はないと思うんだが……


 そう思いながら、再度救急治療室へ戻ろうとしていると、すぐ傍で黒塗りの見るからに高級そうなリムジンが停まり、一人の少女が下りて来た。


 腰ほどまでもある鮮やかな栗色の髪、明らかに日本人離れした目鼻立ち……見るからに高級そうな洋服やバッグを携えた姿は、まるで別世界の住人の様だ。


 その少女が一瞬俺の方を向いた様に見えたが、直ぐに病院の入口へ向き直ると、駆け足で走って行った。


「……っと、俺もボーっとしてる場合じゃないか」


 自分に思わずツッコミを入れると、少し速足で救急治療室へと戻る事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る