暁、ふたりの行方(15分間でカクヨムバトル)

春嵐

01

 夜が明ける。


 夜が終わる。街の灯り。わずかに点っていたものも、消え去って。信号だけが、ちかちかしている。


 わたしは。


 ここで、立ち尽くしてぼうっとしたまま。


「だめだな、わたし」


 何も、できなかった。


 わたしの知らない仕事でつかれて帰ってきて。玄関で倒れて眠る彼。普通の恋人同士なら、彼を介抱して。ベッドまで運んで。二人で寝るところなのに。


 それが、できない。


 こわい。


 この年になって、まだ。したことがないから。こわかった。


「だめだな、わたし」


 信号の点滅。赤から、青へ。そしてまた、青から赤へ。それをずっと、眺めて。夜が朝に変わっていくなかで、ひとり。立ち尽くす。


 彼は。


 わたしのことを、見放しただろうか。


 たぶんわたしが部屋に戻ったら。彼はいなくて。そしてもう、彼と二度と会うこともない。


「そんな人生だよね。わたし」


 勇気がない。


 いつでも、足踏みしてしまう。青信号なのに、渡らないで。赤信号がこわくて、別な道を歩いてしまう。そして、結局、どこにもたどりつけない。今のわたし。


「いやになってきたなあ」


 涙だけが、流れる。


「ああ。いやだ。いやだなあ」


 どこにも踏み出せなくて。朝と夜の隙間で、立ち尽くすだけのわたし。


 遠くで車の走る、静かな音。

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