第61話 ミスリル冒険者
現在開発中の『ピュリフィンシート』は、高濃度アルコールをハンカチに浸して金属筒に収めた衛生用品だ。
クラウスくんやレイチェル嬢、キャロルにモニターになってもらって色々と改良を加え、かなりいい感じに仕上がってきている。
調合するハーブには【薬草学】のスキルを駆使してこだわり抜いた。心を癒す香り、傷の治癒だけでなく体力や魔力の回復効果を持つオイルを加えている。
効能的には完成している。あとは如何にコストを抑えるかが現在の課題だ。調合しているハーブの中でより安価に代替できるものはないか。
悩んだ末に、シュモネー先生に相談してみることにした。
「大陸中を旅しているシュモネー先生だったら、何か良いハーブを知ってるかもしれないしね」
ぼくはシーアの手を引いてシュモネー先生の部屋へ足を運ぶ。
「あら、キーストンさんにヴィルフェリーシアさん。ちょうどわたしの方から会いに行こうとしていたところです」
そういうとシュモネー先生はぼくたちを部屋に招いてくれた。
「ぼくたちに何か御用でしたか?」
「はい。お二人が見とおっしゃっていたヴィドゴニアに会ってきましたよ。その件で」
「えぇ!?」
ぼくは驚きのあまり大声を出してしまったけれど、シーアの方はもっと凄くて、全身の毛が逆立ち、尻尾を真上にピンと立てて震えるほど驚いていた。
「冒険者のツテを使ったら意外と早く辿り着くことができました」
そういってシュモネー先生は胸元から白銀色の筒をチラリと取り出して見せてくれた。
「ミスリル筒!? シュモネー先生はそんなに凄い冒険者だったんですか!?」
冒険者ランクはブロンズから始まって、シルバー、ゴールド、プラチナと続く。
ゴールドクラスともなれば誰もが認める一流の冒険者であり、プラチナとなると何か伝説がついて回るほどである。
ちなみにガラム先生はプラチナクラスだ。ぼくは王都やロイド子爵領の冒険者ギルドや酒場で吟遊詩人がガラム先生の冒険についてバラッドを歌うのを何度か聞いたことがある。
プラチナクラスというのは、何らかの偉業を成しえた者に対して冒険者ギルドから敬意を込めて捧げられるものなのだ。
ミスリルはそのさらに上にある最高ランクのクラスなのである!
ミスリルクラスの冒険者は王から直接のクエストの依頼があり、その活動にあたって勇者とほぼ同じ支援を受けることができる。
これはミスリル冒険者を勇者と見立ててることで勇者支援体制の拡充を図るという意味もあったりするのだ。
ちなみに現在までミスリルクラスとして知られているのは、連合王国の近衛騎士長エルヴァスと宮廷魔術師長のマリーネだ。
エルヴァスとマリーネが若き炎王ウルスと共にどれだけの偉業を成し遂げたかについて知らない王国民はいない。
逆に言えば一つの国を成すような
一般冒険者にとってミスリルクラスは、王様から認められた王国抱えの冒険者で、王族や貴族がなるものという認識だ。
しかし、実際には明確な認定基準が用意されている。なので王国と縁もない庶民上がりの冒険者であってもミスリルクラスに至る道は整えられているのだ。
ただその基準はとてつもなく厳しいものであることは間違いない。その基準を作った本人――前世のぼくが言うのだからそれはもう間違いのないことなのだ。
そうミスリルクラスを設けたのはウルス王――前世のぼくなのである!
勇者に近づくほどの偉業を成し遂げた冒険者じゃないとミスリルに成れない。それほど厳しい基準を設けたはずなのだ。
ミスリル冒険者の証であるミスリルの冒険者筒をシュモネー先生が持っていた。
これはウルス王崩御の後、連合王国にミスリル冒険者が誕生するような、何かとてつもないことが起こったということであり、それを解決するのにシュモネー先生が大きな貢献をしたということでもあった。
「あら? キーストンさんはこれが何かお分かりになるのですね」
「えっと、いや、その輝き方が銀とは違ってて……あの、その、ほら、大聖堂を見学したときに勇者の聖具がミスリル製だったじゃないですか? あれに似てるなって」
ミスリルクラスの筒に施されている意匠は特別なもので、それを知るものはゴールドクラス以上の冒険者と上級職のギルド関係者に限られている。
もちろん、ぼくはウルス王だったので知っていたのだが……。
シュモネー先生の目が一瞬キラリと閃く。
自分でも怪しいほどキョドってしまった。
「ふふふ。そうでしたか」
そういってシュモネー先生はミスリル筒を胸元に押し込んだ。
「まさかキーストンさんがミスリルクラスの筒を見分けられるとは思っていませんでした。ふふふ」
それは嘘だな。わざと見せて反応を見たのだろう。目的は分からないけど。
「ミスリル筒のことは内密にお願いしますね。少なくともここの先生をしている間は静かにしていたいのです」
「わかりました」
「ではこの約束がヴィドゴニア調査の報酬ということで構いませんよ」
そういってシュモネー先生はヴィドゴニアと会ったときのことを話してくれた。
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