第53話 単位クエスト2
ぼくとシーアはシュモネー先生と一緒に馬車の上で揺られていた。3台の荷馬車からなるこの商隊の先頭では、自分の馬に乗ったクラウスくんが先導を務めている。
ポカポカとした陽気と、馬車が進む単調な音、そしてシーアのふわふわしたおっぱい枕がぼくをドリームランドに誘い始めていた。
シュモネー先生は御者を務める商人とずっと何かを話し込んでいるようだけれど、今のぼくはとにかく眠いのだ。
のんびり休暇を楽しんでいるようにしか見えないかもしれないが、これは立派な単位クエストだ。街道を行く商人等を護衛するという立派な課題なのである。
といっても王都から1~2日までの距離に限定されている。これくらいの範囲だと街道にいる限り盗賊や魔物に襲われることはほとんどない。一般人だけでなく冒険者や兵士も頻繁に街道を往来しているからだ。
さすがに夜は危ないけれど、日中であれば護衛なしでも問題はそうそう起こることはない。
現在護衛中の商隊も王都から近い都市との往復を予定しており、特に護衛を付ける必要性もなかったはずだ。
載せているものは普通の食材。飢饉ならともかく、現在はこの程度の食材のためにわざわざ強盗を働くものはいないだろう。
それにも関わらず、わざわざぼくたちに護衛を依頼しているのはなぜかといえば、この商隊の荷主がエ・ダジーマに食材を納入している業者で、生徒たちの教育を支援するために、学校側に協力してくれているという側面が多い。
「いや~、こうしてのんびりしているだけで単位もらえるなんて超良いわー」
ぼくが心地よさそうに独り言をつぶやいていると、先導していた馬がとことこぼくの荷馬車まで下がってきた。
「一応は護衛らしく行動しないと単位はもらえないんじゃないかな?」
完全リラックスモードでシーアにもたれ掛かって休むぼくを呆れるような顔で見ながら、クラウスくんが声を掛けてきた。
「そろそろ交代の時間だよ」
「うーん。もう少し寝ていたかった」
「それは僕に任せてよ」
そういってクスッと笑うクラウスくんの美少女ぶりに胸をときめかせながら、ぼくとクラウスくんは護衛役を交代した。
「よっこらしょっと」
馬の手綱を取ったぼくはシーアに手を伸ばす。シーアは手の位置を手掛かりにぴょんとぼくの後ろに飛び乗った。
「いつもながらすごいね。目が見えてるみたいだ」
クラウスくんが関心したように言う。自分が褒められたわけではないにも関わらず、ぼくはクラウスくんにドヤ顔を向けると馬を商隊の先頭に進めた。
「キーストンさん、先導中は注意を怠らないようにしてください」
シュモネー先生が声を掛けてきた。
「は、はい!」
「向かってくるものを見つけたら、大きな声で報告すること。もし報告をしなかったり遅れたりしたら減点になりますので注意してくださいね」
ぼくは気を引き締めて手綱を握りしめた。先生の注意がなければ、完全休日モードで単位を逃しかねないところだった。
とはいうものの、あまりにも牧歌的で穏やかな行程が続くばかりなので、先導し始めて30分も過ぎる頃には、またそぞろ気が緩み始めて眠気に襲われる始末。
退屈過ぎて何か刺激はないものかと探し続けているので、通りの向こうから人や馬車がやってこようものなら、目ざとく見つけることができるようになっていた。行き交う際に、対向の御者と軽く挨拶を交わすのがちょっとした楽しみなのだ。
ずっとそんな感じで、結局最後まで盗賊は現れることなく、商隊は無事に目的の街に着いた。荷主が宿まで用意してくれているので、寝床や食糧の確保も必要ない。
「皆さんお疲れさまでした。夕食の時間まで自由にしていただいて構いませんよ」
「シュモネー先生はどうするのですか?」
「わたしはギルドに行って所用を済ませてきます。あとこの辺りの魔物や妖異の状況
についても調べてみようかと思います」
地元のギルドならともかく、まだ冒険者資格を持っていない未成年のぼくたちが、見知らぬ街のギルドに入るのはかなり敷居が高い。この国の一般常識的には「ガキの来るところじゃねぇ」と摘まみ出されるところだ。
せっかくの良い機会だし、ぼくたちはシュモネー先生についていくことにした。クラウスくんに目くばせすると、ぼくの意図を理解して頷いてくれた。
「先生、ぼくたちも一緒に行って良いですか?」
「ええ、構いませんよ。ただしギルドでは|コワーい人≪・・・・・≫がいること多いので、先生から離れないようにしてくださいね」
「「はーい!」」
こうしてシュモネー先生の後ろを金魚のフンのようにくっ付いて行くことにした。地元と王都以外のギルドを見るのは初めてだ。
地元のギルドは、ぼくを領主の息子として扱ってくれていたし、王都のギルドは酒場と切り離されているのでトラブルも少なく、エ・ダジーマの学生なら出入りは自由。
それ以外の地方ギルドでは酒場を兼ねていることも多く、酔っ払い同士の喧嘩騒動なんて珍しくもない。そういう場所であるからこそ、生の情報や冒険者の本音を聞くことができる。
エ・ダジーマでは冒険者として学べることは多いけれど、やはり学習向けにお膳立てされた環境下ではなく、地方ギルドを訪れることでリアルな冒険に触れることができるんじゃないかなんて、そんなお気軽なことをぼくは考えていた。
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