第51話 真夜中のシンデレラ気分を味わいたい25歳。

あれから数時間後。

あたしは利用者様を無事居室まで送り届け、パソコン画面で得意の「事故報告書」を作成していた。

佐野さんは「明日書けばいい」と言ってくれたが、転倒させてしまった、責任はあたし。遅かれ早かれ書かねばならぬ作業。


『・・・うん。眠い。』


カタカタとパソコンを打っていると、小久保(さん)が不機嫌そうに現れた。


『休憩貰うから。』『どうぞ。』『報告書、何枚目?(笑)』『数えてる程暇じゃ無いんで分かりませんね。』『・・・ムカつく。』


ムカつくのはこっちだっつーの!!ここが施設じゃなかったら、間違いなく犬のうんこ投げつけてるわい。

あぁ・・・、ストレス発散したい。


報告書を書き終えたあたしは、利用者様の居室1つ1つを見て回り、ちゃんと就寝している事を確認。


『今日は穏やかだな。小久保(さん)を除いては。』あたしは、利用者様が食事や休憩の時に集まるダイニングのカーテンを開け、フロアから見える夜の街の景色を眺めた。


『・・・暗い。』


田舎の街は、みんな寝るのが早いし店が閉まるのも早い。

全然癒されない中、カーテンを閉めようとした時、眩しい光が「パッ、パッ」とあたしの顔に当たった。


『な、何!?』目を凝らしながらよくよく見てみると、懐中電灯を持った佐野さんがそこにいた。

あたしは窓を開け、佐野さんに声を掛けた。


『何してるんですかっ!』『休憩っ、何時から!?』『12時からです!!』『じゃぁ、12時になったら降りて来い!!んじゃな!!』『え、あ!ちょっ・・・』


一体、何を企んでるのかは知らないが今はまだ夜の9時過ぎ。

アホ小久保(さん)が3時間の休憩に入っている。


『何だろう?ま、いっか。12時になったら外出よっと。』


あたしは休憩に入るまでの間、「家に帰りたい」と起き出してきた利用者様を宥め、昔話を聞きながら御家族様から渡されていたお菓子を渡し、機嫌が良くなった所で居室へと戻した。


老人施設は様々な理由があって入所してる利用者様が少なくない。だからこそ、ちゃんと「傾聴」してあげる事が1番の安定剤だとあたしは考えている。


まぁ、それが正解かどうかは分からんけど。


『休憩、終わったんで次どうぞ。』小久保(さん)の休憩タイム終了。12時をとうの昔に過ぎていた。


おっせーと思いながらも、あたしの休憩入り時間は1時。ここから3時までの休憩タイムにはいる。

勿論、何かあった時の為に常時PHSは持参。


『佐野さん、帰っちゃったかなぁ?』


あたしは慌てて一階ロビーへと降り、職員会議出入り口から外へと飛び出した。

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