第18話 腐女子がタバコを辞めると言い張る日。

8時半過ぎ。間も無く『佐野煌太』出没の時刻・・・。今日はとにもかくにも『顔を会わせなくない日』。『良介、あたし今日入浴当番だから、フロアお願いしていい?』『別にいいけと・・・まだ早くない?9時半からでしょ?』『女は風呂入るのに時間が掛かるんだよ。』


今日は男性入浴介助日。苦し紛れの言い訳・・・だけど、良介には通用するのだ。


『あ、美桜も入浴介助着に着替えたりしなきゃいけないもんね。うん、いいよ!任せて。』


着替えなんて、ものの数秒で終わる。取り敢えず何処かに身を隠したい。

・・・そうだ、タバコを吸いに行こう。(典型的な最低女。)

佐野さんはエレベーターを使ってフロア移動する。

佐野さんに会わずに喫煙所へ向かうには・・・。


『非常階段だ。』あたしは何食わぬ顔で堂々とフロアを抜け出し、非常階段のドアを開け、見事脱出成功。一階へと降りる事に成功した。


『ヘヘッ、お手のもんじゃい。』決してサボりではない。身の危険を守る為の手段なのである。

一階に到着したあたしは、悠々とコーヒーまで購入し、喫煙所へと向かった。


『良かった、誰もいなーい。』当たり前だ。この時間帯はみんな仕事の真っ最中。喫煙所になんて来る奴はあたし位・・・


『おい。何サボってんだよ。』・・・へ?この声、昨日も聞いた気がするけど、気のせいかな?おっかしいなぁ。

恐怖からか、顔を声のする方の反対側に向けたまま身動きが取れない。


『ど、どちら様ですか?』『こっち向けば分かんだろーが。』『残念な事に、昨夜寝違えまして、そちらを向く事が不可能な状態なんです。』


間違いない。この声の主は本日、あたしが1番恐れている『佐野煌太』。せっかく脱出に成功したのに、これじゃまるで戦闘中ではないか。


『寝違え?どんな寝方してんだよ?』佐野さんがわざわざあたしの顔の方へと歩いてくる。『あれっ!今度は反対側を寝違えたみたいで・・・』『お前ふざけんなよ(笑)』


佐野さん、お願いだから空気読んで下さいぃー・・・。

別に話す内容なんてないよう。なんつって。


『何?俺を避けてんの?』『はて?どういう意味ですか?』『あっそ。じゃいいわ。んじゃな。』佐野さんがあたしに呆れた様子で喫煙所から立ち去ろうとする。


・・・おい、安部美桜。これで満足なんだろ!?


『ま、待ちたまえ!!』『はぁ!?(笑)』『あれ、あれれ?寝違え治ったみたいです。』『あっそ。んじゃな。』『あ、あの佐野さん!!』


『あたし、タバコ今日で辞めるんです!!』


何だ突然。自分から避けておいて、いざ離れられたら寂しくなる現象・・・。『めんどくせー女』代表取締役です。


『安部が?無理っしょ。』『いいえ、見くびらないで下さい。』『・・・分かった。じゃぁ、賭けようぜ。』『算数は苦手です。』『かけ算じゃねーよっ!!』


『明日から1週間、お前がタバコを吸わなかったら飯奢るわ。』


・・・言ったな。間違いなく聞いたぞ、これは。『飯奢る』=『飯を食う』じゃなくて。


『2人だけでご飯食べる』て、事でいいかな?いいんだよね?

この賭けは・・・負けられない。何がなんでも勝ってやる。


『佐野さん、いいんですね?』『まぁ、お前がタバコを辞めれるとは思えねーからな。あ、勿論職場以外でもたばこ吸うなよ!!』『そんな卑怯な事はしません。多分。』『すんなよっ!!』『しません!!』


『ま、楽しみにしとくわ。』


そう言って姿を消した佐野さん。

あたしは残りのタバコを味わいながら1日かけて吸い終え、日付けが変わった午前0時。

またしてもニコチン切れで悶える夜を過ごした。

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