第2話 女と見られていないのを実感した瞬間
その時、タイミング良く良介からのLINE着信へと画面がきりかわった。
『あ、電話じゃん、出なよ。んじゃね。』『えっ、でもまだ途中・・・』『俺も飯食いたいし。ゲームの事なら他の仲間にも聞けんだろ。元々タバコ吸いに来ただけだし。んじゃな。』
佐野さんはグイッとコーヒーを飲み干し、施設の中へと戻って行ってしまった。あたしは、呆然としながらも鳴り止まない良介からの着信に出た。
『あ、美桜?』『良介、どうしたの?』『俺も休憩に入ったから、何処にいたのかなぁと思って。』いつもと変わらない会話。でも、何故か今日のあたしはイライラしてしまっていた。
・・・アレが近いからか?
『喫煙所にいたよ。でも、寒いからもう戻る。』『そっか。美桜の好きなココア買っておいたから、一緒に休憩しようよ。』良介はいつも優しい。他の介護士からも印象が良く、裏表がない真っ直ぐでとても純粋な人。そんな人に好きになって貰えたあたしは幸せ者なはずなのに、どうしても佐野さんの事が頭から離れない。
『こんなんじゃ、良介に悪いよね。ちゃんとしなくちゃ。』佐野さんには長年付き合っている彼女がいる。あたしにも良介という素敵な彼氏がいる。何も迷う事なんてない。お互い幸せになればいいだけ。
『あ、美桜。おかえり、寒くなかった?』『うん、大丈夫。ねぇ、良介。今度映画観に行かない?』良介をちゃんと大切にしなきゃバチが当たる。佐野さんは、あくまでもあたしの上司であって、ゲーム仲間なだけ。それ以上は何もない。『映画?いいね!でも、美桜と休みが一緒の時ってあったかな?』『来月、一緒の日に希望休取ろうよ。』『俺は美桜に合わせるよ。久々だね、楽しみにしてる!!』良介の笑顔が眩しい。それにつられて、自然とあたしも笑顔になってしまう。
『大人の恋愛』の定義なんて良く分からないけど、あたしのすべき事は、良介をこれからもっともっと好きになる事。まだ向き合って4ヶ月。これから沢山楽しい事が待ってるはず・・・。
早番だったあたしは夕方4時で勤務終了。
『お先に失礼しまーす。』クタクタの身体に家に着くまでが仕事だと言い聞かせ、三階のフロア担当のあたしは一階へ下りる為エレベーターのボタンを押した。
『美桜!お疲れ様。仕事終わったらLINEするね。』『うん、良介は残業?』『少しだけね。何か忙しそうだから、落ち着いたら帰るよ。』こんなにいい人・・・粗末にしたらバチが当たる。
そう自分に言い聞かせたあたしは、良介に別れを告げ一階へと下りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます