第二百五十五話 再突入(2)
皇国艦隊はどんどんと対地高度を下げている。この状態で回避行動をとると、降下地点が予定の場所から大きくそれてしまうのだ。それを避けるには、迫る近衛隊を艦隊に接近させないよう迎撃するほかない。
そういう訳で、輝星らは艦隊からやや離れた場所で近衛隊を待ち構えることにした。戦艦の主砲ならば、ギリギリ射程内に納められる距離だ。当然、輝星以外にも多数の直掩機が展開している。
「流石の
そう言いながら、ディアローズはサブモニターにちらりと目をやる。そこに表示されているのは、彼女が持ち出した新武装の詳細スペックだった。
8.5Mwロングブラスターライフル。輝星が普段愛用しているライフルと共通した基本構造を持つ、長砲身仕様の遠距離支援型モデルだ。
「貴女は鞭だのショットガンだの、白兵装備ばかり使っていたようなイメージがあるのだけどね。使いなれない武器で戦って、大丈夫かい?」
「きちんと訓練はしておる。安心するのだ」
体の弱い輝星を乗せているという都合もある。ディアローズがそのまま近接格闘戦などした日には、彼はぺちゃんこにつぶれてしまいかねない。肉体へ負担を考えれば、射撃戦しかできないというのが正直なところだった。
「なら結構。リレンさん並みのご活躍を期待していますよ」
「無茶を言うな、無茶を!」
狙撃一本で単なる傭兵から四天まで上り詰めた女の真似事は、流石に無理だ。ディアローズは怒ったような口調で言い、輝星とヴァレンティナがくすくすと笑う。
「……と、来ましたね。全機迎撃開始! 一機たりとも通してはなりませんよ!」
しかし、そんな緩んだ空気も長くは続かない。敵機接近を伝える
「さて、さて。腕が錆びついていなければ良いのだが」
そう呟きつつ、ディアローズは慎重に機体を加速させた。初撃はほとんど牽制のようなものだから、敵弾は問題なく回避することが出来た。彼女はほっと息を吐きだす。"エクス=カリバーン"はディアローズのかつての愛機"ゼンティス"よりずいぶんと機体バランスが悪い。操縦には非常に気を遣うのだ。
「I-conがカットされてるから、俺は役立たずの状態だぞ。危なくなっても警告できないから、気を付けてくれ」
輝星が申し訳なさそうに言った。現在、思考制御システムであるI-conは輝星ではなくディアローズに接続されている。彼の鋭敏な感覚はすべてI-conあってのものだから、普段のような超人的な反応や第六感は使えなくなってしまっているのだ。
「わかっておるとも。……そちらの方が操縦を代わってもらった本来の目的だからな」
「……どういうこと?」
「なんでもない」
バツの悪そうな笑みとともに、ディアローズは会話を断ち切った。そのまま、こちらに向けて加速をかける"レニオン"に照準を合わせる。敵機の映像に被せられたカーソルが赤から緑に変わるのを待ってから、白魚のような人差し指で操縦桿のトリガーを弾く。
長大な砲身から放たれた緑のビームは亜光速の矢となって"レニオン"に向かって飛んだが、その攻撃は予測されていたらしく容易に回避されてしまう。間髪入れずに発射した二発目、三発目も同様に避けられた。小さく舌打ちするディアローズ。
「自分の腕が落ちているとは思いたくないものだが……さすがは近衛と褒めておこうか!」
味方であるなら心強いことこの上ないが、敵に回ればなかなか厄介だ。その上、ディアローズ自身ストライカーを操縦するのは久しぶりということで、感覚が鈍ってしまっている。ため息を吐きたくなるが、なんとか我慢した。
「そこっ!」
そこへ、シュレーアが肩部ブラスターカノンを撃ち込んだ。ディアローズの射撃を回避して体勢を崩していたレニオンは、これに対応しきれずに腰に直撃を喰らってしまう。オイルをまき散らしながら、両足がちぎれ飛んだ。
「うむ、良い援護だ!」
獲物を横取りされた形になるが、むしろありがたいくらいなので、ディアローズは称賛の声を上げた。近衛隊は油断のならない敵であり、一機ずつでも確実に仕留められるならそれに越したことはない。
「ちょうど良い、愚妹には猟犬の役割をしてもらおうか。
「また、調子に乗って……」
カチンときた様子のヴァレンティナだったが、確かに有効な戦法ではある。彼女としても、"レニオン"はたやすい敵ではない。連携して戦った方が有利なのは確かだ。苛立つ心を理性で押さえつけ、ヴァレンティナは深く息を吐く。そのまま、スロットルを全開にした。
「憂さ晴らしの相手を務めてもらおう!」
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