第七十九話 廃墟都市強襲(3)

 重厚なフォルムに似つかわしくない俊敏な動きで、重ストライカー"ウィル"が廃墟の街を疾走する。メガブラスターライフルが吠え、強力な火線が"カリバーン・リヴァイブ"を襲った。


「当たるかァ!」


 しかし輝星はこれを紙一重で回避し、真っ赤なビームは廃ビルの強化コンクリートをむなしく貫いた。


「連射は効かないんだよ、その手の武装はッ!」


 そしてその隙を逃す輝星ではない。フットペダルを踏み込み、急加速。後退して逃げようとする"ウィル"だが、"カリバーン・リヴァイブ"の方が速い。熱核ロケットとジェットの二重奏とともに"ウィル"に急迫した輝星は、向けられたメガブラスターライフルの射線から巧みに逃れつつパイルバンカーで"ウィル"のエンジンを刺し貫く。


「こ、このっ!」


 僚機の仇を討とうと"ジェッタ"がミドルマシンガンを構えたが、その砲身にどこからともなく飛んできたクナイが突き刺さる。サキの"ダインスレイフ"からの援護だ。


「こっちもだッ!」


 慌ててマシンガンを捨てる"ジェッタ"だったが、その隙を逃す輝星ではない。再びパイルバンカーが唸り、"ジェッタ"はオイルをまき散らしながら地面にたたきつけられる羽目になった。


「必要なかったか?」


「いや、助かる!」


 ロングソードを持った"ジェッタ"と切り結んでいたサキからの通信に、輝星は笑いながら返した。確かに回避は可能だったが、急な機動は身体に堪える。スマートに倒せるならそれに越したことはないだろう。

 そのまま輝星は、次々と帝国機を撃破していった。虎の子の"ウィル"も、ゼニスを止めるには力不足だ。まして、乗っているのが輝星となれば"ジェッタ"だろうが"ウィル"だろうが大して変わらない。


「た、隊長! なんとかしてくださいよ!」


「わ、わたしか!? く、くそー……」


 奇襲の出鼻をくじかれた帝国部隊からすれば、こんな事態はたまったものではない。助けを求める部下の声に、隊長は深々とため息を吐いた。勝てる気はしないが、ここで退けば沽券にかかわる。仕方なく機体を前進させた。


「やあやあ我こそはバンカ子爵エリー・ボーゼス! 名のあるつわものとお見受けする! いざ尋常に勝負!」


 公開回線を使った名乗り上げに、輝星はニヤリと笑った。一騎討ちは大好物だ。


「傭兵、北斗輝星! "カリバーン・リヴァイブ"だ! 謹んでお受けしよう!」


「げぇ!? "凶星"じゃないか! こ、こうなればヤケクソだッ!」


 思った以上の相手だと理解した隊長が顔を真っ青にしたが、今さらどうにもならない。乗機の"ウィル"にバスタードソードを抜かせ、全速力で突っ込んできた。


「いけーっ! 隊長頑張れーっ!」


 黄色い声援が飛ぶが、現実は無情だ。バスタードソードの大上段からの振り下ろしは銃剣によって巧みに逸らされ、カウンター気味に放たれたパイルバンカーが"ウィル"の腹に突き刺さる。


「ううっ、一歩及ばず……」


「一歩どころじゃないですよ隊長!」


 無線から漏れ聞こえてくるやり取りに苦笑した輝星だったが、ふと表情を硬くして天を仰いだ。


「砲撃来るぞー! 退避ー!」


 公開回線を開いたまま、輝星は大声で叫んだ。双方のパイロットたちがあわてて散開し始めるのを確認しつつ、擱座した"ウィル"を掴んで輝星も飛ぶ。やや遅れてレーダーに大量の飛翔体が表示され、耳障りな警告音が鳴り始めた。

 数十秒後、廃墟の街に無数のロケット弾による猛爆が襲い掛かった。そのすさまじい火力は、着弾地点からかなり離れた場所に居た"カリバーン・リヴァイブ"を百メートル以上吹き飛ばすほどだ。しこたまシェイクされたコックピットの中で、輝星がギリリと歯を食いしばる。


「くそ、あいつら味方ごと……」


 そこでふと、視線の端に動くものを捉えて言葉を止めた。焼け焦げたベビーカーが粉々に砕けた路面を転がっていたのだ。輝星は嫌なものを見たというふうに眉をひそめ、短く息を吐いた。


「そっちのパイロット! ケガはないか?」


 頭をぶんぶんと振ってから、輝星は"ウィル"に呼びかける。エンジンが破壊されればストライカーは動けなくなるが、予備電源で無線は使えるのだ。


「し、死ぬかと思った……何があったんだ?」


「あんたらンとこの重ロケット砲だよ! 乱戦の真っ最中にぶち込みやがった!」


「な、なんてことを……」


 あまりのことに隊長は顔を青くした。まさか皇国が切り札である"凶星"に砲撃など加えるはずもなく、輝星の話は真実だろうすぐに思い至る。


「恩に着る! あなたは私の命の恩人だ! この恩は必ず返させてもらおう」


 そこまで言ってから、隊長は怒り顔で無線に向かってがなり立てた。


「お前たち! 生きてるか!」


「き、奇跡的に無傷でーす」


「死ぬかと思いましたー!」


「よーし、さすがだ!」


 警告が間に合ったおかげで、死者はいないようだ。皇国の方の部隊からも次々と無事の報告が上がってきている。


「どこのどいつが砲撃命令を出したか知らんが、誰に向かってタマを撃ち込んだのか教えてやらねばならん! 無事な機体は砲兵陣地にカチコミをかけろ!」


「了解!」


「血祭りにあげてやる!」


「う、うわ、ナチュラルに帝国を裏切りやがった」


  帝国機のパイロットたちが勇ましい声で答えた。変わり身の早さに唖然とする輝星だが、隊長はニヤリと笑って言う。


「名目上の所属は一緒だろうが所領が違えば別の国と同じだ! 後ろから撃ってくるようなヤツはもはや主君ではない! 貴族としての権利を行使させてもらう!」


「その通りです! やはり帝国は非道! 仕えるに値しない指揮官ですよ!」


 ここぞとばかりに同調したのはシュレーアだ。少数の部隊だろうが、帝国を離反してくれるならありがたい。


「我々も援護します! このような所業を成した者どもに、ともに鉄槌をくだしましょう!」


「オオーッ!」


 盛り上がる(元)帝国兵たち。輝星の頬を冷や汗が伝った。


「気に入らない主君は即裏切る! それがヴルド人の流儀だぜ」


 何故か自慢げな声音でサキが言う。輝星は微妙な表情になって呟いた。


「ヴルド人の統一国家が出来ないハズだよ……」

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