第六十四話 歩行要塞攻略(1)
「面倒なことになりました」
困り切ったような声音でそんなことを言うシュレーアに、輝星は小さく息を吐いてから「どうしたの?」と聞き返した。彼は今、"カリバーン・リヴァイブ"のコックピットに居た。
「帝国の新兵器が出ました。砲撃型の
「うわっ、マジかよ……」
「レイス星系でフルイ大佐の偵察艦隊が壊滅しました。最後の通信で送られてきたデータがこれです」
通信機を通してなお痛ましさを感じさせる口調のシュレーア。輝星はなんと声をかけるべきかと思案しつつも、機体のサブモニターに表示された画像に目を向ける輝星。
「げっ」
思わず輝星も声を上げた。手足の生えた馬鹿みたいに巨大な大砲が、こちらに砲口を向けている写真がモニターに映し出されていたからだ。
「推定重量六万トン? 馬鹿じゃないのか、帝国は」
隣に添えられたデータを見ながら思わず輝星が唸った。主力戦艦クラスの重量だ。それでいて主砲は一門のみなのだから、いったいどれほどの出力のモノを搭載しているのか想像もできない。戦艦と言えど直撃を喰らえばタダでは済まないだろう。
「まさか
「レイス星系とか言ってましたよね、殿下」
そう言って通信に割り込んできたのはサキだ。彼女は機体のコンソールを指で軽くたたきながら、自分の記憶を探る。
「あそこは赤色矮星ひとつに小惑星が少しあるだけのしょっぱい星系のはず」
「開けた場所ってことか。そんな場所で火力オバケに正面から部隊を突っ込ませたら大事になる。殿下、どうします?」
皇国艦隊は現在、各個撃破を避けるために主力をまとめて行動させている。まさか馬鹿正直にこの主力艦隊をそのままぶつけるだなどという選択肢はない。
「回避する案は……」
艦橋に居るシュレーアは、手元の端末に星図を表示させて確認をしてみた。しかしすぐに首を横に振る。
「駄目ですね。レイス星系を迂回するとディーレコ星系まで余計に半月はかかります。これ以上時間はかけられませんよ」
ディーレコ星系は、かつて皇国軍の大規模な基地があった星系だ。地政学的にも有利な位置にあるため、これを奪還できれば戦況はかなり有利になる。今回の作戦の最終的な目標がこの星系だ。
「殿下! こちらの偵察艦隊と接触したということは、むこうもこちらの位置のだいたいの検討をつけているはず。対処するなら出来るだけ早くやらないと、防衛体制を整えられてしまうでありますよ」
「戦艦部隊と合流されれば、十字砲火を浴びてわが艦隊程度消し飛んでしまうでしょう。これは困りましたね……」
ソラナ参謀とレイト参謀長が二人して唸る。普段は仲の悪い二人だが、今回に限って言えば同じ意見なようだ。
「相手は対艦特化です、ここはストライカーで対処するべきかと。傭兵、あなたはどう思います?」
「参謀長!」
苦虫をかみつぶしたような表情でソラナが叫んだ。これほどの大物が、ストライカー程度の火力でなんとかなるとはとても思えない。何しろ、相手は同クラスの戦艦よりも装甲も火力も上なのだ。
「自分ならいけますよ。
「おっ、おい! 大丈夫なのか?」
思わずサキがその言葉を止めた。輝星がルボーア会戦で無茶をして、意識を失ってしまった時のことを思い出してしまったからだ。
「このデカブツを倒せばはい終わりって訳にはいかねーんだ。お前にゃまだまだ出番があるはず、ここで倒れられちゃ困るぞ」
「騎士風情が作戦に口を出すのはどうかと思いますがね」
「へっ、言ってろ。コイツが戦えなくなったら、困るのはお前も一緒だろうが」
映像通信でもないのに、サキは鋭い犬歯をむき出しにして言い返した。いけ好かないババアだ、作戦が終わったら決闘でも仕掛けてやるかとまで考えている。上官とはいえまともに面識もない相手の機嫌など、サキにはどうでもいい話だ。そんなものよりも、戦友であり憎からず想っている輝星の安全の方がよほど重要だ。
「大丈夫大丈夫。ストライカーで戦う分には、
「本当か?」
「嘘ついてどうなる。あのね、
輝星の言葉に、サキのみならず他の三人も頷いた。
「となると、パイロットの技量が露骨に出る。技量勝負になった場合、俺が負けるとかあり得る? あり得ないでしょ」
「ま、まあ……そうですね」
頷いたのはシュレーアだ。
「わかったね? じゃあ、とりあえずさっさと要塞退治の準備をしよう。流石に帝国の本隊まで合流されたら俺でもどうにもならないぞ」
にやりと笑って、輝星はそう言い切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます