第二十二話 強行偵察

「四方八方敵だらけだ!」


「より取り見取りって言うんだよこういうのはさ!」


「袋のネズミの間違いじゃねえのか!?」


 四方八方から飛んでくるビームを回避しながら、輝星とサキが言いあう。敵部隊の数は三十機以上。おまけに後方には戦艦が四隻と護衛の巡洋艦や駆逐艦が控えている。輝星はこれに自分から突っ込んだのだから、自殺行為というほかない。

 

「相手がどれだけ多かろうが!」


 輝星がブラスターライフルから放った緑のビームが、一機の"ジェッタ"の腹を貫く。お返しとばかりに殺到する十以上の火線をひらりひらりと優雅に避けつつ、輝星は再びライフルを撃った撃墜スコアがさらに一つ増える。

 

「やってやるさ! それが俺だ!」


「付き合うこっちの身にもなりやがれ!」


 文句を言いつつも、サキの動きに迷いはなかった。"ダインスレイフ"の全身に取り付けられた追加スラスターとマント装甲を巧みに使って敵機に接近する。紫電が閃き、"ジェッタ"が構えたシールドの上から一刀両断された。


「悪いなあはははははは!!」


「悪いと思ってねーだろテメー!!」


 阿鼻叫喚の叫びあいだ。だが、混乱しているのは帝国側も同じこと。たった二機のストライカーが大部隊を相手に獅子奮迅の戦いを見せているのだ。相対している方としては、たまったものではない。

 

「くそっ、イカれたヤツが来やがったと思ったら腕の方もイカれてるぞ!」


「距離を取りなさい! ゼニス相手に格闘は悪手でしょうが!」


「だからって……うわっ!」


 またも吠える輝星のブラスターライフル。回避機動を取っていたにも関わらず、その敵機は腹をブチ抜かれて沈黙した。追尾されていると錯覚を起こしそうな高精度の射撃だ。

 

「こっちは距離取ってる方がヤバそうじゃないの! 突っ込むから援護しなさい!」


 焦れたらしい一機の"ジェッタ"が腰からロングソードを抜いて"カリバーン・リヴァイブ"へと突っ込んだ。

 

「馬鹿! もうっ!」


 僚機が仕方なしに援護射撃を飛ばす。が、輝星はニヤリと笑ってライフルを撃った。ビームが虚空でぶつかり合い、霧散する。

 

「うっそ……」


「その意気や良し! 付き合ってやろうじゃないの!」


 対艦ガンランチャーを投げ捨て、左手でフォトンセイバーを抜いた。二機が交差し、鮮やかなスパークが散る。

 

「パワー負けしていようが……ッ!」


 セイバーを巧みに受け流す"ジェッタ"。接近戦を挑んでくるだけあり、その剣術の腕は確かだった。しかし輝星の指が操縦桿のトリガーを弾く。頭部連装機銃が火を噴いた。ストライカーの装甲を貫くには力不足な小口径弾だが、狙いはメインカメラだ。


「ちぃっ!」


 サブカメラに視界を切り替えつつ、シールドを構える"ジェッタ"。だが、輝星はこれも読んでいた。するりとその横へと周り、横腹にパイルバンーを突き立てる。破滅的な音とともにエンジンが貫かれ、"ジェッタ"は停止した。物言わぬガラクタとなったソレを蹴り飛ばして杭を抜きつつ、輝星は腰のワイヤーガンを発射した。

 

「これを無くしちゃマズイ」


 空中を漂っていた対艦ガンランチャーにワイヤーガンが命中し、特殊吸着アンカーが砲身に張り付く。巻き取り機構により、ガンランチャーは瞬時に"カリバーン・リヴァイブ"の手元に戻った。フォトンセイバーはすでに胸部のハードポイントへ納めている。


「おい北斗!」


 そんな彼にサキが鬼気迫った声で叫んだ。しかし輝星は答えず、ライフルを後ろに向けて無造作に撃つ。後方から輝星機を狙っていた"ジェッタ"が撃ち抜かれた。

 

「分かってるよ、サンキューな!」


「ちっ、後ろを任せるなんて言ったくせによ!」


 サキは安堵とあきれの混ざった苦い笑顔で言い返した。後ろどころか全方位隙なしといった様子だ。

 

「とはいえ随分艦隊に接近できた。案の定誤射が怖くて向こうはまともに弾幕を張れてねえ、チャンスだぞ! いけ!」


「おーけーおーけー、任せておけ!」


 輝星がフットペダルを踏み込む。"カリバーン・リヴァイブ"が矢のように加速した。新鋭ゼニス・タイプの推力に、一般量産機が追いつくのは不可能だ。数機が阻止しようとブラスターライフルを構えたが、サキがショートマシンガンを乱射してそれを止める。

 

「うっ……く、しんど……」


 加速Gをこらえながら輝星がうめく。尋常ならざる"カリバーン・リヴァイブ"の加速力は、貧弱な輝星の肉体にはつらいものがあった。だが、勝つためならば多少の無理は致し方がない。

 戦列から飛び出した"カリバーン・リヴァイブ"に、敵艦隊からの対空砲火が再開される。高角ブラスターカノンはもちろん、主砲の大出力ブラスターカノンすら使用した情け容赦のない弾幕だ。

 

「うぇっ……吐きそ……。うぐぐ、当たってやるかよッ!」


 青色吐息でヤケクソ気味の叫び声をあげつつも、その回避機動は鋭かった。シャワーのようなビームが漆黒の星空を彩る。目星をつけていた大型の戦艦の舷側が、みるみる近づいてきた。

 

「行くぞッ!」


 気合を入れるように叫び、そして歯を食いしばった輝星はぐっと操縦桿を引き上げた。上昇に転じる"カリバーン・リヴァイブ"。ブラスターライフルと対艦ガンランチャーを構えると、トリガーを引いた。ビームと対艦ミサイルが戦艦に向かって飛ぶ。艦橋に設置されていたレーダー・アレイが吹き飛び、一瞬遅れてミサイルが着弾した推進ブロックで大爆発が起きた。

 それだけでは終わらない。輝星はトリガーを連続で引き続け、四連発のガンランチャーの弾倉が空になるまで撃ち続けた。自動で空になった弾倉がガンランチャーの尾部から排出されると同時に機体を再加速させる。

 

「やっぱ、まだ終わらねえよな……」

 

 爆発する戦艦から飛び去りつつ、輝星は背後を確認した。だが、巨大かつ装甲化された戦艦のスラスター・ノズルはまだいくつかが生きていた。これでは完全に無力化できたとは言い難い。荒い息をつきつつ、輝星は笑った。

 

「いいぜ、もう一回だ!」


 ブラスターライフルを腰のハードポイントへとマウントしてから、ガンランチャーに新しい弾倉を叩き込む。そして殺到する機関砲弾を回避しつつ、機体をターンさせた。

 

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