封じた想いに気づく日まで

りゅう

第1話 想いを封じた日




私、弥生風華はたった一つの点を除けばどこにでもいるような女子高生だ。


ちょっと根暗で、友達が少ない私だが、友達が少ないことを気にしたりはしない。


むしろ、友達が少ない。ということは私の秘密を隠すには都合が良い。




「………本当にいいの?」

「うん」

「私に出来ることは封じるだけ、一度封じたら…二度と開くことはできない」

「うん。お願いします」


最近、仲良くなった、長谷川 響くん。私と同じクラスで爽やかな感じだが、大人しいタイプの男の子、何故かいつも教室の隅にいて読書をしている私に声をかけて気にかけてくれていたが、その理由は簡単だった。


私の秘密…それは、私が魔法使いだということ。今時、自分が魔法使いです。なんて言っても笑われて信じてもらえないだけだが、魔法使いは現代に僅かだが、存在する。


ここにいる私が、魔法使いという存在を証明している。だが、魔法使いと言っても、使える魔法は生まれつき持った魔法一つだけ。私が使える魔法は封棺魔法、簡単に言えば何かを何かに封じ込める力だ。私に出来ることは封棺魔法の人の想いを人の中に封じ込める。それだけだ。


昔、友達が失恋した際に、友達の恋心を友達の中に封棺してあげたことがある。封じられた想いはその後、二度と表面に出てくることはなく、友達は失恋を忘れて次の恋へ進むことができた。


今、私の目の前にいる長谷川 響くんの目的は、私の封棺魔法だ。どこで私の魔法について知ったのかは知らないが、想いを封じて欲しい。と言われた。別に、わざわざ仲良くなってご機嫌取らなくても、頼まれれば封棺してあげるのに…と、せっかく仲良くなれたのに…その理由がただのご機嫌取りだとして、少しショックを受けていた。


「後悔、しないでね」

「忘れられるんでしょう?後悔しないよ」


私の封棺魔法は、想いを封じる際に、人の記憶に干渉するみたいだ。私に想いを封じられた記憶は彼には残らない。彼が、今好きな人と過ごした記憶、好きになったきっかけ、そういった記憶も封棺され、別の何かが上書きされる。想いを思い出すことは不可能だ。


「封じるね…」


私は封棺魔法を使う。彼の胸に手を当てて集中し、封棺魔法の詠唱を唱える。詠唱を終えると、彼は倒れてしまう。誰もいない授業後の教室に横たわる彼を私は見つめる。


「恨まないでね…」


想いを封じても、その後、幸せになれるかは彼次第。私が想いを封じたことで不幸になる可能性もある。だが、恨まれても何もできない。まあ、恨むことなんてできないのだが…


数分すれば、彼は目を覚ます。

その頃には、彼の中にあった想いは封じられている。


私はマフラーを巻いて教室を出て帰宅する。11月の現在、外は結構寒い。白い息を吐きながらゆっくりと帰り道を歩く。

人の想いを封じた後は、なんとなく気分が悪い。私は、頼まれたからしてあげただけなのに…





翌日から、彼は私に声を掛けてくれなくなった。

教室の隅で、1人で本を読む私は、自分の席で1人で本を読む彼をたまに見つめるが、彼は気づいてくれない。


所詮、私は、彼にとって、彼の想いを封じるための道具であり、手段でしかなかったのか。と思い、少しだけ寂しさを感じた。






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