第2話 愛に飢えて
誰かが言った、人生の主人公は自分自身なのだと。
今さらおれは誰かの物語の脇役などと思うつもりは一切ない。
おれの人生の主人公は、間違いなくおれ自身だ。
ただその物語の登場人物に、家族はおらず、友もおらず、そして恋人もいない。
本に描かれるようなハッピーエンドもきっと待ち受けていないだろう。
ただただ一人ぼっちの物語だ。
おれの心の中は空虚で満たされ、孤独は毒のように心を蝕んだ。
足掻けど足掻けど、おれに手を差し伸べてくれる人など誰もいない。
この先も同じことが死ぬまで続いていくのだろう。
期待などしても苦しいだけだ。
なら最初から期待しなければいい。
希望も願望も全て閉ざし、暗闇の中でじっと時が経つのを待っていればいい。
そうすれば、何十年か先には死を迎えて自ずとこの苦しみから解放されるのだから。
誰かが言った、世界は愛に満ちていると。
それはきっと正しいのだろう。
親は子を慈しみ、友は仲間を思いやり、そして恋人同士は側にいるだけでお互いを笑顔にできる。
あの事件が起きるまでは、確かにおれの世界にも愛が満ちていた。
家には家族がいて一緒にご飯を食べ、学校には友人がいて共に学び共に遊び、休みの日には好きな子と同じ時間を過ごした。
幸せだった。
満たされていた。
けれども愛とは永遠に続くものではない。
きっかけ一つで瞬く間に崩れ落ちる、ひどく脆弱なものだ。
一つ、また一つと零れ落ちていった。
親愛も友愛も恋愛も、その全てがおれの世界からはあっという間に消え去った。
何も入っていない、空っぽの容器だけが残った。
それ以来、おれは愛を恐れた。
けれども一度知った甘い幸せを忘れることなど到底できず、周りに溢れる愛をおれは羨むことしかできなかった。
誰かが言った、人の幸福と不幸は生涯で調和しているのだと。
だとしたら何故、おれの人生に幸福が刻み込まれたのだろうか。
幸福を知らねば、不幸を知らずに済んだ。
不幸を知らねば、最初から全て0であったのならっ……怯えることも、恐れることも、失うこともなかったのだ。
こんな苦しみを覚えるくらいなら、おれは幸せになんてならなくてよかった。
たった一人、誰かが側に居てくれたならそれだけで……
いや、きっとそれすらも幸福なのだろう。
今ならわかる。
他愛もない時間を誰かと過ごすことがどんなに幸せなことなのか。
昨日のことを、今日のことを、明日のことを、笑って話せる誰かが隣にいることがどんなに幸せなことなのか。
人の温もりを感じられることがどんなに幸せなことなのか。
もしも人生をどこかでやり直せるのなら。
新しい道が暗闇の中に開けると言うのなら。
神様。
どうかおれに、ほんの一握りの愛と幸福を分けてください。
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