30日のお題~2020年9月~
柊木 あめ
01:手を繋ぐ
白髪に黒曜の虹彩をもつ中性的な美貌が儚い霧は白のワイシャツに黒のスラックスに同色の靴を履き、グプトの森をぐるっと囲む遊歩道を歩いていた。早朝の静寂に満たされる空間はうっすらと白く霞み、朝陽が空気中に反射して煌々と輝いている。
「霧!」
突如背後から圧し掛かる黒い影。肩越しに振り替えると宵闇で支給される漆黒のローブを纏った黒髪に緋色の虹彩をもつ中性的な美貌が明るい双子の弟が視界に映る。
「心臓が止まるかと思ったよ」
「そうしたら心臓マッサージしてあげるから大丈夫!」
「そういう問題ではない、かな……。お帰り、澪」
「ただいま、霧。霧は早起きだねぇ……。まだ眠っていればいいのに」
「澪が居ないと落ち着かなくて」
「よく言うよ。この前なんて、僕が居なくても爆睡だったじゃん」
笑いながら右頬を人差し指でグリグリされた。
「まぁ、お陰で霧の可愛い寝顔を眺めることが出来たから満足だけどね」
「久しく澪の寝顔を見ていない気がする」
「必ず霧の方が先に寝ているもんね」
ニヤッと口元を緩めながら一歩前を軽やかに歩く背を追う。
「悔しいな……」
「へへっ。悔しがる霧も可愛い」
「澪の方が可愛い」
クルッと片足の踵を軸にして振り返る澪はふんわり笑った。
「あ。兄様だ」
「兄さんも散歩してるんだね」
「何を見ているのかな?」
「うーん……」
目を細めて十数メートル先を凝視する澪。
「あ、こっち見た」
「行こう、霧!」
「うん」
何方からともなく絡まる指。触れ合う掌。タイミングを計らずとも踏み出す足。
「僕達、二人三脚なら誰にも負けないかも!」
「そうだね」
誰かと張り合いたくはないけれど。と内心で付け足した。
「おはよう、霧。お帰り、澪」
「おはようございます、兄様」
「ただいま、兄さん」
双子の声が揃う。
「何を見ていたのですか」
「…………」
白銀の長髪を流し緋色の虹彩をもつ冷やかな美貌が印象的な夕霧は遊歩道から外れた森の中を指差した。指先を視線で追うとユキトが木と木と間でハンモックに揺られているのが視界に映る。どうやら眠っているようで、此方の気配に気付くことはない。双子が近付くと夕霧も後に続く。
※ ※ ※
相も変わらず宵闇で支給される漆黒のローブを纏い深くかぶったフードと眺めの前髪で目元を隠したユキトの表情は口元だけしか窺えない。常に上弦の月が浮かんでいる印象のある口元は力なく、唇が微かに開いている。規則正しく上下する腹部。時折深い呼吸を繰り返す。
「寝てるね?」
「普段より口が緩い事しか分からない」
「……ねぇ、今ならチャンスじゃない?」
「澪がそうやって笑う時、何か企んでいるよね」
「兄さんも気になるでしょう?」
「ん?」
「ユキトの素顔!」
「……!」
「……!」
夕霧と霧は無表情を見合わせた。
「先ずは無防備なユキトの寝顔を一枚……え?」
携帯端末のカメラ機能を起動させ画面を覗き込んでいる澪は目を丸くする。差し出された画面に視線を向けると般若の面を装着したユキトが映り込んでいた。だが肉眼で見るユキトはハンモックの上で穏やかな寝息を立てている。
『我が眠りを妨げルとはイイ度胸デスネ。澪クン、霧クン』
画面の中のユキトがムクッと上半身を起き上がらせ、視線を此方へ向けた。
「僕は何もしていないのだけれど?」
『夕霧サン。此の際、貴方もデス』
ズイッと画面越しに近付いてきたユキトがメキメキと画面を軋ませながらせり出してくる。
『うがぁあああああああああああああああああああああっ!』
低い咆哮と共にデコルテまでが飛び出してきた刹那、澪は携帯端末を高く放り投げ、右手で夕霧。左手で霧の手を繋ぎ埴輪のような形相で逃げ出した。
「ひぃいいいいいいいいっ! ごめんなさぁあああああああああああああああいっ!」
半べそで叫ぶ澪の声が木霊すると一斉に鳥たちが旅立っていく。
「何故僕まで」
「何故俺まで」
同時に愚痴を漏らす二人の口元は楽しそうだ。。
「まてまてぇ~!」
両手を高く上げて、ガオー! と言いながら追い掛けてくるユキト。此の場に居る誰もがデジャブを感じているが、真実を思い出す者は居ない。
終
――――――――――
あとがき
閲覧ありがとうございます。
誤字脱字ごめんなさい。
20200901
柊木 あめ
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