第9話「ラグタイム」



(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説・歌>



■9話「ラグタイム」



●1

 タイトル。

 夜。

 小さいステージの壁際にピアノが置いてあるダイニングバー「ルース」。繁華街の裏通りにある、窓がない店。

こんな感じとか。もうちょっと狭い。

http://www.youtube.com/watch?v=CXb-aEHW8P0&feature=related

 カウンターに座ってジンジャーエールのグラスを傾けているインチョー。

 メガネをかけず、髪を下ろしてジーパン姿。いつもと違う雰囲気。

 カウンターでグラスを磨いているバーテンのコン。

コン「ピアノ弾かないの?」

 とインチョーに。

インチョー「今日は気分じゃない」

 と素気無い。

 黙ってうなずいてグラスを磨き続けるコン。

コン「どう、学校? うまくやってる?」

インチョー「女子供は嫌い」

 とグラスに口をつけるインチョー。

 肩をゆすって含み笑いするコン。スヌーピーの意地悪笑いみたい。


●2

インチョー「なんで笑うの」

 と不機嫌そうに睨む。

 インチョーのかわいげのなさを面白そうにニヤニヤ笑っているコン。

コン「自分は女子供じゃなくて大人だと思ってるんだ?」

インチョー「じゃあ、何だっていうの?」

コン「不良少女かな?」

インチョー「やめて」

インチョー「コンさんのその余裕がムカつく」

 一枚も二枚も上のコンにからかわれて、かなわないと思ったのか、降参のていで、追い払うように手を振るインチョー。ふてくされたように頬杖をついて目を伏せる。

コン「背伸びもいいけどさ、自分より若い友達を作れるのが大人なんじゃない?」

 と口を開けて笑う。

 インチョー、カウンター席からぷいっと降りる。

コン「あれ? どこ行くの?」

インチョー「若い友達でも作りに行くよ!」

 とイライラするように眉を吊り上げてズンズン行く。



●3

 夜の繁華街の裏通り。

 マキミキの兄、直登を訪ねに、直登のバイト先のクラブを探しに来たチョコ。

チョコ「直登兄ちゃんがバイトしているクラブ」

チョコ「前一回来た事あったからすぐわかると思ったんだけどな……」

 とケータイを手にナビと見比べてキョロキョロしながら歩いている。

(どん!)

 と尻餅をつくチョコ。

チョコ「うわっ」

チョコ「ってえなっ! どこ見て……」

 と顔を上げて怒鳴ろうとする。

 見上げると、角刈りで口髭のサングラスかけたコワモテの大男。ユーこと荒岩優。フレディ・マーキュリー似。

チョコ「……んですか…ごにょごにょ」

 と声が小さくなる。

ユー「いてえよ」

 と顔を近づけてくる。

チョコ{わっ、悪者だ……}

 立ち上がりつつ目を逸らすチョコ。

チョコ{……殺される}

チョコ「転進!」

(だっ)

 とダッシュするチョコ。

ユー「あっ、待て!」


●4

 直登がバイトしているクラブ。表看板と地下への階段。

 クラブのフロア。

 音楽が掛かって踊っている客を眺めながら、壁に寄りかかって退屈そうに立っているインチョー。

 そのフロアを、人がまばらに踊っている中をチョコがカウンターを目指して通り抜けていく、青ざめてるチョコ。

チョコ{……まずい}

チョコ{サイフ、さっき悪者とぶつかったときに落しちゃったみたいだ}

チョコ{小銭入れは無事だったけど}

チョコ{入場フリーでよかった}

チョコ{直登兄ちゃんにワケを話して金貸してもらおう}

 インチョー、チョコを見てあれっと軽く驚く。

 インチョーの前をすり抜けるチョコ。インチョーと目が合う。

 チョコ、不思議そうに見るだけでインチョーとは気がつかないで通り過ぎる。

チョコ「玉木直登さんいますか?」

 とカウンターの店員に。

店員「あいつしばらく休みだよ。旅行」

チョコ「えっ」

チョコ「……どうしよう」

店員「ご注文は?」

 と威圧的に。

チョコ「あ、あの、じゃあ、コーラ」

 とビビリながら。


●5

チョコ{コーラ一杯500円もするのかよ……}

チョコ{牛丼大盛りにお釣り出るじゃんか}

 とコーラのグラスを持ってフロアのスタンドテーブルに行く。

チョコ{腹へったし、これ飲んだら帰ろ}

 じっとチョコを見ているインチョー。

チョコ{ん?} 

チョコ{あの人さっきから俺のほう見てるような気が……}

 とインチョーに気がついてチラっとそっちを見る。

チョコ{……やっぱ見ている}

 じっと上目遣いで見ているインチョー。

 チラチラと盗み見るチョコ。

チョコ{かわいいけど年上だよな、きっと}

チョコ{おれ、モテてんのかな?}

 と苦笑いしながら頭をかく。

 ハッとチョコが顔を上げると、インチョーがそばに来て顔をのぞきこんでいる。

チョコ「あっ」

インチョー「やっぱわかってない!」

 と可笑しそうに。

チョコ「え?」


●6

インチョー「わたしよ、わたし」

インチョー「コンタクト」

 とイタズラっぽく、メガネを指で作って見せる。

チョコ「……あれっ?」

チョコ「インチョー!?」

(ぐー)

 と再びチョコのおなかが鳴る。

 思わず二人でチョコのおなかを見る。

インチョー「ごはん食べに行こうか?」

 と首をかしげて笑う。

 クラブから出た二人。 なにか会話しながら繁華街の裏通りを歩いている。

 こっち、と指差して振り返りながら先を歩くインチョー。ついていくチョコ。

チョコ{学校の外のインチョーは、なんか全然別人みたいだ}

 自分が知らないインチョーの顔に驚き、戸惑って見ている。

 ルースの前。

 ドアを開けるインチョー。

インチョー「ここ」

チョコ{なんだろうこの店? 看板も出てない}

 不安げに看板を探す。

コン「あれ、本当に若い友達作ってきた」

 とインチョーに。


●7

インチョー「同じ学校の子なの」

 とチョコを示して。

 キョロキョロ店内を見回すチョコ。

インチョー「この子になんかご飯」

チョコ「ピアノバーっていう奴なのかな?」

コン「はい、ヨーコちゃんはいつもの辛いのね」

(とん)

 とカウンターにコースターと液体の入ったグラスが置かれる。

チョコ{え、酒?}

チョコ{大人すぎる……!!}

 カウンターには中から見て左にチョコ右にインチョーが座る。

インチョー「ジンジャーエールよ」

 とチョコが何を想像していたのかわかって、フッと笑う。

チョコ「……ここってよく来るの?」

 と出されたチャーハンを食べながら。

インチョー「……お茶しにね」

コン「よくそこのピアノ弾いてくれるんだよ。ラグタイムとか」

 と後の小さいステージの壁際にあるアップライトピアノを指す。

チョコ「ラグタイム? 時間差のこと?」

コン「それはタイムラグね」

 とカウンターに乗り出してツッコむ。

インチョー「くっくっく」

 と口元押さえて笑う。

チョコ「え、ウケてる」

 となんでウケてんのかよくわからなくて途惑っている。


●8

コン「一学年タイムラグがあるヨーコちゃん」

 調子に乗って軽口を叩く。

チョコ「?」

 ポカンとしているチョコ。

インチョー「コンさん」

インチョー「釘刺しとくけど、よけいなこと言わないでよ」

 と睨む。

 コン、ハイハイ、みたいにわざとらしく大きく頷いてみせる。

チョコ{……インチョー、かっこいい}

チョコ{なんで年上の人とこんなに堂々と話せるんだろう……}

 コンと何か話しているインチョー。

チョコ{すげえ俺よりぜんぜん大人だ}

チョコ{遊び慣れているし、こんな店も出入りしてて……}

チョコ{……なんか俺も大人っぽいとこ見せないと}

 ちょっとうつむいて焦るチョコ。

チョコ「こ、ここは俺がおごるよ」

 と気取る。


●9

インチョー「……?」

インチョー「そんなのいいよ。わたしが出すつもりだったし」

 半笑いの怪訝な顔でチョコを見る。

チョコ「お、男が女におごるのは当たり前だから」

 ちょっと意地を張り出す。

チンチョー「……ふーん」

 すーっとつまらなそうな表情に。

 カウンターに並ぶ二人。

インチョー「デートかなんかなの? これ」

チョコ「う、あ、いや……」

インチョー「そういうの嫌いよ」

チョコ「え」

 二人のやりとりを聞いて無表情のコン。

インチョー「男だからおごるとか、女だからおごられるとか」

チョコ{……地雷だった}

 後悔してうつむくチョコ。

インチョー「それにここちょっと高いよ?」

チョコ{えっ?}

チョコ{あっ、そ、そうだ、俺サイフ落したんだった!}

チョコ{ヤッバー!}

 青ざめるチョコ。


●10

インチョー{年上だからわたしが払う、とか」

イtンヨー{それも違うか}

 ふと意地悪になっている自分に気がつくインチョー。反省。

インチョー「……ごめん、そうじゃないの」

 顔を上げるチョコ。

インチョー「あのね」

インチョー「さっきクラブにいてちょっとつまんなかったんだけど」

インチョー「チョコくんと偶然会えてよかったって思ったんだ」

 語るインチョー。

インチョー「今楽しいよ」

インチョー「だから」

インチョー「お礼におごらせて」

 コン、カウンターの中でタバコをすってそっぽ向いてきいてないフリしている。

 店のドアが開いて誰か入ってくる。


●11

チョコ「あっ!」

 とドアのほうを見て驚くチョコ。

ユー「あーっ!」

 とチョコを指差す。

ユー「お前……!」

チョコ{まずい}

チョコ{悪者がこんなとこまで追ってくるなんて!}

チョコ{このままだとインチョーが巻きぞえに……}

 と、サっと反射的にカウンター席から降りて立つ。

チョコ「インチョー、逃げて!」

 悲壮な覚悟。

インチョー「え?」

 ポカンとして後から顔をひょいと出す。

チョコ「うおおっ!」

 とユーにタックル、突進。

ユー「!?」


●12

ユー「どっせい!」

 とチョコのタックルを受け止める。元アメフト部。微動だにしない。手に回覧板持ったまま。

チョコ「インチョー!」

チョコ「俺が悪者と戦ってるから今のうちに早く!」

ユー「何この子?」

(ひょいっ)

チョコ「うわっ」

 とユーに持ち上げられる。

ユー「軽っ」

インチョー「ユーさん、その子降ろしてあげて」

 と心配そうに。

ユー「これ、ヨーコちゃんの友達?」

 アルゼンチンバックブリーカーの体勢。

チョコ「えっ? えっ?」

 途惑うチョコ。

インチョー「チョコくん、ユーさんは悪者じゃないよ」

 苦笑い。


●13

 落ち着いて。

 カウンターに座ってるユー。

ユー「ホラ、サイフ落していっただろ」

 と差し出す。

インチョー「サイフ持ってなかったのにおごるとか言ってたの?」

チョコ「……すいませんでした」

 ユーに頭を下げる。インチョーには言葉もない。

ユー「コンちゃん、じゃあ商店街の回覧板これね」

 とカウントーに置く。

コン「あいよ」

ユー「お前、悪いと思ってんなら後で絶対ウチの店に来いよ?」

チョコ「は、はい」

 クスクス笑っているインチョー。

チョコ「さっきから俺、空回りしてるなあ」

 と下を向いてうな垂れる。

インチョー「なんか「今のうちに逃げろ」とかさ」

チョコ「わあっ」

チョコ「もう言わないでよ……!」

 と頭を抱える。

インチョー「ううん。男の子なんだな、って思ったよ」

 いい笑顔。心底見直した。


●14

 路地に出ているバー「ロック・ユー」の表看板。

 ユーの店。オカマバー。

 ロック・ユーの店内。

チョコ「ユーさんのお店って……」

 顔をゆがめてドン引きしているチョコ。汗だらだら。

 意地悪そうに笑っているインチョー。

オカマA「ねねねね、この子、かわいくない?」

 とチョコを囲んでいるオカマたち。

ユー「さっきこの子あたしに抱きついてきたのよ!」

 もろにハードゲイっぽい格好になっているユー。

オカマA「キャー、スケベ! スケベ!」

 鋭いジャブ。

オカマB「女装させようよ」

 おおはしゃぎでもみくちゃにされるチョコ。

チョコ「!!」

オカマA(OFF)「サイズあるあるぅ」

チョコ(OFF)「……ぎゃーっ!!」

ユー「似合う似合う!」

インチョー「あ、いい」

インチョー「写メ撮ろうっと」

(カシャー)

 翌日。

 学校の喧騒の隅でたまたま顔をあわせた一コマ。座り込むチョコとその横に立つインチョー。

 ケータイで写メを見ているインチョー。

インチョー「きのうは楽しかったね」

 小悪魔的な微笑み。

インチョー「でもみんなにはナイショよ」

チョコ{誰にも言えない……}

 昨夜を引きずり、憔悴しきったチョコ。

 秘密を握られたのはチョコのほうだった、みたいな。






ラグタイム


http://www.youtube.com/watch?v=KOpd2qed_JI



↓コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/85169032


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