第8話「まれさんぽ」



(擬音・吹き出し外文字)

「セリフ」

{人物モノローグ}

<ナレーション・モノローグ・解説・歌>



■8話「まれさんぽ」


●1

■タイトル

 第二音楽室。

 チョコ、一人でギターの練習していたところ。

 今来たばかりのまれが傍らにつっ立って、

まれ「あのね、マキミキはライブ行くから早引けして」

まれ「インチョーは具合悪くてお休み」

チョコ「えっと、じゃあ……」

 と考えて。

チョコ{まれちゃんと二人きりか}

チョコ「ちょっとギターの練習見てもらいたいん…」

 とご機嫌を伺うように作り笑顔で、

まれ「帰ろっか?」

 とかぶせてくる。


●2

 昇降口。

 二人、靴を履き替えながら。チョコ、ギターソフトケース背負ってる。

チョコ「まれちゃんてギター持って帰らないの?」

まれ「第二音楽室の準備室に隠してあるの」

(こしょこしょ)

 とチョコに耳打ち。

まれ「あのね、ギター持ってるとこ見られると『弾いてみて』って言われるでしょ?」

 しーっ、というように唇に人差し指を当てる。

チョコ「そっか、人前で弾けないんだもんな」

まれ「それで色々言われるの、いやなんだ」

チョコ{あんなギターの音を聴いたら、みんなびっくりするだろうけどなあ……}

 と、もったいないなー、とまれを見る。


●3

 商店街を歩いている二人。

 ふと気がつくチョコ。

チョコ「あれ?」

チョコ「まれちゃんって帰りこっちだっけ?

まれ「ちがうよ」

 ぽかんと。

チョコ「どこか行くの?」

まれ「ここどこ?」

 と周りを見回す。

チョコ「えっ」

まれ「こっち行ったことないから行ってみたかったんだ」

チョコ「え、別に用もないのに?」

まれ「お散歩」

 にっこり。

まれ「いっしょにしない?」

チョコ「う、うん」

 途惑いつつ嬉しそう。


●4

まれ「今日見たのはお猿とアライグマが闘っている夢だったんだけどー」

 並んで歩きながら。

まれ「すごい闘いだったよ」

 とチョコのほうをむいて力説。

チョコ「あ、え、うん」

 とまどうチョコ。汗。

まれ「お猿が優勢だったんだけど、途中で目が覚めちゃった」

まれ「チョコくんはどっちが勝ったと思う?」

チョコ「えーと…」

 チョコ、汗。

まれ「おや?」

 と足下を見る。


●5

まれ「この草、ハーブだよ、きっと」

 と、歩きながら道ばたの花壇に生えていた草の葉をちぎる。

 歩きながら葉のにおいを嗅ぐ。チョコ、後からついてくる。

まれ「セージみたい?」

まれ「指がソーセージみたいなにおいがする!」

まれ「嗅いでみて!」

 と、葉をつかんでいた指をいきなりチョコの鼻先に突き出す。

 それがタイミング悪くチョコ鼻の穴にグサーと挿入される。

(ぐさー)

チョコ「ふがっ」

チョコ「いでー」

 とうずくまる。

まれ「わ、わたし手を出しただけで動かしてないよ、悪くないよ」

まれ「チョコくんが勝手に突っ込んできたんじゃん!」

 と、あわあわする。


●6

まれ「あ」

 と通りのむこうを見る。

まれ「ねえねえ」

 とチョコのシャツをひっぱって指差す。

 顔を上げるチョコ。

まれ「あの人、おじいさんかな、おばあさんかな?」

まれ「どっちだと思う?」

 性別不明の老人が歩いている。

チョコ「うーんと……」

まれ「尾行して確かめよう!」

チョコ「えっ」

 と驚く。

まれ「探偵とかスパイみたいだね?」

 と、なんか嬉しそうに老人を追いながらチョコを振り返る。

 チョコ、不安げな顔。

チョコ「ねえ、よしたほうがいいんじゃない?」

まれ「しっ。気づかれるよっ」

 と電柱の陰に隠れて尾行してる。


●7

犬「ワンワン!」

まれ「ぎゃあっ」

 家の塀の柵から犬が顔を出して吠える。

犬「ワンワンワン!」

まれ「お、お助けー…」

 とチョコの後に隠れる。

チョコ「大丈夫だよ」

チョコ「犬が怖いの?」

まれ「だって犬は噛むでしょっ?」

チョコ「まあ、噛むかもしれないけど…」

まれ「それに、犬は、わたしを脅かすの…」

チョコ「意外だなあ。俺は犬好きだけど」

犬「ワンワン!」

まれ「わあ!」

(ぴゅーっ)

 まれ、走って逃げ出す。

チョコ「あっ」

チョコ「ちょ、待って…」


●8

 街道沿いの歩道。

 走りつかれて息切れしているまれとチョコ。

まれ「犬のせいでおじいさんを見失ったよう……」

チョコ「え、おじいさんだったの!?」

まれ「んー?」

 周りを見回す。

まれ「わたし、ここ来た事ある?」

チョコ「え?」

チョコ「…て、知らないけど」

 呆れるチョコ。

まれ「ねえ、わたしここ来た事あるんじゃない?

まれ「あのファミレス見たことある気がする」

チョコ「どこにでもあるファミレスだよ…」

 ますます呆れるチョコ。

まれ「わたし来た事あるよねえ?」

チョコ「いや、俺に訊かれてもなあ…」

 まれ、十字路を見て固まる。

まれ「あ」


●9

 二つの街道が交わる十字路。

 まれが悪魔と契約した場所。

まれ「…この交差点」

まれ「やっぱり」

まれ「来た事あった…」

 と立ちつくす。

チョコ「え?」

まれ「…帰ろう」

 と踵を返す。

 足早に歩くまれと追いかけるチョコの足下。

チョコ「え、どうしたの?」

チョコ「なんかあった?」

 と後から追いながら。

 通りすがりの散歩されているチワワが前から来る。

まれ「……あ」

 まれ、うろたえて目を逸らす。

 チワワ唸る。

チワワ「ウーッ」


●10

 チワワ吠える。

チワワ「キャンキャン!」

まれ「!」

 走り出す。

チョコ「あっ」

チョコ「まれちゃん待ってよ!」

チョコ「俺、ギター背負ってるから…」

■E

 河川敷の土手の上。

 チョコ追いつく。息を切らしている二人。

チョコ{犬に吠えられやすい体質なのかな?}

チョコ「…ね、まれちゃん?」

チョコ「急にどうしたの?」

 と顔を上げて。

まれ「……昔ね」

まれ「…ギターが上手く弾けるようになりたいって」

まれ「願ったことがあったの」

 契約を思い出して後悔しているように視線を落して。

チョコ「え?」

 不安。


●11

まれ「その頃は犬もわたしを脅かしたりしなかったよ」

チョコ「犬?」

 地獄の猟犬のイメージ。契約者を追い立てる。

 二人が立つ土手の上から見下ろす河原。

まれ「……」

チョコ「……」

チョコ「まれちゃんはどうしてギター上手くなりたいって思ったの……?」

まれ「……チョコくんはなんでギター始めたの?」

 チョコを見ず。

チョコ「…俺は」

 照れるように。

チョコ「近所の兄ちゃんが…、ていうかミキの兄ちゃんなんだけど」

チョコ「直登兄ちゃんて、すごくかっこよくて、バンドやってて」

チョコ「俺はそれに憧れてギター始めたんだ」

チョコ「そんで直登兄ちゃんみたく、みんなにすごいって言われたいんだ」

 直登の高校時代の文化祭、後夜祭のステージ的な。



●12

まれ「みんなに聴かせたい?」

チョコ「そう」

チョコ「かな」

チョコ「まだ下手くそだけど」

チョコ「それができたら楽しいと思う」

チョコ「……もしさ」

チョコ「まれちゃんがみんなの前でギター弾いたら」

チョコ「学校でヒーローになれると思うよ」

 チョコ。

まれ「学校…」

まれ「チョコくんは、学校、好き?」

 振り返るまれ。しかし視線を落したまま、ものすごくつまらなそうに。

チョコ「え……」

 チョコ。虚をつかれて軽く驚く。

チョコ「うーん、学校は…」

 考え込む。

チョコ「別に好きじゃないけど…」

 まれ、チョコを見つめている。

チョコ「……でも」


●13

チョコ「まれちゃんたちと一緒にいると」

チョコ「楽しいよ」

 顔を上げて告白するように。困ったような笑顔。テレまじり。

 まれ、それがちょっと意外な答えだったのか、目を丸くして笑いそう。

まれ「あっはっは」

 と川を向いて笑う。

チョコ{なんで笑ってんの?}

 ホッとしながらも不思議そうなチョコ。

■F

まれ「……」

まれ「……わたしね」

 視線を遠くに。微笑んでいる。

まれ「少し前まで、わたしのギターは」

 まれを見ているチョコ。


●14

まれ「自分のためだけに弾いていたんだ……」

 まれの足元。

まれ「……わたしも」

 口元。

まれ「友達ができてよかったよ?」

 まれ、ふりかえってはかなげに笑う。

 今度はチョコが目を丸くする。

 夕焼け空を飛ぶカラス。

(カア カア)

まれ「あっ」

まれ「さっきのおばあさん!」

 と指差す。

チョコ「えっ」

 とそっちを見る。




↓コンテ

https://www.pixiv.net/artworks/85168854



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