第2話「tremble all in my bones」
(擬音・吹き出し外文字)
「セリフ」
{人物モノローグ}
<ナレーション・モノローグ・解説・歌>
■2話
●1
■
トビラコマ
■
1話の翌日の放課後。チャイム。
学校の廊下。
チョコがギターケースを背負って教室を出て行く。
クラスメートの関口がチョコに声をかける。
関口「あ、チョコ、部活?」
■
関口「フォーク&ロック部って毎日あるの?」
チョコ「え、あ、ああ、うん」
と、曖昧にうなづくもチョコの表情はどこか浮かない。
チョコ「ま、まあな」
とコソコソと去る。
●2
■
廊下を歩くチョコ。
チョコ{……やっぱフォーク&ロック部、辞めちゃったの早まったかな、俺}
チョコ{でも、まれちゃんは……}
■
回想イメージ。前回のシーン。
まれ「ここに…いても、いい…よ」
まれ「居場所ないなら」
■
チョコ{第二音楽室…}
チョコ{今日もいるのかな…?}
チョコ、廊下を歩いていく。音楽が聞こえてくる。
(ぴゅぴゅーぴゅーん)
■
チョコ{あ、まれちゃんのギター}
とハッとする。
■
(ちゃららららら ずっ じゃっじゃ)
まれが弾くギターの手元。
繊細だけど胸に刺さる鋭い音。
<ゆっくり ゆっくり走って
僕を乗せておくれ
君の列車に乗せてよ 町を出て行く前に>
●3
■
第二音楽室。
まれが椅子に座ってギターを弾いている。
傍らの椅子に座って聞き入っている副会長。
<君は世界一 かわいい娘
どこかで会ったよね
僕のそばにいてくれたら 大切な人になるだろう
僕はよそ者 僕はよそ者
長居はしない
君の列車に乗れたら すぐにでも出て行くよ
ゆっくり ゆっくり走って
僕を乗せておくれ
君の列車に乗せてよ 町を出て行く前に
(『Slow Down』誤訳:坂井音太)>
SLOW DOWN Words&Music by Lenoir
©GHANA MUSIC The rights for Japan assigned to FUJIPACIFIC MUSIC INC.
http://www.youtube.com/watch?v=kbje6cyAzqY&feature=related
●4
■
廊下から第二音楽室のドアの窓ごしにのぞいているチョコ。
チョコ{……うっ}
チョコ{ゾクゾクする}
チョコ、まれのつむぎ出すサウンドに感動し震え、うるっと涙ぐむ。
■
チョコ{どうしたらあんな音が出るんだろ……}
チョコ{……俺もあんなふうに弾けたら}
と羨望のまなざし。
■
(どすっ)
(ばんっ)
と、突然背後からの衝撃に仰け反って音楽室のドアにぶつかるチョコ。
チョコ「でっ」
■
ふりかえると冷たい表情のマキミキが無言でさらに踏みつけるような前蹴りを繰り出そうとしている。
チョコ「だれだっ」
チョコ「…って、ミキ!」
■
チョコ「ちょっ、なっ、おまっ、やめっ」
チョコ「いたいいたい! いてえって!」
(ドスドスドスドス!)
とマキミキのストンピングの嵐、とまどいながら踏みつけられるチョコ。
●5
■
音楽室の中。
まれと副会長、ドアのほうの騒ぎをポカンと見ている。
(ガラガラ)
(ドタドタっ)
とドアが開いてチョコが中に逃げ込んでくる音。
チョコ「蹴るなって、ミキ、いたっ、やめろっ、やめてっ」
■
チョコ「ぱ、ぱんつ見えてるぞっ」
とミキにグリグリと踏んづけられているチョコ。
■
マキミキ「見えてるからなんだってのよ?」
とサディスティックに睨みながら。
チョコ「あ、いや…はい」
マキミキ「なんでお前がここにいるんだよ、チョコ!」
■
チョコ「だって、きのう、まれちゃんにいてもいいって言われて…」
と恐る恐るミキを見上げる。
■
マキミキ「お前が、あたしらの遊んでるとこに入ってくるとか」
マキミキ「図々しいっての!」
と、不愉快そうに。
■
まれ「マキミキ、やめてー、かわいそう」
といつのまにかマキミキの腕につかまって。
マキミキ「まれちゃん……?」
●6
■
まれ「だって、そのコ、友達いないんでしょ?」
と哀れむように。
副会長「いや、勇み足で部活やめちゃって、居場所なくしただけだから」
とクールに訂正する。
■
チョコ「そ、そ、そうそう! 俺はまれちゃんと一緒にバンドやりたくてフォーク&ロック部やめたんだよ!」
と、立ち上がって。
■
チョコ「だから!」
と、まれの手を握って。
まれ、びっくりする。
■
チョコ「バンドやろうよ!」
顔を赤くしながら懸命に訴える。
■
まれ「だめ」
と、顔を真っ赤にしてうつむく。
■
チョコ「……」
ちょっとショック。
マキミキ「チョコ、しつこい男は嫌われるよ」
と後から。
●7
■
マキミキ「言っただろー。まれちゃんはホントにシャイだから知らない人の前だとギター弾けなくなっちゃうんだよ」
■
副会長「チョコくん」
副会長「この子、きっと君の前だとほんとに緊張して指が動かないよ」
■
チョコ「で、でも俺が廊下から見てたときは弾いてたじゃん」
まれ「……うーん?」
と首を傾げる。
■
顔を見合わせるマキミキと副会長。
■
副会長「隠れて見てたら弾けるのかな?」
マキミキ「じゃあチョコ、あんたあの中に隠れてみて」
と掃除用具入れを指す。
■
チョコ「こ、これでどう?」
と、掃除用具入れの中から。
まれ、副会長とマキミキに見守られながらギターを弾こうとするが、
まれ「だ、だめみたい…」
とガチガチに固くなって汗。
■
掃除用具入れのトビラを開けて顔を出して、
チョコ「じゃあ、まれちゃんが目隠ししてみたらどうかな?」
■
三人に見守られながら、まれ、タオルで目隠ししてギターを弾こうとする。
まれ「う、うーん、なんか、もっと緊張するかも」
チョコ「ダメか…」
●8
■
副会長「そもそも『弾いているところを見られている』って感じるとダメなんじゃない?」
マキミキ「もういいよ。お前がここから消えればそれですむんだよ!」
と、チョコのお尻に膝をぶつける。
チョコ「だっ」
■
チョコ「いてえな!」
とマキミキを押す。うっかりおっぱいを触ってしまう。
■
マキミキ「ひゃっ!」
と赤くなって、パッと胸を庇う。
チョコ「あ、ごめ…」
と赤くなる。
■
マキミキ「……!!」
無言でグーで殴る。思いっきり。
(バキッ)
■
馬乗りになるマキミキ、下から殴られまいとマキミキの腕をつかむチョコ。くんずほぐれつの格闘。
■
まれ「と、止めたほうがいいんじゃない?」
と心配そうに副会長に。
副会長「……うーん」
●9
■
副会長「これは…、なんか、じゃれてるっていうか」
キャットファイトの様相を呈するマキミキとチョコの絡み合い。
副会長「むしろ仲良し幼馴染のイチャイチャ?」
■
副会長「二人のそういうプレイかしら?」
とニヤニヤする。
まれ「おおう!」
と両手で目を覆うフリ。指の隙間から見てる。
■
マキミキ・チョコ「ちがう!」
と同時に副会長とまれに。
■
チョコ「ミキと俺はそんなんじゃねえし…」
チョコ「それに、いまオレが惚れてんのは、まれちゃんのギターサウンドなんだよ!」
チョコ、魂の叫び。
■
マキミキ「……」
と、ぱんぱんとスカートの裾を払いながら無表情に立ち上がる。
副会長「……」
と、頭を掻く。
■
マキミキ「聞きましたか? 今の告白」
(いけずうずうしい!)
副会長「ええ。惚れてるとかなんとか」
と白ける。
チョコ「………!!」
キーッ、という感じで言葉を失いつつ怒るチョコ。
●10
■
まれ「………」
(かああああっ)
真っ赤になってもじもじしているまれ。
振り返ってギョッとなる二人。
マキミキ・副会長「えっ!?」
■
副会長「大丈夫?」
まれ「少し、うれしいかも……」
マキミキ「チョコのくせに、ナニまれちゃんのハートつかんでんだ!」
チョコ「………」
真っ赤になってるチョコ。
■
チョコ「だって、あんなにギターも歌も凄いし!」
■
チョコ「……最初聞いたとき、上手く言えないけど、ここが撃ち抜かれたっていうか」
と、胸を押さえる。
■
チョコ「俺が弾くギターと同じ楽器とは思えない音だった」
顔を見合わせるマキミキと副会長。新たなまれの理解者が現れたことをお互い確認する。
■
チョコ「……俺、ああいうのやってみたいんだ」
まれ、それを聞いて小さくハッとして。
●11
■
まれ「じゃあやってみる?」
と自分のギターを差し出す。
チョコ「え、触っていいの?」
■
チョコ「これってリゾネーターギターって奴だよね?」
と、まれのギターを触りながら。
■
まれ「あと、これ、スライドを使う」
チョコ、ボトルネックのスライドを手渡され、不思議そうに見つめる。
腕組みをして見ている。
副会長「スライド奏法よ」
とチョコに。
■
副会長「それを指にはめて弦の上で滑らせてビブラートさせたりするの」
チョコ、スライドをかざして見る。
チョコ「へー」
■
弦を押さえる手元。
チョコ{…弦高が高い。弾き難そうな…}
■
スライドをはめて音を出してみる。
(ずびーん)
■
チョコ{……うーん、あんな音にならないな}
と、凹む。
●12
■
あきらめてコードを押さえて弾いてみるが、
チョコ「あれ? あれ? なにこれ、チューニングが変?」
と、まれのギターのオープンチューニングに途惑う。
■
副会長「オープンDチューニングだから」
チョコ「???」
■
副会長「どこも押さえないで弾くとDになってるのよ」
副会長「スライド奏法にはこのほうが都合いいから」
(じゃらーん)
と弾いてみるチョコ。
チョコ「あっ?」
■
チョコ「よく色々知ってるなあ! さすがメガネ!」
と副会長を尊敬のまなざしで見る。
メガネ呼ばわりされてピキッとなる副会長。
副会長「メガネ?」
■
マキミキ「死ねよお前!」
とすかさずチョコを罵る。
まれ「メガネじゃないよ、副会長だよ」
まれ「副会長は音楽詳しいんだよ」
副会長「今さらかもしれないけど、わたし香坂陽子って名前なんですけど」
■
チョコ「なんで副会長っていうの?」
まれ「みんなのまとめ役だから」
チョコ「まとめ役って会長じゃないの?」
■
まれ「会長なんていないよ」
チョコ{なんだそれ?}
●13
■
チョコ「けど俺、本気でまれちゃんにギター教わりたいと思っている」
と、ギターを返す。
■
受け取ったギターを抱えて、顔を赤らめる。
まれ「だ、だめだよ。だって、知らない人に見られてたら緊張しちゃう」
■
チョコ{俺はまれちゃんの『知らない人』か……}
チョコ{……でも、それって、もしかして、俺と仲良くなったら緊張しなくなる?}
と視線を落として考える。
■
チョコ{つか、仲良くなれないのかなあ……}
ちらっとまれを見る。
■
ふと、
副会長「……緊張のブルーズってあったね」
と、ピアノ椅子に座って。
●14
■
副会長、ピアノをぱらりんと弾いて軽く口ずさむ。
<ぼ・ぼ・僕は緊張する
か・か・体中の骨が鳴るのさ>
■
まれ「お!」
と、うれしそうにバッと副会長のピアノのほうを身体ごと向く。
■
副会長、微笑をまれに向けながらピアノを弾き続ける。
■
まれ、足でリズムを取る。
■
まれ、ギターを弾く手元。
(ちゃらららっ ちゃちゃん)
■
チョコ「!」
マキミキ「あれっ? 弾けた?」
一緒に驚く二人。
●15
■
副会長も軽く驚いて、ピアノを弾きながらマキミキを見てうなずく。
■
マキミキ「よっしゃ、セッションしよ!」
と笑う。
■
マキミキ「ほら、チョコ、あんたもギター出して」
と、ハープを取り出してチョコの肩を叩く。
■
チョコ「え、あ、うん」
と慌ててケースからギターを出そうとする。
■
ギターを楽しそうに弾き続けるまれ。
■
まれ「入ってきてー」
と振り返らず、背中で。
■
チョコ「あ、だけどアンプないしさ」
と、ギターを持つも気後れするチョコが、ハープを吹くマキミキに。
■
マキミキ「いいんだよ、そんなの!」
とハープを口から離し、振り返って笑う。
●16
■
<あ・あ・あのコが僕に キスするとき
ギュ・ギュ・ギュッと僕を 抱きしめる
め・め・目を見て 僕に言うのさ
だ・だ・大丈夫と
で・で・でも 僕は緊張する
か・か・身体中の骨が鳴るのさ>
(『Nervous』誤訳:坂井音太)
NERVOUS Words & Music by Willie Dixon
©HOOCHIE COOCHIE MUSIC The rights for Japan assigned to Fujipacific Music Inc.
http://www.youtube.com/watch?gl=JP&feature=related&hl=ja&v=RQrQLvBQax0
●17
■
まれ、絶好調でソロ。
■
チョコ{俺、メロメロで、ついていくのも怪しいけど……}
チョコ{楽しい……!}
■
マキミキ「ねえ!」
とチョコに。
チョコ「えっ?」
と、怪しげにギターを弾きながら顔を上げる。
■
ミキ「まれちゃん、あんたが見てても演奏できるじゃん」
チョコ「お…、うん」
■
まれ「せ、背中向けてれば、なんか、大丈夫みたい!」
と、チョコのほうを決して振り向かず。
■
チョコ{てことは…、俺は『知らない人』から格上げされたのかな……?}
■
チョコ{うお、やっぱあのギター、シビれる}
チョコ{……どうやってあんな音出してんだろ?}
と、まれを見る。
●18
■
まれのうつむき加減にギターを弾く後姿が神々しく見える。
■
思いついたように立ち上がるチョコ。
ん? と見るマキミキ。
■
チョコ「……やっぱどうやって弾いてんのか見たい」
と、前に回り込もうとする。
■
まれ、チョコと目が合ってひゃっとなる
まれ「!」
(びろーん)
と、演奏を止めてしまう。
チョコ「あ」
■
まれ「見ないでー!」
と顔を覆う。
チョコ「ご、ごめん」
チョコ{なんでそんな恥らいかたを…?}
副会長「まだ全面的に気を許してるわけじゃないのか……」
と、興味深そうに。
マキミキ「まあ、でも一歩前進なんじゃない?」
(おしまい)
↓コンテ
https://www.pixiv.net/artworks/61136022
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