第二十一話 転換
◇◇◇◇◇
「久しぶりのソロ配信ですね。今日も人の心を勉強中のロイドです。ぶっちゃけ今の私は人の心しかないと思うんですけどね。でも、私をまとめてくれてるサイトにはまだ『笑顔』と『殺意』しかないんですよ。どこのシリアルキラーですか。やっぱり人の心は難しいです。ロイドです」
〜コメント〜
ゲーム初心者が二十キルも取ればそうなる
むしろ妥当
俺が『恋愛』を教えてやるよ
↑かがみって知ってるぅ?
ロイドちゃん可愛い( ´▽`)
コラボ続きだったもんなぁ
(同期との絡みゼロ)
殺意は帝王から、笑顔はショコラちゃんから
「笑顔はショコラちゃんから? 上手い事言いますね。こっちの話です。いやーショコラちゃん可愛かったですもんね。幸せになってほしい子ってああいう子の事を言うんでしょうね」
〜コメント〜
お前が可愛い
ショコラちゃんは無敵
姉妹配信みたいだった
妹欲しいんじゃぁぁ
あの子ちょっと闇深そうだけどな
検証班の検証した結果、習得されてる言語の内、幾つかは紛争地
えっ……
それ以上はいけない
エリザベス様との配信はもうしないんですかー?
「エリザベスさんとの配信? もちろんしますよ! まだ日程は詳しく決まってないんですけどね。今度カイザーさんとしたゲームを一緒にしようと考えてます」
〜コメント〜
え、エリザベス様とFPS!?
あのゲームクソ雑魚豆腐メンタルのお嬢様と??
パニクって味方を撃ち続けていたあの?
敵への被弾はゼロだが、味方への被弾はテロ級
野良にグレネード張られて神風された人
素手の方がまだ強い人
撃つな 殴れの人
ダディヤナザン!?
今度の大会は帝王 アンドロイド 公爵令嬢でようやくバランス良い
お嬢様があのゲームする時自称プロ様が湧くから嫌い
「あ、エリザベスさん苦手なんですね……なら、別の案を考えておきましょう。なんなら今日聞いてもいいですね。今エリザベスさん十万人記念配信してるじゃないですか? 私こっそり最後に突撃しようと思ってるんです。あ、内緒ですよ?」
〜コメント〜
また悪い事考えてる
いいぞもっとやれ
慌てふためくエリザベス様が想像に容易い
実際この2人の仲はいいのか?
両片思いってかんじ
お互いに相手から好かれてはいないと思ってそう
配信では喜ばないけど裏でガッツポーズ取ってるのがエリザベス様
料理配信とかどうですかー?
餌付け推奨
お嬢様はママの味が恋しいらしいからな
ロイドちゃんの料理は母譲りですか?
「……………………私の母?」
〜コメント〜
違うだろお抱えコックの味だろ
専属シェフから教えてもらったんだ。そうだろ?
馬鹿お前たち一流料理人の秘密のレシピがプログラムされてんだよ
ロイドちゃんの手料理食べたら死ねる
↑悪いなこの料理三人前でお前の分ないんだ
遺伝的に家族全員なんらかのスペシャリストなはず
プロの味をアンドロイドが再現する時代かぁ
大丈夫ロイドちゃん?
《検証班》まずいぞ過呼吸だ
アンドロイドってどこまでが機械なの?
お前なら神の舌くらい持ってそう
え?
!?
ロイドちゃん!?
「……ハッ……ハッ……! 家族、私…………………………ワタシのっ……家族……かはッ……!」
◇◇◇◇◇
明らかに、正常ではない。
汗もかかない、眠る必要のない身体が、初めて私の意思に反して制御不能になる。
右手がマイクを薙ぎ倒しながら、座ってもいられずに床に倒れ込む。いつもは無駄に優秀な脳が、こんがらがり絡れて碌に働かない。唯一、一つの単語だけが、壊れたように繰り返す。
──家族、と。
どうして今まで私は、その言葉を何一つとして考えようとしなかったのだろう。前世の自分の家族の存在を。いや、今なら分かる。私の思考にロックがかけられていたのだ。
今、無理矢理そのロックをこじ開けたせいか、意識にノイズが走り力が入らない。
呼吸が出来ていない、というよりは体全体が眠りにつく感覚。意識はあるので金縛りに近い。
「──ロイドさんっ!!」
勢いよく、私の部屋に入ってきた香澄ちゃん。この世の終わりみたいな声を出して私に飛びつく。あぁ、私が明らかに普通じゃないからと心配してやってきてくれたのは嬉しいけれど、乙女がそんな声を出さないで。
宥めようとしたが、喉からは掠れた空気しか出ない。苦しくないんです。痛くもない。本当なんです。ただちょっと呼吸含む身体機能が止まろうとしているだけで。(人はそれを死と呼ぶけれど)
「ロイドさんっ! ロイドさん!! どうしたらっ……」
〜コメント〜
誰? 妹?
彼女フラじゃん
え、マジのやつ?
イベント?
過呼吸ならまず落ち着かせるんだ
だいじょーぶ?
119 繰り返す119
「あっ……み、みかん大福です! 私! あ、あのっ、ロイドさん苦しそうで……!! どうすればいいですか!?」
〜コメント〜
落ち着け落ち着け
みかん大福ちゃん女の子!
どんな様子?
ヤバくないコレ
まずは冷静に、落ち着いて、深呼吸して、さあ……助けに行くから住所を教えてくれ
↑○ね
犯罪者が紛れてるぞ気を付けろ
うつ伏せにさせるとか……
持病は? 薬ないの?
まず救急車だろ
「きゅ、きゅうきゅうしゃ! な、何番でしたっけ!」
恐らく、ばーちゃる史上最も1と9の数字が流れた瞬間だった。119が重なりすぎてむしろ何番か分からないですけどね。
そんな時、パソコンの画面が繋いでくれた救急車ならぬ救世主現る。
『──っ! 繋がりましたか? みかんさん、私です。橘です』
「ダヂバナざぁん! どぅすればぃぃですか!?」
『まずは落ち着いて下さい。緊急ですね? 救急車は既に手配してあります。ロイドさんは息をしていますか?』
「っ……してるような、してないような!」
『心臓は動いていますか? 止まっていても慌てないで。最悪人工呼吸はしなくても構いません。心臓マッサージに集中してください。やり方を教えますね。安心してくださいみかんさん。ご存知の通り、ロイドさんはタフですからね。そう簡単に死にませんよ』
橘さんの指示は的確だった。香澄ちゃんはようやく落ち着きを取り戻す。過呼吸二人目が出なくて良かった良かった。
今の私の心臓は恐らくすずめ程しか動いていない。まあ、石のように動いていなくても死ぬとかそういうのはないと思うんだけど……
ただ、徐々に意識が薄れていく。視界が黒に塗り潰されていく。一過性の症状とはいえ流石に怖い。ここで死なないという直感はあるけれど万が一の可能性があるのならやはりそこに恐怖はある。だから、敢えて恐怖を別の感情で塗り替える。
絶対に死ねない! 死ねない! まだ死ねない!!
魂からの叫びを最後の瞬間まで強く想う。想い続ける。どこにこんな激情が隠れていたのかってくらい、かつてないほど生存欲求が燃え上がる。
「っ……あんどうさん!!」
そして、遂に、現実の私は目を閉ざした。
◇◇◇◇◇
切り抜き
「それではご機嫌よう夜叉金さん。……フフっ、やはりこの衣装、各パーツのディテールに拘った最高の仕上がりなのですわ! このっ、私のドレス姿! 流石アンズさんですわ」
〜コメント〜
嬉しそうなお嬢様は俺も嬉しい
お前はもっと幸せになれ
今ので第一期生は全員来たか?
↑突っ込み待ちかな?
まだ肝心のヤツが来てないぞ
確か配信中だったような
寂しがらないで
「忙しいのなら仕方ありませんわ。そもそも寂しくなんてありませんもの。ええ決して。寂しがる理由がありませんわ。あの方はだいたい………….え?」
〜コメント〜
ガチ緊急事態
救急車に運ばれた
大騒ぎですぞ
嘘乙 呼ばれたのはエンジニア
「っ!」
咄嗟に部屋から出ていこうとして、家を飛び出る直前になって気付く。ロイドの家の住所を何も知らない事に。しかし、今回はそれがかえってエリザベスを冷静にさせた。
「……救急車が呼ばれたのなら、もう私に出来る事はありません。配信を続けますわ。杞憂で自らの配信を疎かにしていては笑われてしまいますもの。何も心配いりませんわ。世界中の人間が滅びても彼女だけはひょっこりと生きてそうな方ですもの。だから、大丈夫ですわ。気にしては負けですのよ。別の事を考えるのだわ……気にしてはダメなのよ!」
〜コメント〜
お前がなー
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