第80話:古竜

 それはいきなり現れた。

 その圧倒的な存在感は、亜竜や属性竜の養殖姿に慣れた、孤児や冒険者達を恐れ戦かせるほどだった。


 身長や横幅が純血竜の百倍あるわけではない。

 だが体積は間違いなく純血竜の百倍あるのだ。

 強さと迫力は確実に純血竜より百倍以上ある。

 それが古竜と呼ばれる存在だった。


「ぶ、ぶ、ぶ、ぶる、ブルーノさん」


 冒険者の一人が震える声で話しかけてきた。

 防御魔術の魔法壁越しとはいえ、この迫力と威圧感だ。

 その中で声をだせるなんて立派なモノだと思う。

 将来性豊かな少年冒険者だと思う。


「古竜を前にしてよく声が出せたな、立派なモノだ。

 今日にでも純血竜素材の魔具を貸し与えよう。

 魔弓と魔矢、魔剣と魔槍がいいな。

 それを使って経験を積むがいい。

 万が一の事を考えて、完全鎧も作って貸してやるよ」


「ありがとうございます。

 でも、放っておいて大丈夫なのですか。

 古竜が魔術防御壁を破って襲い掛かってきませんか」


 本当に立派になったな、少年。

 俺が平気な顔をしているとはいえ、古竜が何度も魔術防御壁に爪を立てている。

 それなのに震えることなく話せるようになった。

 他の冒険者達は未だに腰を抜かしてへたり込んでいる。

 少年以外に平気な顔をしているのは、俺を心から信じてくれているミュンだけだ。

 

 もう少年と呼ぶのは失礼だな。

 一人前の冒険者として名前で呼ぶべきだ。

 確か名前はマイケルと言ったはずだ。

 この前は見た時はまだまだ半人前だと思ったのだが。

 前世での言葉「男子三日会わざれば刮目して見よ」は真実だな。


「大丈夫だよ、マイケル。

 古竜程度の攻撃では俺の魔術防御を打ち破ることはできない。

 亜竜や属性竜、純血竜や古竜の強さから想定して、古代竜が百頭の群れで襲い掛かって来ても大丈夫な強さにしてある。

 だから何の心配もいらない。

 亜竜や属性竜のように、魔晶石を取るためにこの古竜も飼ってやるよ」


「すっ、すっ、凄い」


 マイケルが尊敬の目で見つめてくる。

 こんな純粋な眼で見られると少し恥ずかしくなる。

 他の冒険者達の眼には恐れが混じっている。

 それどころか俺を避けようとすらしている。

 そんな態度とは大違いだ。

 だが強くなり過ぎると避けられるのは仕方がない事だ。


 まだ孤児達は自分達の限界が分かっていないから、本質的に敏感で憶病な者以外はそれほど避けようとしない。

 だが自分の限界、人間の限界を知った者は、あまりに人間離れした強さを示す者には本能的な恐怖を感じてしまうのだろう。


 まあ、いい、マイケルはともかくミュンさえ恐れないでくれたら十分だ。

 ミュンは今も無条件で俺の事を信じてくれている。

 だからミュンを護るためなら何だってやる。

 古竜の魔宝石で古代竜にも勝る使い魔竜を作れるかな?

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