第32話:踊子の事情

 ある騎士の領地に入ると、それでなくても身分差の厳しい国なのに、一段と身分による差別が激しかった。

 領都といえるような街などなく、百人規模の村が一つあるだけだが、その中で平民同士でわずかな差をつけて差別をしている。

 領主である騎士の従士を務める村長が、他の民を差別する本当に醜い村だった。


「どうしたんだい、何があったのか教えてくれ」


 俺は、村唯一の宿兼食堂にいる売春婦から話を聞いた。

 こんな村にいるとは思えないほど、あか抜けた女性だった。

 しかも夜は居酒屋になる食堂のステージでストリップしているが、とても場末の居酒屋でストリップを踊るような技術ではなく、見事な技だった。

 何か理由があるかもしれないと、事情を聞くために売春婦として休息時間を買ったが、声を失うほど心が壊れていた。


「あ、う、ああ、う、あああ」


 壊れた心をケアもせずに元に戻してしまうと、自殺してしまうかもしれない。

 だから心の治療はせずに、過去の出来事を聞き出すことにした。

 その為に必要な経穴組み合わせに、丁度いい深さに順番通り魔力を打ちこんで、過去の出来事を話してもらったが、その事情は怒りを禁じえないモノだった。


「私は旅芸人一座の花形踊り子でした。

 その私を、騎士家の若様が見染めて下さったのでございます。

 最初は私も座長も、身分ある方の遊びだと思っておりました。

 しょせん一夜の恋のお相手をするだけだと思っていたのです。

 ですが真剣にプロポーズして頂き、騎士家の御当主様にも、従士を務める村長にも紹介していただいて、私も座長も信じてしまったのです。

 村人全員がグルになって、多くの踊り子を騙してきたとは思いもしませんでした」


 彼女の話は俺の怒りを限界までかき立てるほどのモノだった。

 細かな事情は、あまりにも凄惨な内容なので口にする事も憚られた。

 俺に言えることは、村人全員が天罰の対象者だという事だ。

 少なくとも男性は全員天罰を下して当然の存在だ。

 直接手を下していない女性も、見て見ぬ振りしているので同罪だ。

 問題はどう言う方法で天罰を下すかだが、エクセター侯爵領でやったのと同じ方法だと、俺の加担を疑われてしまう。


「安心するがいい、何を後回しにしてでも君を助けてあげるから」


 俺は事情を聞きだした女性に優しく声をかけた。

 ドッペルゲンガーを一体創り出して、クレイヴン城伯領に新たに作った孤児院にまで送り届けることにした。

 同じブルーノ姿のドッペルゲンガーが二人もいるのは大問題と思う人もいるだろうが、俺だって馬鹿ではないので、ブルーノ姿で旅などしない。

 まして暗殺時の姿をブルーノにするわけがない。

 今の俺の姿は暗殺時に使う変化の一つなのだ。

 その姿のドッペルゲンガーが不幸な元踊子を送り届けるのだ。

 

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