第30話:孤児院の日々六・ミュン視点

 陪臣騎士夫人が難癖をつけて来てから一カ月後、私達は孤児院を後にしました。

 普通では考えられない事ですが、全員が馬車に乗れています。

 貴族や商人でない限り旅は歩くものなのです。

 それが全員が幌付きの馬車に、しかも夜は馬車の中で横になって寝れるくらい、余裕をもって乗れているのです、信じられません。

 でも、そんな事よりも気になる事がありました。


「ブルーノさん、ここの領主は止めなかったのですか」


 馬車で移動している間は、私とブルーノさんは別々の馬車に乗っています。

 一番幼い子供達を、私やブルーノさんが御世話しているのです。

 だから話ができるのは食事休憩やトイレ休憩の時だけです。

 でもその時には一緒の馬車ではない子供達を見て回らなければいけません。

 何とか時間をやりくりして、ようやく話をすることができました。


「止めたよ、止めたけど無視したよ。

 いや、無視しただけでなく、脅かしてやったよ。

 俺に見捨てられるだけに止めるのか、敵に回したいのか、どっちだとね」


 やはりそうでしたか、そうだと思っていました。

 以前の話で推測していましたが、確信が持てませんでした。

 でも、ブルーノさんはとても優しいのですね。

 私はブルーノさんが領主や筆頭家老を殺してしまうかと思いました。

 特に筆頭家老は迂闊すぎますから、殺す方が安心ですからね。

 でも、以前の話を思い出すと、殺してしまった方がいいではないでしょうか。

 そんな風に考える私は性格が悪いのでしょうか。


「筆頭家老がまた秘密を話してしまう事はないでしょうか」


「その心配はいらないよ、彼は領城の奥深くに幽閉されてるからね。

 また迂闊な事を言ったら領主を殺すと脅かしたら、自殺しようとしたんだよ。

 それを領主が止めて、領主一族を幽閉する部屋に入れたんだ。

 死なせたくはないけど、歳が歳だからね、何時何を口走るか分からない。

 領主自身のためにも、筆頭家老のためにも、正しい選択だね。

 領主には誰にも話せないような悩みがあるから、それを聞いてくれる心から信頼できる家臣は必要だからね」


 ブルーノさんの話を聞いていたら、領主という役目も大変なようです。

 でも、どうしても憎しみが先に立ってしまいます。

 民から多くの税を奪って贅沢三昧しているとしか思えません。

 ブルーノさんがマシだと言っていた領主ですらあの体たらくです。

 他の王侯貴族がどれほどひどい連中か分かるという物です。

 今度の領主がブルーノさんが言われる通りの善人ならいいのですが……

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