第21話:事前通告

 俺は悪徳な村の権力者を殺すことにしたが、一応領主に通告することにした。

 事前通告なしに領民を殺されては、領主の面目が立たないと考えたからだ。

 そもそもそんな村役人を放置していた領主が悪いのだが、普通の人間ならばどうしようもないしがらみというモノがある。

 今回裏切った実の弟や譜代の家臣など、処断し難い人間はどうしてもいる。

 それを処断してこそ英邁な領主だと俺は思うが、そこまで期待するのは酷だな。


「すまんな、余計な手間をかけてしまう、皆トマスやその取り巻きの領地で、なかなか手を付けることができなかったのだ」


 ウィリアム自身は民に優しい領主ではあるが、その分厳しさが足りない。

 自分の直轄領の悪人ならば、俺に依頼して殺す事も厭わない。

 敵対する貴族や有力商人に対しても、厳しい処断を行える。

 だが身内に関してはどうしても弱くなる。

 特に血族や譜代には厳しい処分ができない性格なのだろう。


「最初に言っておくが、ウィリアムのためにやるわけではないぞ。

 俺の邪魔をする者は誰であろうと許さない、それだけだ。

 特に女子供を傷つけるモノは絶対に許さない。

 もしウィリアムが俺の身内や弱い者に手を出したら、問答無用で殺す」


「分かった、心しよう」


 領主への仁義を通せば後は殺すだけだ。

 だが、俺の理解していない重大な理由というモノがあるかもしれない。

 村の運営上どうしてもやらなければいけなかった事かもしれない。

 村を維持するために仕方なく子供を売る事は、この世界ではあり得る話だ。

 だから徹底的に子供を虐待した事情を調べた。

 私利私欲で子供を虐待したのではないという理由を調べてみた。


 だがそんな事情など全くなかった。

 全ては有力者の私利私欲のために子供達を奴隷として売り払っていた。

 有力者に逆らう者を陥れ、その財産を奪い、女子供を奴隷にして売っていた。

 トマス一味が権力を握っていた時には、その悪逆非道がピークだった。

 今は証拠隠滅に走っているが、最悪逃げる事も考えているようだった。

 ウィリアムが一人でも検挙したり、俺が一人でも殺したりしたら、一斉に逃げ出す事が明らかだった。


 だから時間差で効果が出るように経穴を組み合わせて突いてやった。

 適度な魔力を流す事で、最長一カ月後に効果が出るように仕込んでおいた。

 ただエクセター侯爵の死因と関連していると思われないように、心筋梗塞や脳溢血など、原因が同じにならないようにした。

 出来るだけ苦しむように、即死できないように調整した。

 激烈な痛みに苛まれて、一年二年三年と苦しむようにした。

 そういう地獄の苦しみを味わう者が、家族や使用人も合わせれば数百人はいいるだろうな。

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