第17話:快復
徐々にウィリアムの身体中にあった赤い斑点が消えていく。
毒の中和に成功した証拠だが、筆頭家老が安堵の表情を浮かべている。
まあ、当然だな、見ず知らずの赤の他人に主君の命を預けたんだから。
治療と回復を続けると、どす黒かった肌が健康な色になっていく。
張りを失い皺が目立っていたが、つやつやとした肌になっていく。
表面的には分からないだろうが、痩せ細っていた筋肉も骨も元の状態以上に強化してやったから、戦闘能力も抵抗力も向上しているだろう。
「うっううううっ」
「城伯様、おお、城伯様」
筆頭家老が歓喜の涙を流している、瞼がピクピクしているから目覚めるだろう。
軽い睡眠魔法をかけて、もう少し眠らせる悪戯をしてやろうかとも思ったが、流石に悪趣味すぎるからやめておく。
ここは君臣感動の再会に付き合うべきなのだろう。
「ジェイコブか、私は生きているのか、これは夢なのか」
「城伯様、生きておられますよ、城伯様。
こちらの方のお陰で城伯様のお命は助かりました」
感動の場面にいるのはどうも居心地が悪い。
だがここにいないとこの後に話し合いができない。
「おお、ブルーノか、どうやらまた世話になったようだな、助かった。
本当に助かった、私のできる限りのお礼をさせてもらう」
「そうかい、だったら築城権付の領地をくれ、それと領都に屋敷もくれ。
俺の知り合いに孤児院を開設させたいんだ」
「そうか、やっとここに拠点を置いてくれる気になったか。
ありがとう、これで随分安心できるよ」
今までこんな弱気な事はひと言も口にしなかったが、今回の件で気弱になったか。
まあ、しかたがないな、弟に殺されかけたんだ、気弱にもなるだろう。
しばらく時間が経てば、以前のウィリアムの戻るだろう。
弱気なウィリアムなど見たくないから、話題を変えよう。
「まあ、色々あるから、常時ここにいるわけではないが、必ず戻るさ。
それよりも、今回の件の黒幕はエクセター侯爵だったが、気がついていたか」
「ああ、気がついていた、ブルーノが戻ったらやってもらう心算だったのだが、エクセター侯爵に先手を打たれてしまった。
あんな馬鹿でも実の兄弟だ、つい処断が遅れてしまった……」
こういう点がウィリアムの弱点なのだ。
悪人に対してもどこか好い点を探して許そうとする。
誰に対しても慈愛の心を忘れない善人だ。
だからこそ領民に対してもよき領主になれるのだが、こういう取り返しのつかない事態を引き起こしてしまう可能性を孕んでいる。
「まあ、いい、今度こんな事がなりそうだったら、思いっきり殴ってやる。
それはそうとしてエクセター侯爵は殺す、それでいいんだな」
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