第12話:領主代理

「つまり、領主が突然倒れて意識不明となり、弟が領主代理になってこんな事をやり始めたというのだな」


 夜営の場所を探しながら、小腹が満たされて元気になった連中から、俺が留守にしていた間の事を聞いたが、想像通りの事が起こっていた。

 絵に描いたようなお家騒動だった。

 領主が意識不明になったのはどう考えても毒を盛ったのだろう。

 問題は弟の単独犯なのか、それとも他領の領主が裏にいるかだ。

 弟の単独犯行なら、今日にでも殺してやればそれですむ。

 まあ、領主を俺の力で治療できるかどうかの問題もあるのだが。


「ブルーノさん、ここでも冒険者ギルドが悪の手先になっているんですね……」


 正義感が強いミュンがとても落ち込んでいる。

 彼女の理想では、冒険者ギルドは正義の組織なのだろう。

 表向き冒険者ギルドは独立した組織という事になっているが、そんな話は建前にすぎず、力のあるモノには逆らえないのだ。

 実際には王家や開設場所の領主の影響力がとても大きい。

 正面から逆らってはギルドの廃止もあり得るのだ。

 実際有力な貴族の中には独自の組織で冒険者ギルドを運営している者もいる。


「組織を正しく運営していくには、優れた戦闘力と正義感が不可欠だが、そのような人間など滅多にいないのは、ミュンも分かっているだろう?」


 俺に言葉にミュンが凄く寂しそうな表情を浮かべたが、こればかりはどうしようもない、人間の本性は基本悪なのだ。

 口では正義を唱えるが、それは他者を押しのけて自分が利を貪るための方便で、裏に回れば自分が禁止した悪事を平気で行ってる。

 そういう人間の本性を理解したうえで、少しでも自分の周りをよりよい世界にしようとする者が、本当に少数だが存在している。

 ここの領主もそういう人間だったのだが……


「なにか方法がないのですかブルーノさん」


「ほとんどの場合はない、やれるのは復讐くらいだな。

 領主代理という奴と、もしいるのなら裏で糸を引いている者を殺すくらいだ。

 だが俺達のような平凡な冒険者では、やれる事など知れている。

 上手く悪徳領主の支配する街から逃げられたんだから、命を大切にして住みやすい街に行くだけさ」


 馬鹿正直なミュンは一瞬失望の表情を浮かべたが、俺が周りに多くの冒険者がいるのだと視線を動かすと、ようやく今の状況に思いだしたようだ。

 下手な事を話さないように、グッと口元に力を入れていた。

 ミュンが黙ってくれたので、もう一度冒険者達から話を聞きだした。

 特に領主代理がどのような交友関係だったのか、黒幕を探るヒントが欲しかった。


「領主代理に関する噂は聞いていないか、根も葉もない噂でも構わない」

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