(二)-19

 部屋の入口の金属ドアが開く音がした。続けて一羽の「ただいま」という小さな声とドアが閉まる音がした。

玄関から入ってすぐのダイニングでテーブルの席にいた辰巳は、すぐ背後を通り過ぎて奥の部屋に行こうとする一羽に「なあ」と声を掛け、「仕事を辞めようかと思う」と小声で続けた。

「バカなこと言うんじゃないわよ! あんたこの仕事が一番好きだって、一生続けるんだって言ってたじゃない。結婚するときだってそう言ったわよね! まさか、覚えてないの?! そうでなければ市場のど真ん中なんていう雰囲気のないところでプロポーズなんて受けるわけないじゃない」

 一羽は辰巳の方を振り返って大きな声で答えた。

「ああ、そうかい。明日早いから、もう寝るぞ」

 そう言って辰巳は部屋に入り布団を敷いた。そしてそのままの格好で布団にもぐりこみ、寝てしまった。


(続く)

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