こあくまたまご 〜俺を惑わす小悪魔は親子丼のたまごのほうでした〜
よっち
第1話 年貢の納め時
「ふふふ...本当にあたしで良かったの?」
俺の左腕を枕にしながら幸子は言った。
「君が良いからこうしているんじゃないか」
とても同い年には見えない可愛い幸子の頭を撫ぜながら俺は答える。
幸子との出会いは1年前、俺が今の支店に異動になった時だ。
「はじめまして、福岡支店企業担当部部長の雪村幸子です」
不動産の夢舞台、それなりに大きな会社で九州一円と中国地方まで支店がある不動産屋だ。
企業担当部という事務所用賃貸や店舗用地、ビルの売買など花形部署の部長にしては若い子だな、というのが第一印象だった。
「あっはっは!あたしのこと30そこそこの小娘だと思った訳ぇ?」
異動してきた週末、俺の為に開かれた歓迎会で軽く酔った幸子は俺に絡んできた。
「そりゃあそんなに若い見た目で部長だって自己紹介されたらそう思っても仕方ないじゃないか」
俺はそう答えてグラスのビールをあおる。
熊本支店から呼ばれた俺の役職は部長補佐、幸子の直属の部下というポジションではあるのだがよく聞いてみれば同い年の39歳。
しかも俺が呼ばれた理由が顧客の大地主が老後を見越して手持ちの不動産を処分したいという大型取引の処理だった為事実上部長待遇での異動だったのだ。
上司と部下というより戦友といった感じで意気投合しこの歓迎会でも隣に座る事になったわけだ。
「そりゃあ営業職だし大企業の相手もしなきゃだからお化粧も日常のケアも頑張ってるけどさ、10個下は言い過ぎでしょ?」
そう言って黒霧の水割りを飲む幸子だが本当に30代前半、いや表情によっては20代にさえ見えてしまう若さなのだ、これが美魔女ってやつか。
「そういう関くんだって40前には見えないよ?よく言われるでしょ」
幸子はそう言ってくれるが俺も仕事柄気を使っているだけで若くみられても30代半ばが良いところだろう、この年まで独身貴族を謳歌したせいというのもあるんじゃないだろうか。
「若く見られるって言っても実年齢にしてはっていう誤差レベルだろう?
君みたいに魅力的な若さって訳じゃないさ」
「ふーん、魅力的とか言ってくれるんだー。
口が上手い事で」
そんなこんなで歓迎会はお開きになった。
若い奴らは二次会に繰り出したみたいだが俺と幸子は夜道を歩いていた。
馬鹿騒ぎするほど若く無いし幸子が帰ると言ったので送ることにしたのだ。
「昭彦くんさー、結婚とかしないの?」
酔った勢いでとうとう名前呼びになった幸子が聞いてくる。
「興味がない訳じゃ無いけどきっかけが無くてね、子供も好きだから若い頃はいつか結婚するんだろうななんて考えていたんだけどね」
幸子はふーんと言った感じの表情で。
「じゃああたしは対象外だねー、流石に40で出産はキツいし...ま、子供はいるけど」
ケタケタと笑う幸子、いまサラッと何か暴露しなかったか?
「ああ、言ってなかったっけ?死んじゃった旦那との間に一人、ね。
もう大学進学して家出ちゃったけど」
どうやら県外の大学に進学して一人暮らしをしているらしい。
そんな話をしているうちに一軒のマンションの前に到着する。
「酔い覚ましにコーヒーでも飲んでかない?」
と言われたが流石にこんな遅くにお邪魔するのもなんだし失礼しようかと考えていると。
「というか誘ってんだけど?昭彦くんカッコいいし良い人だから」
そう言われて俺は幸子と一緒に朝を迎えてそのまま付き合う事になったのだった。
あれから約1年、順調に愛を育んだ俺たちはどちらからともなく籍を入れようかという話になった。
「本当に良いの?あたし再婚の40のオバさんだよ?」
「それを言われたら俺なんか初婚の40のおじさんだぞ?どっちかといえば俺の方が恥ずかしいさ」
俺がそういうと幸子は抱きついてきて。
「ありがとう!昭彦くん大好き!」
と、キスをしてくるのだった。
二人で話し合った結果式はせず籍だけを入れようという話になった。
幸子は顧客の中に少なくないファンが居てしかも軽々しく枕営業や接待でのスキンシップなどを許さない為逆にコアなファンが付いていた。
俺は俺で何故か年上のおばさまがたから人気があり社内や対外的には結婚する事を広める必要は無いかという結論になったのだ。
もちろん会社には報告するが重役や人事以外には広めないようにしてもらう事にする、一般社員の口からポロっとこぼれる事もよくある話だからだ。
そして決心はしたものの念のため半年間同棲をしてから籍を入れようという話で落ち着いた、年齢が高くなると若い人のように勢いで結婚とはいけないものだから。
そして同棲初日の夜を過ごした後、例の会話になった訳である。
籍を入れるに当たって俺には一件だけ懸案事項があった。
とある女の子と一生のお別れをしないとならないのだ。
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