小休憩

「缶詰割れんでよかったわ」


 夜空のリュックの中に入っていた物で作られたのは、ナポリタンだった。赤味の強い橙色に染まったパスタ、細切りの玉葱と輪切りにされたピーマン、ウィンナー。フォークを使ってそれを口に入れた。美味しい。正直にそう思った。

 太めの麺はもちもちした歯応えがあり、普通のケチャップよりねっとりしたソースがしっかり絡んで、舌触りは滑らかだ。

 しんなりとしすぎない程度に加熱されたタマネギはほのかに甘い。ピーマンのきつすぎない苦みと歯応えが味と食感に変化をつける。少し大きめに切られたウィンナーに歯を立てると皮が口の中で弾けて肉汁が滲み、その旨味に頭が痺れそうになる。そして牛乳とバターも加わった事で生まれる濃厚な甘さと柔らかな酸味。後味が口の中にしつこく居座るのにもっと欲しくなる。

 二口三口食べた日光は、涙を流した。


「あの、泣くほどおいしなかったかな……?」

「ち、違います! こうやって加熱した料理久しぶりに食べたから」


 キッチン家電は一通り揃っているのに、家主が買い込んだ食料は乾き物と非常食中心で、温めて食べる物は「作る手間が面倒」と言って買う事は稀だったせいだ。


「僕ちゃん家では基本出前だったし、パンデミックの挙げ句まさか同居人が増えるのは流石に想定外だよ」


 家主はモリモリ食べながら「次はピーマン入れないでね」と注文をつける。

 風仁はソース焼きそばの方が好きだと思いながら黙々と食べ進める。

 数時間前まで、屍者と物資を狙う武装集団を蹴散らしていたとは思えないほど、和やかな食卓だった。

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