■19: そして夜が降りてくる(F)

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エピソード「そして夜が降りてくる」の断片・プロット

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1053年12月末


例年よりも控えめに行われる祝祭週。

悲しみと、未来への希望。それらを胸に。


そうしたささやかな祈りを邪魔する報せが入る。

同時多発的に各地で巨大なケモノの出現が確認されたという。

法石爆弾を用いて街一つと引き換えに倒したという情報や別の都市ではケモノに制圧され侵食され軍勢が侵攻しているという情報もあった。

ケモノや同化された軍勢が聖都に向かってくることが確認される。

先日の攻撃で消耗しきっているところに最後の抵抗を強いられることになりそうだった。

まだ安全な後方地帯へ、市民を航空機で避難させることになる。


決戦前夜の空気が漂ってくる。




壁外の滑走路から避難の第一便が出発するが、離陸後すぐにコントロールを失い、墜落してしまう。避難民の中に変異者が混じっており、機内でケモノ化し、乗員を襲った結果、墜落に至った。

避難は中断を余儀なくされる。

それだけでなく、非難するために集まった市民の中から、ケモノへ変異するものが現れ、現場は混乱する。飛行場は「師団」の警備で固められており、すぐに対処される。しかし、広がった動揺と混乱は完全には静まらず、都市に戻ろうとする者たちも出てくる。




同刻

都市内各地でケモノが出現。

市民が突如ケモノ化し周囲の人間を襲い、街を破壊している。終末論者や暴徒も便乗して暴れている。


「学校」内でも、人間がケモノ化するのが確認される。

先日の事件の傷が癒えていない者もいて、聖女や警備員の全員が全員戦える状態ではない。それでも、各々ができることをしようと動き出す。




外からも、脅威がやってくる。予測されていたケモノの軍勢が聖都圏内に到達。

多くは外郭要塞の砲撃や銃撃によって倒されるが、ケモノをすべて倒すには至っていない。普段であれば、退くはずだが、ケモノ側も正気を失っているような、強烈な意思によって突き動かされているような様子で進撃を続けている。

要塞や副壁に張りつき、鉄条網を乗り越えようとしている。

防衛線には到達されてしまったが、まだ守備隊が有利。後方には、車両隊や副要塞が控えている。

そこへ、特異なケモノが現れ、光線で攻撃する。要塞を破壊し、数キロメートル離れた都市壁にまで穴を開けるほどの威力。

崩された要塞から、軍勢が侵入。

ケモノと、「師団」の部隊との交戦が始まる。厳しい戦いだが、師団側の神器兵や派遣された聖女の力もあり絶望的な状況にはなっていない。しかし、それでも何体かの中・上位種を通してしまう。


一部に穴を開けられてしまったが、全体を見ればまだ前線は維持できている。苦しいながらも、なんとか持ちこたえられそうな、幾許かの余裕もある。しかし、それもすぐに崩れることとなる。


突如として、空に強大な球体が現れる。

その球体の周囲の空間からは色が消えたように見えている。

球体の下部が波打ち、そこから女性の半身が“地を仰ぐように”垂れ下がった。

球体の影が落ちる地面は漂白され、白い花が地面から水が湧くように、溢れるように生え、その範囲は広がっていく。


「月の書」に記述のある最後のケモノ。「天月の獣」と名付けられた最上位個体と推測される。


――

推定「天月の獣」の姿は、電波塔に登って周囲を見回していたリルとゲルトルードからも見えた。

ケモノを見て、リルの目の色が変わる。

リルは呟く、「姉、さん?」と。

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