■17: 方舟の騎士(F)
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エピソード「方舟の騎士」の断片・プロット
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1053年12月
「学校」襲撃同時刻
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構内・地下
地下の空間には、一本の巨木。その枝葉が天井を埋め尽くしている。さながら庭園のように、地面には色とりどりの花が咲いている。
その花園に、少女の幻影たちが戯れている。
一部の関係者しか存在を知らない「聖域」。
聖域の大樹の前に、黒衣の少女「残響」が佇んでいる。涙を流している。
そこへフランツィシュカが姿を現す。フランツィシュカは、残響への殺意を隠しもせず、それでいて手を出さないように抑えている。
「ここで何をするつもりだ」
「今日は挨拶に来ただけ、やり合うつもりはないわ」
「それこそ何の冗談だ?」
「わたしたちはわたしたちを取り戻しに来たの。……奪われていたものを取り戻すのは、いけないことではないでしょう?」
「それなら、こっちもお前に奪われたものを還してもらう」
「この身体のことなら、あなたの誤解だわ。それに、あなたの主張が正しかったとしても、元々の持ち主はわたしたち。あなたたちはこの樹の記憶を継ぎ接ぎした作り物にすぎない。それがどうして、持ち主に返せなんて言えたものね」
「そんなことはわかってる。聖樹が神器兵を作るのに必要な聖遺物だってことも、自分たちが大昔の人間の外見や記憶をもとに作られていることも、神器兵だけじゃなくケモノもこれから生み出されたってことも。――だからどうしたって? そんなことはどうでもいい。全部ぶち壊してでもお前を殺せれば、それで」
「乱暴ね。そっちのあなたはそれでいいのかしら」残響は、姿のないもう一人の聖女へ尋ねる。
「ええ。たとえ、わたしたちが間違いだとしても、愛する者に最期まで付き従うと決めたから。それに、わたしはわたしそっくりの存在が悪事を為すのを黙って見ていることはできない」
「いい話ね、感動的。――でも、わたしたちを悪と断じるのはいただけないわ」
「悪を、罪を為さずに生きる者なんて、いない」
フランツィシュカは、胸のケルト十字に似たデザインのペンダントを触れる。呼応するように発光する。
残響は、上の方を見る。
地上では、都市外の作戦に派遣されていたウルリカたち主力が帰還し、介入を始めている。
それを察知。
「さて、時間切れね」
フランツィシュカは、姿のない聖女とこそこそと話している。
「――うん、いまやるのか?」
「ええ」
「わかった」
フランツィシュカは剣を抜く。
残響の首筋に、剣が突きつけられる。
残響はニコリと笑い、刃を指で押し退ける。
「――あら、さっきも言ったでしょう? 今日、あなたたちとやり合うつもりはないって」
フランツィシュカは、身体が動かせなくなっていた。重圧に身体が硬直する。
「問答無用でかかってきていたら、あなたたちの目的は果たせたかもしれないけれど、あなたたちはそうしなかった」
残響は、フランツィシュカの胸を、ドアをノックするように軽く叩いた。
「次、会う日を楽しみに。それまで、殺意を研ぎ澄ませておくことね」
すぅっ、と霧のように消える残響。
残響が去り、数拍ののち、フランツィシュカは、膝を屈した。
夥しい汗が肌を濡らす。残響に恐怖を感じた。
虚空に呟く。
「大丈夫、やれる」
◆
ルイーゼとクラウディアを看取ったウルリカ。
残響とアハトの姿を見かけ、彼女たちを追う。
残響はクラウディアの様子を一目見ようと、立ち寄った。
ウルリカは、残響とアハトに刃を向ける。
アハトは残響を庇うようにウルリカの前に立った。自分が殿を務めるからその間にこの場を去ってくれ、と言うように。あるいは、単に強者と一対一で戦いたかったのか。
「そうね、彼女はここで死んだほうが今後の計画の邪魔にならないわね。もし、あなたが彼女を殺せなくとも負担はかけられる。でも気をつけなさい。アレはもう壊れてる」
残響はアハトの頭を撫でる。
「今日までご苦労さま」
そう言い、残響はどこかへ去っていった。
ウルリカは、去る残響には一瞥もくれなかった。敵勢力の重要人物であることはわかっていたが、すでに興味はなくなっていた。この場には、もっと大事なことがあるからだった。かつて、リルに手傷を負わせた相手。それが目の前にいる。
「どうも、その姿のあなたとお会いするのは初めてですね。ずいぶんと醜い姿になりましたね。――それを言ったらわたしもですが」
口元を押さえ笑うウルリカ。目が怪しく光る。胸のあたりから薄紫色の炎が、薄っすらと透けている。
「その節は後れをとりましたが、あなたはもう人ではありませんから――」
言い終えるや否や、ウルリカの姿がかき消える。
アハトが動く。瞬間的に、薄っすらと積もった雪と、降る雪とが蒸発する。
ウルリカを迎えうとうとするアハトの腕が、斬り落とされる。同じ瞬間、アハトの首にも赤い筋が刻まれた。
その首が落ちるよりも早く追撃。今度は縦に全身を両断する。
瞬殺。
アハトを倒したウルリカ。しかし、その場で倒れ、意識を失ってしまう。
大規模作戦で疲労が溜まっていたところに、連戦で強い負荷をかけてしまった。
ウルリカは、このまま一週間ほど目を覚まさないこととなる。
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